第289話 小さな村で

「私が御者続けるのにぃ~」



「まぁまぁ、あの子も同じ獣人の方が安心出来るみたいだったし」



 馬車の中は詰めれば乗れるが、護衛対象であるカリスト大司教もいるからという事で犬獣人…アンヘルは御者席に居る。

 王室用だから御者用の席の左右に護衛が座れる造りだから良かったが、一般の馬車だったら乗れないところだった。



「仕方ないから諦めるけどさ。それじゃあ皆にはアンヘルの説明するね。今までヤンチャして散々心配掛けて来たお母さんが疫病に掛かって倒れたらしいの、それで薬草を取りに行くって言って村を飛び出して来たんだけど、薬草の生えてる場所は鎖蛇チェーンバイパーの生息地でもあったから襲われて死にかけてたんだ。それで…さっき説明した様に近いけど予定の村とは少し方向が違ってしまって…」



 アンヘルを連れて来た時にリカルドに報告して送っていく許可をカリスト大司教に貰っている。



「ははは、人助けですからお気になさらず。アイル様の優しさを知れて嬉しいくらいですよ」



 カリスト大司教の言葉にエクトルとオラシオもコクコクと頷いた、本当に私に会いに来たのが良い人達で良かった。

 アンヘルの住んでいる村は街道から馬車が1台何とか通れる程度の脇道を進んだところにあった、別れ道がわかりにくくて教えて貰わなかったら見落としそうな道だったらしい。



 暫く進むと村に到着したのか馬車が止まった、疫病のきざしがあるので村の前で私とホセだけがアンヘルを家まで送って行く事になった。

 本当は色々耐性のある私だけが行くつもりだったのだが、私とアンヘルを2人だけにすると心配だとホセに言われてしまったのだ、失礼な!



「おっと、無理すんな、背中に乗れ」



「ありがとう」



 馬車を降りた途端にフラついたアンヘルを気遣うホセ、むふふ、良い光景ですなぁ。

 それにしてもアンヘルの見た目年齢だと普段のホセならもっとそっけないのに、妙に親切な気がする。

 種族は違うけど、色合いとか雰囲気が似てるから親近感でも抱いているのだろうか。



 何気に今も尻尾が揺れてるし、同じ犬科だから気を許してるのかもしれない。

 そんな事を思いながら木で作られた塀に囲まれた村へと入ると人族と獣人が混在していて、背負われているアンヘルを見て1人が、駆け寄って来た。



「アンヘル! どうしたの!? その人達は誰!?」



 小柄な栗鼠りす獣人…だろうか、私と身長が変わらない女の子が上目遣いでうかがう様に聞いた。

 やだ、この子可愛い!!



「この人達は鎖蛇チェーンバイパーに襲われて死にかけた俺を助けてくれたんだ」



「……ッ!? アンヘルを助けてくれてありがとう!!」



「どういたしまして」



 うっすら涙をにじませてお礼を言う少女。

 あら? あらあらあら、もしかしてこの子…アンヘルが好きなのかな?

 ダメよアイル、今ニヨニヨしたら不審者みたいに思われちゃう、まだ仲良くなってないんだから普通にしないと。



「母さんに薬草採って来たから後でな」



「うん、わかった」



「あの家が俺の家なんだ」



 少女と別れてアンヘルが指差した家へと向かう、少女の方は他の村人と話をしていた、きっと私達が誰なのか村人に情報収集されているのだろう。



「ただいま」



「おにいちゃんおかえり!」



 ドアを開けた瞬間私は壁にすがりついた、だって仔犬な獣人が!!

 さっきの女の子も可愛かったけど、幼児特有の可愛さプラスで更に可愛いんだもん!

 頭の中でエリアスが誘拐しちゃダメだよって警告してくる、大丈夫、しないから。

 壁にくっついたままプルプルしていたら視線を感じて振り返ると、ホセが凄く呆れた目を向けていた。



「父さんは?」



「おかあさんのおへやだよ、ぼくははいっちゃダメって…」



 大きな目にぶわりと涙が溜まる。



「大丈夫だよ、お兄ちゃんが薬草採って来たからお母さんもすぐに元気になるからね」



「………おい」



「なぁに?」



「今すぐその頬擦ほおずりをやめろ、坊主が固まってんだろうが」



「ハッ! 慰めるだけのつもりがいつの間に!」



 無意識に抱き上げて頬擦りしていた様だ、見た目年齢3歳になったかどうかというアンヘルのミニチュア版だったのでつい。



「おにいちゃん…」



 助けを求める様にアンヘルを呼ぶ男の子、知らない人にいきなり抱き上げられたから驚いちゃったかな。

 そんな私達を見てアンヘルは苦笑いする。



「この人達は兄ちゃんを助けてくれた良い人達だから安心しろ、すぐに薬草り潰して薬を作るから大人しくしてろよ」



「うん…」



 2人の遣り取りを聞いて「あれ?」と思った。



「ポーションじゃないの?」



「ポーションなんて魔導具が無いと作れないだろ。町まで行けばあるかもしれないけど、こんな小さな村じゃ村長の家にも置いてないさ」



「ふふふ、だったら私の出番でしょ!」



「はぁ…、そうだな。アンヘル、薬草をアイルに渡せ」



「え? あ、うん…」



 椅子に座らせて貰ったアンヘルが戸惑いながらも薬草を私に差し出した。

 薬草を受け取りおもむろに呪文を唱える。



「ふふふ、レデュ草も配合すると効果高いみたいだからサービスしておいてあげる『水球ウォーターボール』『精製リファイン』」



 薬草をむしり、水球に放り込んでポーションを精製する。

 その様子を見た兄弟はポカンと口を開けた同じ表情をしていた。

 作ったポーションはいつか再利用しようと思って取っておいた空の酒瓶に入れた。



「け、賢者…?」



 アンヘルが私とポーション入り酒瓶を見比べながら呟いた。

 その時家の奥の扉が開く音がして、誰かが部屋から出てきた。



「アンヘル? 帰ったのか?」



「父さん」



 声の方を見ると、アンヘルよりも更にホセに似たが立っていた。

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