第489話 『女神の化身』の報告先
「ビビアナ~、もうすぐ帰るから待っててね~!!」
「こら、こんなところで大きな声を出すんじゃない、馬が驚くだろう。それに後ろが
「あっ、はい。ごめんなさい……」
パルテナに到着し、下船した直後に込み上げた心の丈をぶちまけたらリカルドに注意されてしまった。
素直に馬を引いて前へと進む。遅めに降りてきたとはいえ、馬車の人達は特に時間がかかるのでまだ下船していない集団が多い。
馬を引いて石畳で舗装された街中を通り、宿屋街へと向かう。
行きにも泊まった宿屋なので迷う事はない。
「アイル、ビビアナに会いたいのはわかるがその前にエリアス達だろう? まだ俺達はガブリエルの護衛依頼中なんだからな?」
「わ、わかってるよぅ」
公爵領都に泊まった日にビビアナのお腹が動くのを触ったせいか、今日も元気に動いているのかな~とか考えてる内に叫んじゃっただけだもん。
そんな反省してない私の考えを見抜いているのか、リカルドの視線が背中に刺さるのを感じながら宿屋へと足を進めた。
[教会 side]
少々時は遡り、アイルとリカルドが公爵領都の宿屋で夕食を食べている頃。
ボルゴーニャ公爵家から教会へと戻って来たクルス司教とイスマエル司祭はとある相談をしていた。
「クルス司教様、あの事は一応ご報告した方がよいでしょうか」
「うぅむ……。アイル様ご本人は言い間違えたとおっしゃっていたが、私にはうっかり口を滑らせて誤魔化そうとしたようにしか見えなかったのは確かだ」
アイルは誤魔化せたと思っているが、あの場にいた殆どの者が女神の化身であると確信していた。
ただ、本人が必死になって誤魔化そうとしていたから、そういう事にしておいた方がいいのだろうと気遣ってくれただけだったりする。
もっとも、本当に女神の化身であるなら、余計な事を言って目を付けられたくないというのが本音であろうが。
この二人が報告しようとしているのは教会本部だ、しかしアイル本人が否定した事なので、もし本当に違っていたら虚偽の報告となってしまう。
「あっ、ではカリスト大司教様個人の通信魔導具に連絡するというのはいかかでしょうか。本部の公式な連絡と違い記録には残りませんから、万が一本当にアイル様の言い間違いだった場合でも、その可能性がある事も含めてご報告すれば問題になる事もないでしょう。幸い私はカリスト大司教様の個人的な通信先を知っていますし」
イスマエル司祭は名案とばかりに両手をパチンと打ち鳴らした。
各地の教会からの報告は、些細な事でない限り記録される。
しかも本来なら聖女として迎え入れたいアイルの事であれば記録されないという事は絶対に無い。
「確かに……、それが無難だろう。ではカリスト大司教様の通信先が登録されている通信魔導具を持って私の部屋に……いや、イスマエル司祭の部屋にこのまま向かった方が早いな。あまり遅い時間にご連絡してはご迷惑になるだろう」
「はい、では私の部屋へご案内します」
そしてイスマエル司祭の部屋へと移動した二人は、緊張した
「カリスト大司教様、お久しぶりでございます。タリファスのボルゴーニャ公爵領都教会のイスマエル司祭ですが、少々お時間を頂けますか?」
『おや、珍しい。お久しぶりですね、もう
就寝するにはまだ早い時間ではあるが、先日大司教であるウリエルがパルテナの王都経由ではないルートを使い戻って来たので、報告書の作成を今日まで手伝っていて疲れ果てていた。
わざわざ連絡をしてきたという事は、何かあったと予想できるため無下にはできないものの、カリスト大司教は内心早く眠りたくて就寝するところだと匂わせた。
しかし、イスマエル司祭が次に発した言葉に眠気と疲れが吹き飛ぶ事となる。
「あっ、それは申し訳ありません。本日アイル様とお会いしまして、その時の事でご報告したい事があったのですが、また明日にで」『それは本当ですか!? アイル様がタリファスに!? 目的は何かわかりますか!?』
翌日に連絡し直そうとしたイスマエル司祭は自分の話を遮り質問を繰り出すカリスト大司教に、軽い気持ちでアイルの事を聞いたら数時間に渡り語り続けられた日の事が頭を
「もう立ち去られましたが、アイル様はボルゴーニャ公爵令嬢に会いに来ていたようです。そしてせっかくだからと結婚の証人として結婚証明書に署名されました。そしてその時に……、ご本人はおっしゃった後で間違えたと言い直されましたが、その……」
『何ですか!? いいから教えて下さい!』
「め、女神の化身……だと。すぐに使徒であり、ただのお使いをする立場だとおっしゃっていましたが、私もクルス司教様もうっかり本当の事を口を滑らせて誤魔化したように思えました。ですがご本人が否定なさっていますので、正式な報告にするのはどうかと思い、カリスト大司教様に個人的にご報告申し上げた次第です」
『…………………』
「カリスト大司教様?」
『素晴らしい判断です!! 私は巡礼する事にしたのでそちらを訪問した時に改めてお礼を言わせて下さい。報告をありがとうございました、少々忙しくなるのでこれで失礼しますね』
そんなカリスト大司教の言葉を最後に、通信魔導具から仄かな光が消えた。
しばらく二人は呆然としたまま言葉を発しなかったが、イスマエル司祭が先に口を開いた。
「クルス司教様、カリスト大司教様にお伝えしたのは本当に『素晴らしい判断』だったのでしょうか……」
イスマエル司祭の質問に、クルス司教は沈黙をもって答えた。
◇◇◇
本日、本来書籍のみだったプロローグをweb版に追加する事になりました!
書籍のあとがきにも「web版には無いプロローグ」とか書いちゃったんですけどね……_:(´ཀ`」 ∠):
それなのになぜ追加したかというと、現時点で1話と2話でPV(閲覧回数)が8000くらい違ってまして、1話の暗さで撤収した人が8000人いるって事!?
と、いう事で……担当さんと相談してこの話は暗くないよ!とわかってもらうために追加となりました。
最終チェック前の状態の原稿からコピペしたものなので(最終チェックは紙に印刷されたものに直接書き込むから)ちょっとだけ書籍と違うかもしれません。
一話分より少ない程度ですが、これまで出てない魔物もいるのでご一読ください (∩´∀`∩)
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