第89話 寝酒
タイチは家訓の様に賢者サブローの功績を教え込まれるらしく、色々興味深い話を聞かせてもらった。
ガブリエルの出てくる話もあってラファエルも興味深く聞いていたら夕食の時間が迫ってきて、ビビアナはデートがあるからと着替えて出かけて行った。
マフラーを取ると胸元があいた服が露わになるという勝負服に気合が感じられる。
「それじゃあ俺もお暇しようかな、ちょっと店に顔出してくるって言ったまま戻って無いから連れが焦ってるかもしれないし」
「え? 何も知らせずにここに…?」
他国で半日行方不明になるってかなり心配されてるんじゃないだろうか、もしかしてタイチは結構いい加減な性格かもしれない。
ちなみにタイチが産まれる前にサブローは亡くなっていたが、サブローの子供が産まれた時の名前リストが残っていたので日本的な名前がつけられたらしい。
サブローの子孫は基本的にそのリストから名前が付けられるが、なんとタイチでネタ切れになったので最後の和風な名前だと言っていた。
和風な名前から解放されたら賢者の子孫というプレッシャーからも解放されるんじゃないかな。
皆でタイチを見送り、食堂で夕食を摂る事にした。
お土産の新鮮なお刺身はガブリエルもラファエルも喜んでくれた、ラファエルは今朝まで少し様子がおかしかったが、タイチと語り合った事で何だかスッキリした顔をしている。
夕食後に明日は仕切り直して酒屋巡りをする事になったが、ガブリエルが仕事を休めないので少々グズり出した。
「今日は有意義な時間だったけどね? だけど出掛けて一緒買い物した時間はほんの数時間だったじゃないか、私は王都に来てから結構忙しく頑張ったと思うんだよ、だからもう少し休みをとってもいいと思わないかい?」
「ねぇ、もしかしてその休んだ分滞在が延長する事になるんじゃないの? まだまだ掛かるなら私達が先にウルスカに戻ってガブリエルは王都の冒険者に護衛してもらって帰って来るっていうのは「あーっ、そういえば! 君達に話が聞きたいって呼び出しがあった事を言って無かったね!」
私の言葉を遮り、態とらしくガブリエルが手を打った。
「何でもあの犬の性能というか動きについて調べたいらしくてね、実際に闘った君達から直接話を聞きたいんだって。だから君達もまだ王都に居てもらわなきゃいけないんだよ、ごめんねぇ」
ラファエル以外が全員ガブリエルにジト目を向けている、態とらしい話し方といい何かありそう。
そう思っていたらエリアスが口を開いた。
「ねぇ、まさか本当は前から呼び出しがあったのに僕達の滞在を延ばす為の理由にしようと今まで隠してた…なんて事は無いよね?」
「えっ!? いや、そ、そんな訳ないじゃないか…いやだなぁ。えーと、明後日に来て欲しいって言ってたから…その、よろしくね!」
「はぁ……わかった」
あからさまに動揺して目を逸らしながら答えるガブリエルに、リカルドは諦めた様にため息を吐いて了承し、リーダーの決定なので明後日は王立研究所へ行く事になった。
その日の夜は1人でゆったりとお風呂に入った、ビビアナが居ないから少し寂しい。
昼間に泣いたせいか自分でも少し感情が昂ってる自覚はある、今夜はあまり眠れないかもしれない。
就寝時間になってもビビアナは帰って来ないのでデートは順調な様だ。
男性陣がお風呂に入ってる間に家令のおじ様に寝酒をおねだりして用意してもらい、チビチビと独り酒をリビングで飲んでいた。
「お、珍しいじゃねぇか、アイルが寝る前に飲んでるなんて」
「ほんとだね、食事や酒盛りの時以外に飲むの初めてじゃない?」
「ん~、そうかも? なんとなく眠れない感じがするから寝酒をね…」
3杯目に突入したところでお風呂から出たホセとエリアスが来て一緒に飲む事になり、家令のおじ様が2人と、恐らく一緒に飲むと言うであろうガブリエル達の分のお酒を準備しに行った。
「ところでアイル、お前それ何杯目だ?」
「えーと、これは2杯目~。だからまだ酔っ払いじゃないよ」
にひひと笑って答える、だってまだ呂律も大丈夫だし1杯くらい余分に飲んでも大丈夫だよね。
お酒の用意が出来る頃には他の3人も来て一緒に飲む事になった。
「「「「「「乾杯」」」」」」
いつも呂律が怪しくなって酔っ払い判定されるから殆ど話さずに4杯目に突入、私の目論見は成功した。
いつもなら抱き締めてくれるビビアナが居ないので痴漢の如くホセの尻尾をサワサワと撫でながら大人しく4杯目を飲み干す。
「ほしぇ、ねよぉ(ホセ、寝よう)」
「あ?」
ここ暫くホセをモフってない、今日はモフらせてもらうんだ。
ワサワサと手を動かすが硬い筋肉の感触しかしない、一緒に寝る時は獣化してモフらせてくれる約束したのに納得がいかない。
遠くで呆れた様な声や怒ってる様な声が聞こえて、身体がフワフワしたと思ったらモフっとしたホセの感触。
ベッドに運ばれた様だけど眠くて目が開かないから感触を頼りにホセの身体をまさぐる様にモフり、腹毛に顔を埋めてグリグリと擦り付ける。
ビビアナの胸とはまた違う幸せな感触、ふと目を開けると仰向けになったホセの腹毛に埋もれて一瞬寝ていた様だ。
私のフィンガーテクのせいか先っちょが見えてますよホセさん、うふふふ。
そんな事を思った気がしなくもない、断片的な記憶しか無く、そこから記憶が無いから寝てしまった…と思いたい。
朝起きたらホセが居なくて、目を合わせてくれないのに何でも無いとしか答えてくれない、一体何をやらかしたんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます