第269話 ここにもフラグ建築士

 ウルスカを出てから約ひと月後、私達は交易船が行き交う港町へと来ていた。

 道中では飲めないとホセに指摘されながらもストックだからと言い張って途中の王都で買い込み、麺類等も買い占める勢いで購入した、これで大海原へ繰り出す準備は万端ばんたんだ。



「初めて行く大陸かぁ、楽しみ~!」



「ははは、途中で川釣りで有名な村もあるので立ち寄りましょう。そこの魚は泥を吐かせなくても美味しく食べられるので、近くの町や村からも釣り人が来るのです」



「カリスト大司教も釣りをするんですか!?」



「はい、その村に行った時はしますね。とは言ってもそこの魚は釣り人に慣れてしまってるので釣り糸を垂らして少し離れた所で掛かるのを待つという釣り方をするので殆ど運任せなのですよ」



「それはそれで運試しみたいで楽しそう! その村へ到着するのが楽しみだなぁ」



 ここから1週間船に乗って、初めての大陸に到着したら、ひと月はまた馬車で移動して、また2週間程船に、そして3日陸路を通ってまた1週間程船にのって乗ったらやっと教会本部だそうな。

 それを聞いた時は開いた口が塞がらなかった、だって私に会う為だけに偉い立場のカリスト大司教が来てくれたというのだから。



 今から乗る船は100m以上の大きな船で、お店や食堂はもちろん、海釣り用の釣竿もレンタルしているらしい。

 タリファスに行く時は湾になってる内側を通過しただけだったが、今回は外洋に出るので大きい船じゃないと波に耐えられないんだとか。



「海にはこの船より大きな魔物も居るそうですよ、とは言っても最後に目撃されたのは100年以上前なので本当かどうか怪しいんですけどね、ははは」



 船を眺めていたらオラシオが冗談めかして言ったが、それは盛大にフラグを打ち立てたとしか思えない発言だ。

 既にフラグの概念を教えた『希望エスペランサ』の面々はオラシオの言葉を聞いて固まった。



「オラシオってフラグ建築士ってやつだったんだね、聖騎士だと思ってたよ…」



「え? は? 聖騎士ですよ!?」



 エリアスに残念なモノを見る目を向けられて動揺するオラシオ、リカルドは顳顬こめかみを人差し指でグリグリしながら目を瞑り、眉間に皺を寄せている。



「とりあえず船に乗ってる間は交代で見張ろう、当然夜間もだから順番を決めないとな。人数が増えた上にずっと船だから2人1組で3日に1回交代にするか、夜番は昼寝しておけば一晩起きていられるだろう?」



「「「「「賛成」」」」」



 リカルドの提案は全員一致で決定した、毎晩チマチマ起こされるより、昼寝出来るなら一晩完徹の方が気が楽だし。

 索敵能力の関係でリカルドと私、ビビアナとホセ、エリアスとエンリケのペアに決まった。



「ははは、頼もしいですねぇ」



 キョトンとするオラシオの隣でカリスト大司教はニコニコと私達の様子を見ていた。

 その後、船に乗って3日経ったが異変は無い、時々小物の魔物が現れたが船の持ち主に雇われている冒険者が難なく撃退出来ている。



 船上では今夜の当番のエリアスのとエンリケ以外の4人が海釣りを楽しんでいた。

 ところが他の3人は結構釣れているのに私の釣果ちょうかは坊主…つまりゼロだ。



「もうお前諦めてあっちのに行ったらどうだ?」



 そう言ってホセが親指で示した先にはお子様用の釣り堀生け簀が。



「キィィ~! 絶対釣るもんね! ホセよりも~っと大物釣るんだから!」



 私は擬似餌ルアーが先に付いている釣竿をブンブンと上下の動かした、その途端いきなりググッと負荷が掛かる。



「来たっ、ヒット!! お、重い…! コレめちゃくちゃ大物だよ!! 『身体強化パワーブースト』! うおぉぉぉッ!!」



 油断しなくても海に引き摺り込まれそうになる程強い引きに、身体強化を使って雄叫びを上げる私。

 必死になっている私は海面を覗いて固まっている仲間達に気付かなかった。

 そしていきなり釣り糸が切れて尻餅をついてしまい、慌てて海面を見る。



「「「「……………」」」退避ッ、魔物が出たぞ!! 船を退避させろ!!」



 真っ先に正気に戻ったのはリカルドだった。

 海の中に見えたのは船と同じくらい、足の長さの分船より大きいダイオウイカの様な赤黒い魔物の影。



 船の護衛をしている冒険者達がすぐに駆けつけたが、初めて見る巨大な魔物に短い悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。

 そして魔物の足が水面に現れたかと思うと船に巻き付こうとしている様だった。



「『風斬ウィンドカッター』 ここは私に任せてカリスト大司教を!」



 スパッと切れた足が重そうな音を立てて甲板に落ちた、邪魔なので即座にストレージに収納。

 決してイカ焼きの材料ゲットとか喜んでる訳じゃ無い。

 リカルド達は私の邪魔にならない様、外に出ている人達に船内へ退避する様に指示しながら腰を抜かした冒険者を引きずって行く。



 足を切られて怒ったのか、次々と足が海上に出てきた。

 えーと、えーと、タコを締める時は眉間だったよね、イカも同じところともう1箇所あった様な…。

 えぇい、急所は正中線に集中してるんだからあの辺にあるはず!



「『氷柱槍アイシクルランス』」



 水面から見えた眉間の辺りに深々と極太の氷の槍を数本叩き込んだ。

 すると一瞬で赤黒い色が真っ白に変わり、持ち上がっていた足が次々に水面に落ちる。



「ああっ、私のイカ焼きが!! 『氷地獄コキュートス』! 『風斬ウィンドカッター』『風斬ウィンドカッター』『風斬ウィンドカッター』『風斬ウィンドカッター』『浮遊フロート』」



 そのまま海底に沈んでしまいそうな魔物の下に氷の塊を作り出して足場を確保、まずは足だけ切り離して適度な大きさに斬り分けてから浮遊魔法で回収に向かった。

 バラバラになった足をチマチマと回収する、面倒だけど1本ずつ丸ごと収納すると使う時に大変だしなぁ。



 本体はどうしよう、ダイオウイカだと食用に向かないらしいけど、この魔物はアオリイカと同じくらい美味しいみたいだから本体も欲しいけど、こんなに大きいの解体するの大変だよねぇ。

 でも墨袋が破れたら海が汚れて大変だし、一応このままストレージに入れちゃおっと。



「ふぅ、これでよーし!」



 作業が終わって顔を上げると、船は遥か彼方に見えた。

 慌てて飛翔魔法で追いかけた私を待っていたのは、仲間達の呆れた目だった。

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