第181話 2人のエルフ

「アイルは!?」



「大丈夫ですよ、ただの魔力切れですから。あれだけバカスカ攻撃魔法使ってたら誰だって魔力切れになりますよ」



「寧ろ我らが復帰する前から攻撃魔法を使っていたと言うのだから魔力量は尋常ではないぞ。しかもいくつの属性を使っていたのやら…」



 ビビアナの焦った声が聞こえる、そして優しい声と偉そうな声。

 瞼が重くて開かない、声を出そうとしたが吐息が漏れただけだった。



「アイル! 気が付いたか!?」



 呼吸音が変わった事に気付いたのか、ホセの声がすぐ側で聞こえた、ちょっと声が大きいよ。

 頑張って瞼を開けるとホッとしている仲間達の顔が見えた、そして知らないエルフが2人。



 きっとこの2人が魔法撃ってた人達だろう、2人共女性に見えるけど、さっきの声は1人男性だった様な…。

 頭がぼーっとして身体に力が入らない、さっき魔力切れとか何とか言ってた気がする。

 確かガブリエルがくれた魔力回復ポーションがあったはず、魔法の事バレてるみたいだしストレージから出して良いよね。

 手の中にポーションを出し、声を振り絞って伝える。



「の、ませ…て」



「あん? これか…!」



 リカルドが身体を起こして支えてくれ、ホセがポーションを口に流し込んでくれた。

 ゴクリと嚥下すると血の気が引いた様に冷たかった身体がほわっと温かくなる。

 顔色も良くなったのだろう、ふた口目を飲ませながらホセの顔がホッとした顔から段々怒っている顔に変わっていった。



「ごめぇん…、魔力切れなんて初めてだったからどんな症状なのかわからなかったの…。これでわかったから次からんぐっ!?」



「とりあえず全部飲んでおけ」



 話してる最中だったのにポーション瓶を口に突っ込まれた、身体に力が入る様になったので瓶を受け取って自分で飲み干す。



「魔物の集団を氷漬けにしたと思ったら倒れるんだもん、びっくりしたよ。脅かさないでよね!」



「そうだぞ、下手したら魔物に襲われていたんだからな」



「上から見てて心臓が止まるかと思ったわよ!」



「はい…、ごめんなさい…」



「ふふっ、魔力回復ポーションを持っていた様ですし、もう大丈夫ですね。今後無茶をしない様に叱られておくといいですよ」



 淡いピンクの髪と目をした嫋やかなエルフの女性が微笑んでいた、凄く美人。



「もう我らは必要無いだろう、アリエル行くぞ」



「あっ、待って下さいハニエル」



 美女に見えたターコイズブルーの髪と目をしたもう1人は男性だった、アリエルと違って愛想ゼロだ。

 2人は病室の様な部屋から出て行った。



「えっと…、私が倒れてからどのくらい時間が経ってる?」



「10分くらいよ、ホセが倒れたアイルを抱えて戻って来るのが見えたから救護室を探して走って来たのよ?」



「さっきの2人は外壁の上から魔法撃ってたらしいけど、自分達以外にも魔法使ってるって気付いてアイルに目を付けてたら倒れたのが見えて様子を見に来てたみたいだよ。僕達がカタヘルナに入る時に援護してくれたのは男の方だって」



「彼らも魔力切れにならない様に休みながら参加してるらしいから、アイルも気を付けるんだぞ。倒れた時は本当に驚いたんだからな!」



「うん…、心配かけてごめんね。皆も怪我は無い?」



「ああ、大物はアイルが片付けてくれたからな、防具を新調した甲斐もあって皆かすり傷程度だよ」



 何気に男性陣は返り血だろうけど血塗れだ、特にホセは武器を使わないせいで1番酷い。

 ビビアナもずっと矢を射っていたせいで右手の3本指が赤く腫れ上がっている。



「『洗浄ウォッシュ』『治癒ヒール』」



「バ…ッ、お前バカか! 魔力切れで倒れたクセに魔力使ってんじゃねぇよ!」



 自分も含めて綺麗にしたらホセに怒られた、これまでの経験上1番お説教しそうなホセが何も言って無かったのでちょっとホッとしたのは内緒だ。



「ポーション飲んだから大丈夫だよ、今すぐ戦線復帰出来るくらいにね。あ、でもお腹空いたからご飯は食べたいかも」



「……ちょっと情報収集して来る」



 スリスリとお腹を撫でていると、ホセはプイっと部屋を出て行った。

 怒る気力も無くなる程呆れられたのかとショボンとしていると、ビビアナがクスクスと笑った。



「うふふ、ホセったらアイルに自分達が側に居れば無茶しても大丈夫だって思うくらい信用されてるのが嬉しいのと、無茶したから怒りたい気持ちがせめぎ合ってるのね。だから逃げたんだわ」



「ホセが情報収集してくれる様だし、俺達の班は1時間休憩だからテントに戻るか。ギルドが炊き出ししてるから食事を貰って来ても良いが…」



 そこまで言ってリカルドは私をチラリと見た。



「はは、やっぱり久々に軽食じゃないアイルのご飯食べたいよねぇ。美味しい匂い撒き散らす系のやつ」



「そんなの…ラーメン、餃子、唐揚げのセットかカレーしか思い浮かばないよ! ラーメン用の中華麺残り少ないから大氾濫スタンピードが終わったらコルバド行ったら買い足さなきゃ! ……ところでこの部屋使ってていいのかな?」



「うわぁ、どっちか悩む~! えっと、部屋は怪我の治療が必要無いならとりあえず空いてる部屋に適当に寝かせておけって治癒師に言われてこの部屋に運んだんだよ。目を離せない怪我人以外は治療が済んだら各自のテントで休んでるみたい、で、治癒師が来る前にあのエルフの2人が様子を見に来てくれたってワケ」



「アイルが平気ならテントに戻りましょ、ホセもテントに戻るだろうから。あたしはカレーにするわ」



「歩くのが辛いなら運んでやるから言うんだぞ。俺はラーメンのセットに炒飯も付けてくれ」



「大丈夫だよ、ありがとう。決めた…! ラーメンに唐揚げトッピングにする!」



 その後テントの前で食事をしていたら、ホセが匂いに釣られてすぐに戻って来た。

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