第434話 移動先決定

「コホン、…アイル、1人だけならそうはならない…と?」



 ミカエルが咳払いをして聞いて来た。



「そりゃあ…、1人だけならたまたまそんな人だと思うだろうけど、3人揃ってだったら言い訳出来ないよ。外を知ってるウリエルに聞いても同じ事言うと思うけど、ね、エリアス」



 ガブリエルは変わり者にカテゴライズされてるだろうから参考にはされないだろうと思い、昔から外の世界を見てきたウリエルの名前を出しておいた。



「確かにね、他の国に宮廷魔導師として売り込めば喜んで迎えてくれるだろうから別々の国に行くという手もあると思うよ。例えば僕達の住むパルテナもエルフであるガブリエルは魔導具研究所に所属してるから宮廷魔導師は不在だし」



「そっか、だったら1人はガブリエルが王様に紹介しちゃえば? パルテナならラファエルさえ良いって言えば落ち着くまでガブリエルの王都の屋敷に居候させてあげるとか出来るもんね。3人の内で誰か魔導具に詳しい人が居ればガブリエルの助手にしてウルスカに連れて行けたけどねぇ、そうすれば全員バラけるし」



 さっきまで睨み合っていた3人が期待した目でこちらを見ている、視線の先はガブリエルだ。



「あ~…うん、フェヌエルとカマエルは魔法が得意だから宮廷魔導師としてもやっていけると思うけど…タミエルは魔導具に興味無かったよねぇ?」



「そんな事は無い、壊れた魔導具の修理くらいならやっているしな」



 タミエルと呼ばれたエルフは、1人だけ里の外に行けなくなりそうな状況に目を泳がせながら答えた。



「ああ、そういえば最近はタミエルが修理を担当してくれていたな」



 ミカエルがタミエルの言葉を肯定すると、あからさまにホッとしている。

 そんなに娼館に行きたいの!?



「へぇ、タミエルがねぇ。あの時魔導具にのめり込んだ私を馬鹿にしていたのに」



「ガブリエルが居なくなってから置いて行った魔導具が壊れた時点で初めて必要な物だと認識したんだ」



 ジトリとした目を向けるガブリエルに気まずそうに答えるタミエル、便利道具に慣れてから無くなるとそう思うよね。

 特に調理器具の魔導具は無かったら困るくらいだし。



「ふぅん、だったら私の助手として来ても良いけど…人族が先輩になるよ? 他の種族を見下した態度を取るなら帰ってもらうからね」



「わかっている、以前は寿命の短い種族の発展など大した事は無いと思っていたが…、今はエリアスの講義を聞いて閉じていた目が開いた気分だ。エルフはただ長く生きているだけで、人族の方が自らを発展させようと努力しているのだと思い知らされたからな」



 御大層な事言ってるけどそれってエリアスの講義で思ったんだよね?

 夜の文化でそんな感銘を受けられてもこちらとしては微妙にリアクションしづらいよ。



「話はまとまった様だな。うん? どうしたイェグディエル、……妖精が?」



 ポソポソとイェグディエルが何か言ったかと思ったらミカエルが聞き取り、驚きに目を見開き私の方を見た。



『やっぱりイェグディエルは気配察知能力も高いね』


『ミカエルはもっと近付かないと気付かないものね』


『ちょっと見ない間にイェグディエルの寿命が近付いていたんだね、随分としおれてきてるじゃないか』



「ぅわっ!? あなた達ついて来てたの!? 世界樹から離れても大丈夫?」



 いつの間にか私の近くにさっきの3体の妖精達が飛んでいた。



『大丈夫だよ~、世界樹の障壁の中ならどこに居ても問題無いからね』


『何だかエルフが増えそうな話してたけど、さっき叩いた男のおかげ? エルフの恩人に悪い事しちゃったかなぁ?』



「あ、それは問題無い、当然の事だから」



 キッパリと言い切っておいた、どうせイェグディエルとは離れているし、妖精達の声を聞いてるのは私だけだもんね。



『それにしても娼館に行くエルフなんて前代未聞じゃない?』



「あなた達娼館なんて知ってるの!?」



『当たり前だよぅ、3本の世界樹でこの世界を網羅もうらしているんだよ? どうして世界樹の名前が樹って名前だと思ってるのさ』


『そうだよ、ここの世界樹の根が張ってる場所の情報は全て僕達に共有されるんだよ』



「へぇ~、世界中に根が張ってるから世界樹って名前なのかぁ。ていうか、世界樹って3本もあるんだね」



「アイル」



「ん?」



 ガブリエルに呼ばれて振り向くと、長老達と娼館に行きたい3人がポカンとしていた。



「3人の話が先に出たせいでまだアイルとエンリケが妖精が見えて話せる事言って無かったから皆驚いちゃってるよ。しかも世界樹が3本あるって本当?」



『本当だよ。基本的に2本だけど、常に予備として3本目が存在してるんだ』



「だってさ」



「いや、だってさって言われても僕もガブリエルも妖精が何言ってるか聞こえないからね? 僕なんて姿も気配もわからないんだから」



 エリアスが凄く呆れた目を向けて来た、わかってるけど妖精達が言ってる事を説明するのが面倒なんだもん。

 聞くと同時に翻訳して話している通訳さんの偉大さを実感するよ。



「えっと…、2本でいいけど予備が1本あるんだって」



「ふむ、イェグディエルは3本目の存在を知っていたのか。それにしてもアイルはともかく、エンリケという者はなぜ妖精の姿が見えたのだろうな…」



 ミカエルがイェグディエルの話し声を聞き取り頷いた、そして顎に手を当て考え込む。



「そりゃあエンリケがr「ガブリエル!? 今何を言おうとした? ん?」



 今絶対竜人って言おうとしたよね!?

 咄嗟とっさにガブリエルの口を手でふさいで貼り付けた笑顔で迫った。



「もごぉ…(ごめん)」



 私のいきなりの行動に首を傾げるミカエル達をよそに、私とエリアスは重いため息を吐いた。

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