第442話 エリアスの誘惑

 ディエゴに今回の依頼中に起こった事を洗いざらい報告した、リカルドが。

 冒険者ギルド本部に報告する内容はディエゴが選別してくれるという信頼あっての行動だ。



 そして話を聞いたディエゴは頭を抱えている。

 あ、ああっ、そんなにガリガリ頭掻いたらただでさえ少なくなって来てる髪がまた減っちゃうよ!

 どうやら予想外の話を聞かされてパニック状態の様だ。



 そうだよね、ウリエルに会った事までは理解できるだろうけど、トルニア王国の王子一行に会ったり、世界樹の事はエルフの秘密みたいだから伏せたけど、妖精に会ったりエルフの子孫繁栄に貢献こうけんしたり…そんな事を一気に聞かされたらパニックにもなるだろう。



「はあぁぁ~……。毎度の事ながら遠出すると問題無く戻って来る事がねぇな」



 俯いて肺の中の空気を全て出し切る様なため息を吐くと、ジロリと私をにらんだ。

 そんな目を向けられても私が率先して王子や妖精に会いに行ったわけじゃないもん、エルフの子孫繁栄の件は酔っ払いの私が切っ掛けだったみたいだけどさ。



「だけどパルテナに宮廷魔導師が着任するのは凄く良い事なんでしょ? だったら褒めてくれても良いと思うの」



「く…っ、確かにそうだが理由まで知りたく無かったぜ…」



「まったまたぁ、そんな事言って理由を言わなかったら『一体どうしてそんな事になったんだ!?』とか言って聞いたでしょ?」



「ぐっ、違いねぇ…」



 私の正論パンチに言葉を詰まらせるディエゴ。



「え…何で皆呆れた様な目を私に向けてるの?」



「いやぁ…、アイルがウルスカに来てからディエゴの髪はどんどん薄くなっていってるのは気のせいじゃ無かったんだなぁって…」



「神妙な顔で言ってるけど、絶対面白がってるでしょ!」



 私はエリアスをビシッと指差して言ってやった。



「や、やだなぁ。僕がそんな酷い事考えるって思ってるの?」



 悲しそうな微笑みを浮かべて言ったが、その場の全員が頷いた。



「ほ~らね! ディエゴだってお見通しなんだから!」



 ドヤ顔で胸を張ると、エリアスはフッと穏やかに笑った。

 同時に嫌な予感に背中がゾワリと粟立つ。



「せっかくこっちでは大人しくしておこうと思ってたんだけどなぁ(ポソ)。ホセ、アイルが意地悪言うから今日は外で食べようよ、どうせビビアナにベッタリ甘える姿を見せつけられるだろうし。アイル、ホセと僕の分の夕食はいらないからね」



「え? おい…まぁ良いか」



 何やら独り言を言った後に外食宣言されて、ホセも私がビビアナに甘える姿が容易に想像出来たのかエリアスの誘いに乗って頷く。

 二人の分の食事も作られているだろうけど、残る分はストレージに入れておけば良いから問題は無い。



「飯の相談はギルド長室の外で話せ、もう全て報告が終わったなら帰っていいぞ。王都に向かう時はちゃんと知らせろよ」



「ああ、わかった。皆、帰ろうか」



 ギルド長室を出た私達は依頼を終わらせて戻って来た冒険者達と挨拶を交わしながらギルドを出ると、エリアス達と別れて家へと向かった。







[side エリアス]


「さて、アイル達は帰った事だし…まずは腹ごしらえかな。ガブリエル、タミエル達の宿で一緒に食事するんでしょ? 僕とホセも行くよ」



「本当かい!? アイルが居ないのは残念だけど、賑やかになって嬉しいな、それじゃあ行こうか」



 何も知らないガブリエルは嬉しそうに彼らの居る宿屋へと足を向けた。

 ホセは僕が何かを企んでるのは気付いているっぽいけど、まだ何も聞いて来ない。

 二人が泊まる宿屋に到着すると、既に夕食の最中だった。

 


「せっかく一緒に食べようと思って来たのにもう食べてるのかい!?」



「まぁまぁ、今からでも一緒に食べれば良いじゃないか。夜は長いんだからさ」



 ムッとしているガブリエルをなだめて同じテーブルに着く。

 夜は長いという言葉にホセの耳がピクリと反応した、僕の考えがわかったかな。

 僕達も注文して食事を始める、タミエル達は昔からあるステーキを食べていたけど、僕達はアイルのレシピを使った料理だ。



「その料理は何だ? 見た事が無いぞ」



「コレはチーズハンバーグだよ、細かくした肉をねて焼いたものなんだ。ガブリエルのはチーズを乗せずにソースで煮込んだ煮込みハンバーグだね」



「オレのは生姜焼きってヤツだ。三つともアイルが広めた料理だぜ」



「私達が来てから食べたなら説明してあげたのに、食べたいなら明日以降にするしかないね」



 二人が僕達の料理に興味を持ったのか聞いてきた、僕がハンバーグを説明したらホセがドヤ顔でアイルの自慢をしながら尻尾を振っている。

 ホセってば何だかんだアイルの事大好きだよね、それにしてもガブリエルは先に食事を始めていた事をまだ気にしていたのか。



「さて、食事が終わった後の事なんだけど…」



「食事の後? 家でお酒でも飲むのかい!?」



 食事も終わりに差し掛かり、僕は本題を切り出す事にする。

 ガブリエルが勘違いして喜色を浮かべたが、残念ながらこの後の事はアイルには内緒にしないとね。



「違うよ、娼館に行くのさ」



「しかし…、フェヌエルは到着して一週間は行くなと言われていたぞ?」



 同じく王都に到着して一週間我慢するつもりでいたであろうカマエルが言った。



「それは自発的に行く場合でしょ、今回は僕達が誘って案内するんだからエルフに対する印象とか関係ないよ。それに王都の娼館にアイルが教えた技が伝わってるか微妙なんだよね、途中のトレラーガまでは確実に伝わってるのは知ってるんだけどさ」



 ふふふ、ウルスカに住む予定のタミエルはともかく、王都に住む事になるカマエルとしては聞き捨てならないよね?



「食い終わったら行こうぜ、ガブリエルも行くか?」



 ホセがガブリエルに対して意地悪くニヤリと笑った、エルフの里で僕の講義を聞いたから全く興味が無い訳じゃ無いと思うんだよね。



「………いや、私はやめておくよ」



「そっか、行きたい時は声掛けてくれたら連れて行くからいつでも言ってよ。今回もだけど娼館に行ったのは僕とホセだけって事にしておくからさ、アイルには知られない方がいいでしょ?」



 少し揺らいだ様だけど、残念ながらガブリエルは行かないらしい。

 食後、ガブリエルは研究所にある自宅に帰って行き、僕達は娼館での立ち振る舞いを教えながら花街へと繰り出した。

 カマエルにはちゃんと王都で色々広めてもらわないと…ね。

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