第554話 魅惑のもふもふ
「んぁ? あれぇ? 何でホセが一緒に寝てるの? 途中から覚えてないって事は、エリアスってばネックレス使わずにいてくれたのかぁ」
エリアスに感謝をしつつ目を擦りながら身体を起こすと、隣に獣化したホセが伏せて寝ていた。
もしかして酔っぱらってモフらせてってお願いしたのかもしれない、だったらモフってもいいよね?
「うへへ……」
これこれ、このまふっとした手触り、なんだか凄く久しぶりな気がする。
やっぱり空に一番近い手触りはホセなんだよね、私好みのこの毛並み……。
ホセが寝ているのをいいことに、抱き着くように覆いかぶさり両手で首元の毛をワシワシとモフる。
ついでに背中の毛に頬擦りをしていたら、不意に毛の感触が無くなった。
「こんな風に何度も寝込みを襲って来るんだから、そろそろ責任取ってもらわねぇとなぁ?」
「わあぁぁぁ!?」
いつの間にかに目を覚ましたホセが人型になってニヤニヤ笑っている。
驚いて
「バカ……っ」
そして気付いてしまった、ホセの心臓がドキドキ忙しなく脈打っている事に。
「なぁ、オレと結婚したら毎日でもモフれるぞ? 子供もぜってぇ可愛いと思うんだよな、アイルによく似た黒髪黒目でオレみたいな耳と尻尾がついてる子供、欲しくねぇ?」
耳元で寝起きの少し低い声で囁かれて、ジワジワと頬が熱くなる。
「こ、子供って……! そんなの、付き合ってもないのに何言って」「じゃあ付き合おうぜ。そんなにオレが嫌か?」
「そういう訳じゃ……」
まるで甘えるような顔で私の目を覗き込んでくるホセ。
以前のホセならお断りだけど、ここ最近のホセなら……と考えている自分がいる。
だけど付き合った途端に以前のホセに逆戻り、なんて事になったらと思うと踏み出せない。
その時、部屋のドアがドンドンと乱暴に叩かれた。
「ひゃうっ!?」
真剣な話をしていたせいで、飛び上がる程に驚く。
『アイル? もう朝食の時間だが食堂に姿を見せないから呼びに来たよ。開けていいかい?』
「待って! 昨夜そのまま寝ちゃったからまだ着替えてないの! 着替えたらすぐに行くから先に行ってて!」
ドア越しに聞こえたエドの言葉に、慌てて返事をする。
この状況を見られたら、とんでもない事になるのは間違いない。
「ホセ、これ着替えね、昨日の服は洗浄魔法かけて預かるよ。私は浴室で着替えてくるから、その間に服を着ておいてね」
ストレージから出したホセの服を押し付け、そそくさと浴室に逃げ込むと、自分に洗浄魔法をかけて着替えた。
本当ならお風呂に入ってさっぱりしたいところだけど、
浴室から出ると服を着終わっているものの、少々不満気なホセ。
もしホセと恋人になったら、結婚まで一直線な気がする。
そうなったらおじいちゃんが本当のおじいちゃんに…………、おっと、それより今は食堂に行かなきゃ。
「皆待ってるみたいだし、行こうホセ」
「……ああ」
ホセは仕方ないと言わんばかりに肩を
そしてドアを開けると、先に食堂へ向かったと思っていたエドがドアの前に立っていた。
「おはようアイル。なぜホセと一緒に出てきたのかな?」
笑顔だが、放っているオーラがどす黒い。
しかも朝の挨拶、私にだけしてるし。
「おはようエド。昨夜はお店で酔っぱらっちゃって、ホセにモフらせてってお願いしたみたい。覚えてないけど」
「覚えてない……? ならばホセがアイルと寝たいがために嘘を吐いたという可能性もあるんじゃないかな? 男……特にホセは獣人なだけあって正に
「おいおい、それは自己紹介か? お前と一緒にするんじゃねぇよ」
バチバチと火花が見えそうなくらい睨み合うホセとエド、前にもこんな光景見たな。
だけど今回はエドが来てくれて助かった、あのままホセに押し切られそうな自分がちょっと怖かったし。
しかしこの睨み合う二人をどうすべきか、ちょっと面倒になってきている自分がいる。
「じゃあ先に食堂に行ってるね~」
二人を置いて先に階段を下りて行くと、慌てて二人が追いかけて来た。
皆が食堂で待っているんだから、二人の睨み合いで待たせちゃ悪いからね。
食堂に入ると、エリアスがニヤニヤ、リカルドとおじいちゃんが見守るような微笑みを浮かべていた。
これは私とホセが一緒に寝ていた事を知っているせいだろう。
「おはよう」
挨拶を交わし、エドが椅子を引いてくれている席に座る。
朝食後はすぐに出発予定なせいか、料理長が自ら料理を運んできてくれた。
今回はだし巻き玉子が主役の和朝食のようだ。
少し緩めで噛み切るとじゅわっとだしの味と香りが広がり、日本の有名店に負けない絶妙な美味しさに仕上がっている。
「これはまた……、だし巻き玉子の専門店開けるレベルで美味しいよ! エドは本当にいい料理人を雇えてるよねぇ」
皆も同意見なのか、だし巻き玉子を頬張っては頷いている。
「ははは、アイルが来るとわかってから毎日この玉子焼きが出てきたからね、そんなに褒めてもらえて彼も頑張った甲斐があるというものだよ」
食堂の壁際で嬉しそうにしていた料理長は、エドの言葉で頭を下げてそそくさと姿を消した。
どうやらこの日のために練習していたらしい。
「ふふ、でもエドはそれに付き合ってくれてたんだね」
「アイルを喜ばせたいという気持ちはわかるからね。今のアイルの笑顔が見れただけで私は満足さ」
こういうスマートな返しはさすがだなぁ、ホセからは出て来そうにない言葉だ。
一瞬ホセが悪態をついてさっきみたいな言い合いになるかもと思ったけど、ホセはシレッとした顔のまま食事を済ませた。
これもまた以前のホセとは違うという事か。
「私が必要な時はいつでも呼んでくれればいいからね、アイルのためなら私のすべてを捧げるつもりだから。戻って来た時はもっと時間を作れるようにしておくから、一緒に過ごしてくれるかい?」
屋敷を出発する時、エドが私の手を取り
「えーと、二人きりはダメだけど、それでもいいなら……」
ちゃんと皆との約束を守って二人きりを拒否する。
しかし、エドはそれをわかっていたように笑顔で頷いた。
「アイルと共に過ごせるのなら、お邪魔虫の存在くらい我慢するさ。道中気を付けて、特に
明らかにホセを意識した言葉に、バチバチと馬車の窓越しで再び睨み合う二人。
「はいはい、もう出発するよ~」
エリアスが発した強制終了の言葉で、私達は出発した。
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