第461話 エスポナの宿屋にて
半月後、私達は要塞都市エスポナまでやって来た、教会本部への連絡は万が一の事を考えて信頼できる場所…つまりはウルスカの教会からにしようという事になった。
聖職者の全員が誠実とは限らないからね。
「ふむ、ここはウルスカどころかトレラーガよりも大きいな」
カマエルが馬車の窓から
「ここまで来たら王都はすぐそこだよ、三日もすれば到着するからここで一旦屋敷に連絡いれておかないと」
「ガブリエルは王都のお屋敷と連絡出来る通信魔導具持っているのか?」
「ううん、気軽に連絡出来ちゃうと何かを決める時にあれもこれもと聞かれるからね、普段は冒険者ギルドに依頼という形で連絡を取っているんだよ」
ガブリエルとタミエルの会話で自分で作れるくせに通信魔導具を持っていない理由がわかった、きっと研究の邪魔をされたくないという建前で本音は面倒だからなんだろうなぁ。
そんな話をしている内にリカルドが御者をする馬車はエスポナの門を
まだ夕食には早過ぎる時間なので宿を取ったら皆散策する気満々だ。
そして今はカマエルとタミエルを誰に押し付けるか、という水面下での争いは既に始まっているので不用意に口を開いてはいけない状況。
これまでの道中無神経というか、空気の読めない発言をしては私達がフォローするというのを繰り返しているせいだ。
できれば宿屋で大人しくしてくれるのが一番なのだが、これまたこれまでの道中でそんな事はあり得ないと皆わかっている。
最初に仕掛けてきたのはエリアスだ。
「今日は何だか疲れたから僕は宿でゆっくりしようかな、街の散策は帰りでいいや(僕は出掛けないからエルフ達の相手よろしくね)」
「だったら予定は無いって事だな、カマエルとタミエルに付き合ってやれよ(何一人だけ逃げようとしてんだよ)」
「やだなぁホセ、僕は疲れたから休むって言ってるんだよ?(二人が宿で大人しくしてるなら見ておくけどね?)」
二人共笑顔で会話しているが、見事に
「
そう言ってカマエルとタミエルの方を見ると二人は自信満々に頷いた。
「ああ、正論だからと口に出さず出来るだけ口数を少なくしておく」
「喧嘩している者達に口出しはしない」
ドヤ顔で言ってるけど当たり前の事だからね!?
しかしコレで外出組は自由を手にした、という事で…。
「うんうん、それじゃあ何があったら宿屋に連絡する様に言うんだよ、エリアスが宿屋で休んでるから何かあった場合は対応してもらえば良いよ、ね?」
エリアスを見てにっこり微笑むと、途端に目を泳がせ始めるエリアス。
「や、やっぱり僕も街を散策しようかなぁ~なんて…」
「疲れてんだろ? ゆっくり休んでりゃ良いじゃねぇか。何も無けりゃ連絡も来ねぇんだからよ」
尻尾を揺らしてニヤニヤしながら言うホセ、完全にわかってて言ってるよね。
エリアスには真っ先に逃げようとした罰だと思ってもらおう。
『着いたぞ』
エリアスが悔しそうにホセを睨んでいる間に馬車は宿屋に到着した、高級宿なので
厩番が馬車を引き取りに来たという事は部屋は空いているらしい、埋まっていたら引き取りには来ないからすぐにわかるのだ。
馬車を降りて依頼主であるガブリエルを先頭にゾロゾロと宿屋の中に入ると、ガブリエルを知っている店員が顔を輝かせた。
理由はもちろん貴族が泊まるというステータスに加えて金払いの良さだ、普段お金を使わなくて溜まる一方だからとこういう時は
これまで開発したいくつもの魔導具のマージンも入って来ているらしい、模倣品が作れない特許期間が過ぎた物もあるが、私がアドバイスした新商品も含めて数があるので今回の依頼料も宣言通り大盤振る舞いだったりする。
ガブリエルが手続きを済ませて部屋に向かう階段を上がろうとしたら、お客さんらしき若い女性が勢いよく降りてきた。
「待ってくれベリンダ!」
「もう知らない! ナシオの馬鹿!」
女性が私達の前を通り過ぎようとしたら階段の上から商家の坊ちゃん風の男性が追い掛けてきた、どうやら恋人同士の様だ。
ナシオと呼ばれた男が階段の途中で止まってしまったので私達は動けず二人を観察…見守っている。
「なぜなんだ! ずっと変わらないで欲しいと言ったのはベリンダじゃないか! 僕はずっと変わらず君を愛しているし、変わらない努力もしてきたつもりだよ!?」
「ナシオ…あなた全然わかってないわ…」
眉間に皺を寄せて首を振るベリンダ、うわ~、完全に修羅場じゃない?
店員さんも異様な雰囲気に口出しできずにオロオロしながら見守っている、カマエルとタミエルは無表情だけど明らかにワクワクしてるよね?
エルフの里じゃあ恋愛のイザコザなんて無くて珍しいからだろうか、ワクワクしてるのは二人だけじゃなくてエリアスもだけど。
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