第284話 原因

エロくない下ネタあり、飲食注意。


◇◇◇


 飛翔魔法で船を追いかけた私は数分後に目標を見つけると、速度を緩めてその突っ込んだ。



「ぅわっ!?」



「裏切り者ォ…」



 エンリケの背中におんぶの様に張り付くと、地を這う様な自分が出せる最大限に低い声で耳元でうなる。

 速度を緩めたとはいえそれなりの勢いで突っ込んだが、竜人なだけあって蹈鞴たたらを踏んだだけで持ちこたえた。



「あはは、それは説明したじゃないか。戻って来たって事は解決したのかな? お疲れ様!」



 背中にくっついたままの私の頭を笑いながら撫でるエンリケ。

 しかしそのくらいじゃ今回の事は誤魔化されたりしないのだ。



「考えてみれば隠蔽魔法使うとか、エンリケ1人じゃなく私と2人で行けばいくらでも誤魔化せたよね…? 凄く怖かったんだよ? 酷いよ、コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カァ~…」



 他の人に聞かれない様に耳元でグズグズと文句を言い、最後に喉を絞った苦しげな声で訴えると、掴まっていた肩がガクリと落ちた。



「……わかったよ、今回の事は貸し1つって事で「3つ」



「ふた「3つ」



「………はぁ、わかった」



 被せる様にキッパリ言い切って譲らない私に、エンリケは諦めた様にため息を吐いた。

 交渉に勝った私はエンリケの背中から降り、カリスト大司教達に戻った事を知らせる為に船室に向かった。

 飛翔魔法で飛んで来たせいで甲板に居た人達から遠巻きに凄く見られていたしね。



「アイルです、戻りました」



 ノックと共にそう告げるとすぐに扉が開いた、カリスト大司教の部屋が広いとはいえ、エンリケ以外全員居たから狭く感じる。



「アイル様、お帰りなさいませ!」



 ドアを開けたのはカリスト大司教本人で、どうやら私を待っていてくれた様だ。

 心なしか皆が疲れている様に見えるのは気のせいだろうか。

 エンリケもアルビナが見えた以外の事をひと通り何があったのか説明してから『希望エスペランサ』のメンバーは男性陣の4人部屋へと移動した。



「何か皆疲れてる様に見えるんだけど、何かあったの?」



「ああ…、お前を残したまま出航した事を知ったカリスト大司教が船を戻させるっつって操舵室に乗り込もうとしたんだ。聖騎士の3人は止めようとしねぇし、オレ達で魔法で追いつけるから大丈夫だって説得してよぉ」



「うふふ、出航してからアイルが残った事をエンリケが皆に説明したものだからカリスト大司教がエンリケにお説教始めちゃったのよ。興奮しちゃうからエンリケだけ部屋から出してあたし達で宥めてたってわけ」



「そうそう、もしもアイルがお婆さんに同情して島に残ると決めてしまったらどうするつもりなんだって言ってね、さっき戻って来てかなりホッとしたんじゃない? もちろん僕達は絶対戻って来るって確信してたけどね」



「皆の荷物も預かってるんだから、そりゃ絶対戻って来るでしょ」



「荷物なんて預けてなくてもアイルは俺達に黙って居なくなったりしないだろ?」



「まぁね」



 グリグリと少し強めに頭を撫でられた、うむ、やはりリカルドの撫で方が1番しっくりくる。



「後は2日後に島に1泊したらそのまま次の大陸だねぇ、この船に乗った国に比べたらかなり涼しいらしいから早く到着するといいなぁ。アイルに加工してもらった外套がいとう着てると涼しいけど、周りから変な目で見られちゃうからねぇ」



「確かにオレら3人で歩いてた時、かなり怪しい一行だったからな」



「そっかぁ、じゃあ到着したら秋って事かな、色々と美味しい季節だから食材も良い物仕入れられそうだね! 秋刀魚さんまがあると良いなぁ、イカの煮付けで結構使っちゃったけど、大根おろし用に辛く無い上の部分はちゃんと残してあるもんね~、冬に大量に大根買っておいた私偉い」



 うんうんと1人で満足して頷いていたら皆から何とも言えない視線を向けられていた、まるで残念な子を見る様な目だ。



「アイルは相変わらずアイルだねぇ、初めて行く大陸で最初に思うのは文化の違いとかじゃなくて季節の美味しい食べ物なんだもん」



 エリアスが爽やかに微笑みながら嫌味を言ってきた、しかしそんな程度で私はムキになったりしないのだ。



「うふふふ、食いしん坊達を満足させる為にいつも食事の心配してるせいかもしれないね。異世界文化は全て初めてだから実際に触れてみないとわからないから予測しても無駄だもの」



 秘技、微笑み返し!



「その食いしん坊の中に自分も入ってんだろうが、まるで自分は違うかの様な物言いだなぁ?」



 そう言ってホセがニヤリと笑った、私の微笑みがピシリと固まる。



「わ、私は皆程たくさん食べてないからね!? ホセに食いしん坊扱いされるなんてウンコに臭いって言われる様なものだよ!?」



「誰がウンコだてめぇ!!」



「「「「ぶふぅっ」」」」



 以前友達から「あんたにボケてるって言われるのは…」と同じセリフを言われた事があったので、いつか誰かに言ってやろうと温めていたものが言えてちょっと嬉しい。

 しかし言われたホセは怒って立ち上がり、他の4人は吹き出した。



「ホセ、別にアイルはホセをウンコって言った訳じゃ…ぐふぅっ」



 エリアスが宥めようとしたが途中で吹き出した、そういやこんな小学生みたいな下ネタ孤児院の子供たちですら言ってなかったから耐性が無いのかもしれない。

 ビビアナ障壁バリアにより事なきを得たが、その日1日皆はホセを見るたび笑いを堪えてプルプルしていた。

 私の言葉じゃなくてホセの言葉が原因だと思うからその度に睨むのはやめて頂きたい。

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