第445話 就職斡旋

「わははは! そんな事になってたのか! 本になってる冒険たんより面白おもしれぇよ、小賢しいエリアスがやり込められてるとこ見たかったぜ」



 エリアス達がプルプルしているエルフ達を連れ帰った翌日、朝から冒険者ギルドに顔を出してバレリオを探したが休養日で今日は来ないと他の冒険者が教えてくれた。

 なのでバレリオの家にお邪魔している、要件はもちろんエリシア達の事だ、しかし今は昨夜の話に脱線しているが。



「へぇ、バレリオはエリアスの事小賢しいって思ってたんだ」



「そりゃそうだろ、アイツは妙に知恵が回るからな。勝負事を持ちかけられても負ける可能性のあるものにゃ絶対乗らねぇし、言いくるめようとしてものらりくらりと躱しちまう」



「そういう頭の回転の早さに助けられる事もあるんだけどね」



「へっ、そんなの精々二割程度だろ、八割迷惑掛けられてちゃ世話ねぇぜ。あの口の上手さで酒場の女達からも人気がたけぇってのもムカつくしよ」



「顔と愛想は良いもんね。大丈夫、バレリオにはエリアスには無い大人の魅力があるから!」



「さすが賢者様はわかってるねぇ! アイルがあと十年早く生まれてたら口説いてたかもしれねぇな!」



「はいはい、どうせ私はバレリオの守備範囲外ですよ。それよりそろそろ本題に入って良い?」



「おう、孤児院の嬢ちゃん達と店の話だったな」



「そうだよ、バレリオが店を借りてラーメン屋をするにしても冬だけだと毎年場所を探して契約するか、ずっと借りっ放しにする場合は他の季節に空き家にしておくのは勿体もったい無いでしょ? だったらあの子達三人にお店をさせてあげて、ラーメンは冬限定メニューにすれば良いと思うの。あの子達はマザーの教育のお陰である程度計算も出来るから仕入れとかも任せられるし」



「まぁ確かにな…、屋台だと寒いから店が良いとは思ってたしなぁ」



 バレリオはソファの背凭せもたれに身体を預けて顎を撫でながら天井を見上げる。

 うなりながら目を瞑り、考え込む事数分…、カッと目を開いたかと思うと両膝をパシンと叩いた。



「よしっ! 決めたぞ、あの嬢ちゃん達を雇おうじゃねぇか。ただ嬢ちゃん達だけだと心配だからよ、仲間の息子も一緒に雇う事にするぜ。冒険者になったんだが腕っ節は強ぇ割に魔物に対してビビっちまって森に行きたがらねぇらしい、どうしたもんかと仲間カジェタノが悩んでたしな、丁度良いから用心棒兼荷物持ち兼手伝いって事でやらせてみるか」



「オダリスだったっけ? カジェタノの息子の名前、ギルドの鍛錬場で会ったことあるけど対人戦は問題無さそうだったね。魔物は時々予測出来ない動きするから怖いのかな?」



「恐らくな、けどまぁ…これで街中で仕事が出来るんならカジェタノも安心だろ。まだ十九歳なんだからオダリスも無理に冒険者続けるこたぁねぇしよ、野郎どもと森に入るより可愛い女の子と働いた方が潤いがあるってもんだ」



「そうだねぇ、あの子達可愛いし、まかないも確実に美味しいから良い職場なんじゃないかな」



「ははは、そりゃ冬が楽しみだな!」



 どうやらあの三人の就職先は決定したらしい、王都に行くまでに餃子と小籠包、炒飯に豚饅を教えておいて練習してもらおう。

 唐揚げはもう任せても問題無いくらいだし、角煮も前に教えてあるから大丈夫なはず。



 本当は海老チリとかメニューに入れたいところだけだここだと海老が手に入らないからなぁ。

 麻婆豆腐や麻婆茄子も作りたいけど甜麺醤てんめんじゃん豆板醤とうばんじゃんが手に入らない、もしかしたらビルデオのどこかにあるんじゃないかと思っている。



 おじいちゃんが帰る時について行って探そうかなぁ、ビビアナの赤ちゃんが産まれたら帰っちゃうんだよね…。



「お、おい、何泣いてんだよ!?」



「え? あ…」



 いつの間にか泣いていたらしい、想像しただけでこんな状態になっちゃうなんて、本当に帰る日になったらどうなるんだろう。

 バレリオを驚かせてしまった、ぐしぐしと袖で涙を拭い、信じられないモノを見る目を向けられていたので笑って誤魔化す。



「へ、へへ、ごめん、調味料の事色々考えていたらおじいちゃんが国に帰っちゃう時の事まで思考が飛んじゃった」



「ああ、なんだ、ホセのじいさんの事か。アイルはかなり懐いているもんな、いきなり泣き出すから驚いたぜ。話し合いを家にして正解だったな、外だったら明日にゃとんでもない話が広まってるところだったぜ」



「とんでもない話?」



 私が泣き出した理由がわかってホッと胸を撫で下ろすバレリオに首をかしげながら聞く。



「間違いなく俺がアイルを泣かせたって事は広まるだろ? その理由を面白おかしく想像して、それをさも本当の事みたいに話すバカは必ず居るからな」



「ふふっ、そうだね。私がバレリオにフラれたっていうのは絶対あるとして、ラーメンのスープで揉めたとかもありそう」



「だろ? アイルを泣かせたと思われて教会から目ぇつけられるのはごめんだぜ」



「メルチョル司教は過剰反応しないだろうけど、教会本部に定期報告してるからねぇ…。賢者を泣かせた男として有名になっちゃうかも?」



「やめてくれ…」



 バレリオはげんなりしながら眉間みけんを摘む。



「ははっ、冗談だよ、冗談」



「冗談で済まねぇっての」



「まぁまぁ、そんな事よりラーメン屋の店舗を借りるならさ…」



 ジト目を向けるバレリオをなだめつつ、ラーメン屋開店に向けての話を詰めた。

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