第424話 情報制限
「あの、私子供じゃないんだけど…」
「知っている、ウリエルから話は聞いた」
まさかの答えが返って来た、この人は私が成人しているとわかっていて膝の上に座れと言っているの!?
だってまだ自分の膝をポンポン叩いて私をじっと見てるし!
「成人女性として男性の膝の上に座るのはどうかと思うの」
「……私の子はアイルくらいの時に死んでしまったんだ」
「!!」
無表情のまま言ってるけど、感情が表に出て無いだけで悲しんでるんだろうなぁ。
私も親より先に死んでしまった身なので、そんな事を言われて知らんぷりは出来ない。
観念して近付くと、ヒョイと抱き上げられて膝の上に乗せられた。
「小さいな、懐かしい大きさだ」
男性はヨシヨシと私の頭を撫でている、横向きに座らされているが隣の席の女性がさっきからガン見していてバッチリ目が合ったまま逸らせない、この人ってさっき食事の時間って呼びに来てくれた人だよね?
他のエルフ達も私を見ていて凄くいたたまれない、ふとまだ弟が産まれていない遠い昔を思い出した。
曽祖母の居た老人ホームで小さい子が珍しいのか、エレベーターホールで雑談していた知らないお婆ちゃん達が「おいでおいで」と手招きし、ポケットから小さなお菓子を取り出して手渡してくれた時と同じ感覚だ。
その日母が父に「
子供というだけで無条件に可愛がろうとしてくれるあのお婆ちゃん達とここに居るエルフ達は同じなのだ。
「アイル様、里の者達が申し訳ありません。きちんと説明したのですが…」
私がエルフ達に構われていると、ウリエルが申し訳なさそうに寄って来た。
「忘れていた懐かしい思い出が
「子を産む時はとても長い時間痛い思いをするから…、あと子作りする時も」
隣で私をガン見していた女性がポツリと漏らした。
「それって男性が…おっと」
うっかり下手なのかって言いかけて口を塞いだ、確認したい気もするけど高確率でそうだと思う。
何故ならここには娼館が無い程ソッチに興味の無い人達ばかりだし、てことは当然経験を積んだり練習したり出来ないって事だもんね。
視線を感じて仲間達の方を見るとホセとエリアスがニヤニヤしながら私を見ていた、口パクでエリアスが何か言っている、えーと…お・し・え・て・あ・げ・れ・ば…?
出来るかー!!
そんな事したら娼館の時の二の舞だよ!?
しかも今回教える相手は男性になるんだからエリアスが教えてあげればいいじゃない!
私はプリプリ怒りながらエリアスとホセを順番にビシッと指差してやった。
「どうしたアイル、何を言おうとしたんだ?」
「な、何でもない…」
「それにしては顔が赤いぞ、子作りの話などしたから恥ずかしくなったのか? やはりまだ子供なのだな」
生温かい笑みを浮かべて私を見るエルフ達、言えない、娼館で夜の知識を披露して娼婦を唸らせただなんてとても言えない。
居た
「そういう訳じゃないよ、立派な大人だし」
「ははは、そうだな、アイルは成人してるから立派な大人だな」
あっ、コレ子供が強がって言ってる時の対応だ、完全に子供だと思われてる。
ムキになっちゃダメよアイル、ここでうっかりポロッと夜の
「ラグエル兄さん、そろそろお風呂に入る時間だと思うの。アイルを案内するから」
隣でガン見していた女性が立ち上がって両手を差し出した、私は膝に乗せていた男性はラグエルと言うのか。
いや、それよりこの差し出された手は何だろう、まさかとは思うが抱っこして連れて行こうとしてないよね!?
「仕方ない、アイル、セラフィエルと風呂に入って来ると良い。ここの風呂は天然温泉だとサブローも喜んでいたからアイルも気に入るだろう」
「天然温泉!?」
「ああ、やはりアイルも好きな様だな」
効能は何だろう、期待に胸を膨らませていたらラグエルが私の脇の下に手を入れてヒョイと持ち上げた。
そしてのままセラフィエルに渡される私。
縦抱きにされて反射的に首に抱きつくとセラフィエルは微かに笑みを浮かべて歩き出した。
「重いでしょ? 自分で歩くよ」
「問題無いわ」
無表情のまま答え、私を抱いたままスタスタと歩いて行くセラフィエル。
大丈夫という言葉通り私を抱き上げたままスタスタと歩いて食事をしていた部屋を出て行く、仲間達もポカンとしたまま私達を見送った。
脱衣所に到着すると
「着方はわかる? この浴衣ってサブローが教えてくれたものだし知ってるかしら、同じ国から来たんでしょう?」
「うん、わかるよ。ふふ、浴衣なんて旅館みたい」
服を脱いで浴室に入ると、宿屋の共同風呂くらいには広かった。
そして一緒に入って来たレミエルと類似しているであろうセラフィエルのスッキリとした身体を見てあの件でエリアスを責める事は二度と言うまいと心に決めた。
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