第101話 いつもの宿
「はぁ…やっとトレラーガが見えて来たよ、ここまで来るとホームに近付いたって気がするよね」
「そうね、それと気温も王都に比べたらグッと下がってるから冬って感じが戻ってきたわ」
後方でエリアスとビビアナが話しているのを聞いて同意しつつ頷く、途中雨に降られて足止めをされつつも王都を出発して20日でトレラーガまで戻って来た。
ちょうど冒険者達が戻って来る時間帯に重なったので冒険者専用の入り口には一般に比べて短いながらも列が出来ていて、それを横目に私達はガブリエルの身分証のお陰で短い列へと並ぶ。
あと1組で順番という時に後方が騒がしくなった、背後にホセが居るので乗り出す様にしないと私には後方は見えない。
「何か騒がしいね、喧嘩かな?」
「あ、あ~…、大物の素材持って来たから騒いでるだけみたいだから気にすんな」
ホセは横を向いていた私の頭を片手で掴んで前を向かせたが、大物って何だろうと隙を見てホセの服を掴んでヒョイと後ろを覗いた。
「あっ、馬鹿」
そこにはバラバラになった
「~~~ッ!!」
「だから気にするなって言ったのによ」
声にならない悲鳴を上げる私に呆れた視線を向けるホセ。
幸い確実に私達の方が早く街に入れるから何とか悲鳴を飲み込んで前を向いた。
「アレって大物なの!? 一般的には手に入れると嬉しい素材な訳!?」
あの騎士達に譲った時はとにかく触りたくなくて素材の価値なんて気にしなかったけど、あんなに嬉しそうに運んでいるという事は価値があるのだろう。
何より恐ろしいのはそれが店頭に並んでるという事だ、知らずに触ってたらどうしよう。
「まぁ…、防水防火の耐性がある素材だからな」
「私…トレラーガの防具屋には絶対行かない…」
そんな事を話している間に順番が来て門を通過した、早く宿に行って寛ぎたい。
スライムジェルクッションがあるとはいえ、自重をずっと支えていたのでお尻も凝っている、日本に居たら指圧に行くレベルだ。
マッサージをやり合いっこするならビビアナとかな、他のメンバーにするのは良いけどしてもらうのはちょっと恥ずかしい。
というか、こっちの世界にマッサージってないのかな、按摩は結構昔からあるイメージだから可能性はある。
「ねぇねぇホセ、按摩って知ってる?」
「あんま? 何だそれ」
「私は知ってるよ! サブローがやってたやつだよね、コルバドの一部地域には文化が根付いたみたいだけど、他の場所には無いはずだから皆は知らないと思うよ」
「そっかぁ…この辺には無いかぁ…」
「アイルがそんなにガッカリするって事は美味ぇ物なのか?」
「違うよ! 何で食べ物限定なの!? マッサージはわかる?」
「そりゃ…疲れた時とかに揉んだり摩ったりするやつだろ?」
「く…っ、マッサージはあるのか…! えっとね、マッサージが優しく全体的にするものだとしたら…按摩はマッサージに加えてピンポイントでツボっていうところも刺激する指圧ってやつもする…感じ?」
エステなんかのマッサージも良いけど、個人的に痛気持ち良いツボ押しが好きなのだ。
20代後半に入ってからは浮腫み防止にツボ押しもしてくれるフットマッサージに通ったりしてたもんね。
専門知識は無いけど冒険者達にも人気出るかもしれない、でも冒険者ってブーツ率高いから水虫とか多そう。
「へぇ…?」
恐らくツボが何かわかっていないのだろう、明らかに理解していない返事が返って来た。
ツボ押しは後で実践して教えてあげよう、幸いこの若い身体は肩凝りとは無縁だけど、ホセはずっと手綱を握っていたし疲れてると思う。
「あとでしっかり教えてあげる、実際体験すればわかると思うよ」
祖母に頼まれて腕を上げた私のゴールドフィンガーは、犬猫をモフる時以外にも輝くという事を教えてあげよう。
私達一行は当然の様に月夜の雫亭へと向かった。
「わぁ、戻られたんですね! いらっしゃいませ!」
受付のお姉さんが良い笑顔で迎えてくれた、幸い4人部屋も空いていたので不満そうな顔をしているガブリエルをスルーして部屋へと向かった。
部屋に入ると全員に洗浄魔法を掛け、ベッドへダイブする。
「っあ~~疲れたぁ…っ、門前で余計な気力も使ったから余計だよ…」
「折角オレが前を向かせてやったのに態々振り返るからだろ。それよりあんまって言うマッサージ教えてくれるんだろ?」
ホセは私の横にゴロリと転がってうつ伏せになった、楽しみにしているのか尻尾がワサワサと振られている。
疲れてはいるけどずっと私を乗せてくれていたお礼も兼ねてマッサージする事にした。
尻尾を潰さない様にホセの腰に跨り指圧していく、親指を滑らせるとゴリゴリとしたツボの上を通過するので戻って3秒押し。
「ッッ! あぁ…っ、う…、ん…っ、何だコレ…っ、ちょっと痛いけどスゲェ気持ち良いな!」
「そうでしょうそうでしょう、ふふふ…」
絶妙な力加減で解してあげているとホセはウトウトと寝そうになっていた、そんな無防備な姿を見たら悪戯心がムクムクと…。
背中と脇の下の境目を上に押し込む様にするととても効くツボがある。
「うぁッ、痛ってぇ!」
「お客さん凝ってますねぇ~、同じ姿勢でいたせいかなぁ」
「ほっほぅ、そんならアイルもきっと凝ってるよなぁ? オレがマッサージしてやるよ、ほれ寝転べ」
「あ、いや、下手な人にされると逆に負担になるらしいし…! あっ、ヤダッ」
「てめっ、諦めて大人しくしろ!」
呆れる3人の視線を受けつつ、ベッドの上でドタバタしていたらドアがノックされ、受付のお姉さんが言った。
「アイルさん、エドガルドさんがいらっしゃってます」
今回もエドに到着がバッチリ報告されたらしい。
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