第245話 再会

「アイル~! やっと帰って来たんだね! アタイいつ会えるかわからないから会いに来ちゃったよ~!」



 匂いでギルドに入る前から気付いていたのか、ギルドに足を踏み入れた瞬間『アウローラ』のパメラが私を抱き上げた。

 さすが豹獣人、ホセにすら反応させない素早さだった、要塞都市エスポナで見かけなかったと思ったらこっちウルスカに来てたのね。



「パメラ…! 久しぶり、元気だった?」



「うんうん、アイルが治してくれたお陰さぁ! アイルがウルスカから来てるのは知ってたからさ、エスポナより仕事しやすそうな森もあるって話も聞いたし、いっそ拠点変えちゃおうかって皆で話し合ってさ~」



 パメラは驚く私を抱き上げたままマシンガントークを繰り出した。

 『希望エスペランサ』の皆は害が無い相手だとわかると私達を放置してカウンターへと報告に行ってしまった。

 ガブリエルだけは留まっているが、私が嫌がったり抵抗したりしてないせいか焦れた様子だが大人しく見守っている。



 パメラの行動に呆気にとられていたギルド内の冒険者達は、リカルド達がカウンターへと歩き出すと同時に「おかえり」と口々に声を掛けてくれた。

 その中には「上手いことやりやがって」「最初に俺達が見つけてれば」など悪意のあるものも混ざっていたが。



「それにしても砦のエルフ以外にもエルフの知り合いがいたんだね」



「知り合いじゃなくて友人だよ!」



 パメラは私を手放さず、ギルドの酒場へ移動して私を膝に乗せて時々頬擦りしながら話を続けている。

 当然の様にガブリエルもついて来たのでパメラが興味深そうに言うと、即座にガブリエルが反論した。



「あははっ、そうかい、そりゃ失礼。あんたエルフにしちゃ感情豊かだねぇ」



「そう? 他のエルフも話せば感情豊かだったよ、慣れてないと素の感情を見せない様にしてるかもしれないけど」



 ハニエルなんてアリエルが絡むとすっごくわかりやすかったもんね、だけどラファエルは最初感情を抑えている様に見えたかな。



「長く生きてるエルフだと多少の事じゃ動じなくなるからそう思われてるんじゃないかな? 私もあと300年くらい生きたら感情が出にくくなるかもね、若い世代はそんな上の世代に憧れて沈着冷静を装う時期があるんだよねぇ…」



 そう言って懐かしそうに目を細めるガブリエル、もしかしてラファエルって…い、いけない、笑っちゃいけない、咄嗟に息を止め、腹筋に力を入れて笑いを堪えた。

 そうか…、ラファエルってそういう時期だったのか、次に会った時に笑わずに対応できるかなぁ…ぷぷっ。



「アイル、ガブリエル、ギルマスが呼んでるから行くぞ」



「はぁい、パメラはウルスカに拠点を変えるならいつでも会えるよね? ギルマスが呼んでるみたいだからもう行くよ、またね!」



「うん、次はもっとゆっくり話そうじゃないか」



 パメラの膝から降りて皆の元へ向かおうとしたら、すれ違いざまに頭にぽすっと手を乗せられた。



「俺とも後で話してほしいんだけどな、お嬢さん?」



 振り返ると運命ディスティーノ商会のミゲルと同じ色合いの…え~と、そう、エンリケだ!

 タリファスの王都で同室になって、私がホセに投げた流れ枕をぶつけてしまった人だ。



「久しぶりだね! 赤鎧の時期が終わったら移動するって言ってたもんね、こっちに来たんだ」



「アイル、行くぞ!」



「はぁい! エンリケ、また後で!」



「うん」



 ホセに呼ばれたので挨拶もそこそこに一旦離れた、何だか他の土地で縁があった人達と再会するのって嬉しくなっちゃう、後でお話し出来る時間があると良いなぁ。



 そしてギルド長室では何故か緊張した面持ちのディエゴが。

 既に私が賢者だという事は知っていた訳だし、知ってからも普通にしてたから今更緊張してる…なんて事は無いだろう。



「あ~……とりあえず大氾濫スタンピードの討伐お疲れさん。まぁ、お前ら的にはその後の方が大変だったんだろうけどよ」



「大変だった事は間違い無いが、セゴニアからも王侯貴族からの命令は拒否出来るという許可証を手に入れたから問題は無いさ。で、何があったんだ?」



 あ、やっぱりリカルドもギルマスの様子がおかしい事に気付いていたのか。



「うぅん…、すぐに会う事になると思うが…、はぁ。……教会本部から大司教が来ている」



「「「「ハァ!?」」」」



「え? ちょっと待って、何!? どういう事なの!? 何で皆驚いてるの!?」



「たぶん思ったより大物が来たからじゃない? 大司教っていうのは1番偉い教皇の次の位だからね、賢者でもアドルフしか治癒魔法使えなかったのに、アイルは欠損も治せる上に女性だから聖女として迎えたくて必死なんだろうねぇ」



 教会の人が来るだろうって事は前に話した事あったのに、どうしてそんなに驚いてるのかわからず聞くと、唯一驚かなかったガブリエルが教えてくれた。

 バチカンで言うところの枢機卿すうききょうと同じらしい、確かに大物だ。



「それって私に会いに来たっていうのは確定なの?」



「ああ、アイルの事を根掘り葉掘り聞いてきたからな。とりあえず俺が個人的に聞いた事は言って無いが、他の奴らも知ってる事は教えておいたぞ。今は貧民街スラムの教会に身を寄せているはずだ、町の中心にあるデカい教会からお迎えが来てたのに、孤児院の子供達からアイルの話を聞きたいからと行っちまったよ。人として好感は持てるが……変わり者だとは思うぜ」



 変わり者の大司教か…、とりあえず変態じゃなきゃいいかな。

 とりあえず今日会わなきゃいけないって訳じゃ無いよね、だったら優先すべきは今日の祝杯だ!

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