第138話 本日の予定
ミランダは成人後にリカルドが常連だった娼館の元娼婦で、リカルドはそのお得意様だったらしい。
あの店は2階が連れ込み宿になっているので働いている女性は酌婦兼娼婦で、娼館を引退したトウのたった元娼婦が多いんだとか。
以上、起き抜けにエリアスがリカルドがトイレに行った隙に説明してくれた内容です。
「ああ、やっぱり。それならあの態度も納得だね」
「あれ? ヤキモチは焼かないの?」
「何で?」
ミランダに関しては女として見下された感があってムカついたけど、過去にリカルドが連日通おうが居続け(遊郭で連泊すること)しようがリカルドの自由だろう。
「なぁんだ、昨日は何やら火花が散ってた様に見えたから期待したのに…。あ、やめて、そんな目で見ないで」
ふざけた事を言い出したのでチベットスナギツネの様な目で見てやると両手で顔を覆ってしまった。
昨日思いっきり事を荒立て様としたエリアスが悪いんじゃない、凄く楽しそうにしてたもんね。
そんな遣り取りをしていたらリカルドがトイレから戻って来た。
「お、アイル起きたか」
「おはようリカルド、昨日寝ちゃってごめんね、重かったでしょ」
ちゃんと覚えているので言われる前にちゃんと謝る私偉い。
「はは、ホセに比べたら軽いもんだ」
「あ~、そういえばアイルに会う前は僕とリカルドでビビアナとホセを担いで帰ったりしてたよね。今じゃ家飲み以外でホセが潰れるところは見なくなったけど」
「目ぇ離したら何するかわからねぇ奴が居たら潰れてられねぇだろうが」
ムッツリとした顔でベッドの上で寝転ぶホセが口を挟んだ、だから前はホセが説教される立場だったんだね。
人の事言えないじゃないかとニヨニヨしたままホセを見たら枕が顔面に飛んで来た。
「わぶっ」
「ったく、考えてる事が丸わかりなんだよ」
「もうっ、自分に都合が悪いからって投げないでよ!」
「甘いな」
「うわっ」
アンダースローでホセの顔面を狙って枕を投げたが、ホセは腹筋を使ってヒョイと起き上がり華麗に避けた。
そしてその隣のベッドに居た知らない冒険者へと流れ枕が当たってしまった。
王都の宿屋は冒険者だけでなく色々な人が来るから充実している、今回は大部屋か全員1人部屋しか選べなかったので大部屋にしたのだ。
となると当然相部屋という事になるので他の冒険者も居る。(商人はお金や商品を持っているので個室を使う)
一応ベッドとベッドの間にカーテンが引ける様になっているが、女性が着替える時くらいしか使われない。
「ご、ごめんなさい」
「あはは、元気なお嬢さんだね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
ニコニコと態々枕を手渡ししてくれた20歳くらいの青年はトレラーガのミゲルと同じ色合いでオレンジの髪に茶色の目をしていたので何だか親近感を抱く。
「お嬢さんのパーティは皆仲良さそうで良いね~、先週ここに泊まってたパーティはギスギスしてて部屋の居心地最悪だったんだ」
「うわぁ、それは大変だったねぇ。ウチは皆仲良しだよ、そりゃ…たまに喧嘩というか、叱られるというか、お説教されるというか…」
説明しながら段々声が尻つぼみになってしまう。
「ははっ、お説教されるって事はそれだけ大事に思われてるって事さ、だろ?」
青年は笑顔を『
「そんなの当たり前じゃない、ねぇ、ホセ?」
ビビアナが揶揄いを含んだ笑みを浮かべてホセを見た、基本的に私の説教係はホセだもんね。
「仲間なんだから大事に決まってんだろうが」
ホセはゴロリと寝転んだ状態で向こうを向きながら言い捨てる様に言った、照れてる!?
照れたせいでツンが発生してるの!?
いけないと思いつつ揶揄いたい欲求が高まってしまった。
「ホセ! 照れてる!? 照れてるの!? 私のコト大事に思ってくれてるんだね、嬉しいよ!」
ホセが顔を向けている方に走って回り込み、顔を覗き込むとちょっと頬に朱が刺した。
「ああそうだよ、大事だよ、嬉しいかコイツ!」
ベッドに引き込まれ、ヘッドロック状態で頭をワシャワシャと乱暴に撫でられた。
「あひゃひゃひゃ、嬉しいよ~、私も皆が大事だもんね~」
「ははっ、本当に仲良しだね。俺はソロでやってるBランクのエンリケ。ここ暫くはこの部屋のヌシってくらい滞在してるんだ、よろしくね」
そう言ってエンリケは迷わずリカルドに握手を求めて手を差し出し、リカルドもその手を握り返す。
「俺達はパルテナを拠点にしているAランクパーティの『希望』だ、俺はリーダーのリカルド、あの戯れているのがホセとアイル、こっちの2人がエリアスとビビアナだ、明日には王都を離れる予定だがこちらこそよろしく」
「へぇ、パルテナかぁ…。今度はパルテナに行くのもアリかな、ソロで身軽だから色んな国を渡り歩いてるんだ。タリファスも2年以上居るからそろそろ移動しようと思ってたとこなんだよ」
「あっ、じゃあ赤鎧の生息場所とか知ってる!? 今って獲りやすい!?」
ホセの拘束から抜け出し、リカルドとエンリケの間に顔を出して聞いた。
「「ぶふっ」アイル、頭が凄い事になってるぞ」
2人に笑われてしまった、確かにホセにグシャグシャにされたから鳥の巣状態ではある。
手櫛でササッと髪を解くとすぐに元通りになる、ストレートヘアなので寝癖みたいに頑固なクセじゃなきゃコレで問題無い。
「で、知ってる!?」
「あ、ああ、冬季産卵で産まれたヤツらが下流に流れて川を上がって行く頃だからね、川を遡れば居るさ。アイツら生き残る為に魔物の弱い下流に一旦流れてくるんだよ」
私の勢いに押されつつもエンリケは教えてくれた。
「やったぁ! ありがとエンリケ! リカルド、行くよね!?」
「ああ、どうせなら鮮度が良いのを食べたいんだろ?」
「その通り! リカルドわかってるぅ」
私以外の3人も期待の籠った目でリカルドを見たので、苦笑いしつつも了承してくれた。
これで今日の予定は蟹漁(?)に決定!
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