第313話 報告会とその後に…

「じゃあ…どうして伯爵家からウルスカまでの護衛を指名依頼される事になったのか説明してもらおうか」



 夕食にはまだ早い時間、宿屋で合流した私達はお互いの出来事を報告し合っていた。

 うう…、いつも優しいリカルドがちょっと怒ってる…。

 そりゃ大司教達の護衛で2ヶ月も気を張っていたのがやっと終わったところなのにまた伯爵なんて…もう代替わりするとはいえ貴族の護衛だもんね。



「えっとね、最初は孤児院に見学と寄付に行ったんだけど…」



 私は孤児を治癒したり、王妃に会った事や貧民街スラムの父子家庭の事、その後伯爵家にベルトランの手紙を届けたらベアトリスの誕生日で王様が来ていた事やホセに手加減無しの手刀を頭に落とされた事までしっかり報告した。

 痛ましい顔をしたのが時々手刀の犠牲なってるエリアスだけでリカルドもエンリケも普通に聞き流した、酷い。



 今夜の酒盛りの為にも報告を終わらせてストレージの中のお酒を選ぼうとしたら、女将さんが部屋に来た。

 どうやら伯爵がまだ顔を合わせていないリカルド達と夕食を食べながら打ち合わせをしたいから後で迎えを寄越よこすとの事。

 だけど男性向けの店を予約してあるから私とビビアナはお留守番して欲しいとか。



「仕方ない、そういう事だからアイルとビビアナは2人で夕食を済ませてくれ」



「そんな! 酒盛りは!?」



「そんなの延期に決まってんだろうが」



 リカルドの残酷な言葉に悲鳴の様な声を上げたが、ホセが冷たく一蹴した。

 自分達は美味しい料理とお酒どころか接待のお姉さんまで味わうクセに!

 こうなったら嫌がらせしてやる!!

 私はこっそりとストレージから付与魔法練習用の小さなクズ魔石を取り出し、正常化の魔法を付与した。



「早く帰って来れたら今夜でも良いよね? 明日は出発の前日だから無理でしょう?」



 ホセの服をクイクイと引っ張って上目遣いで聞きながらそっとズボンのポケットに魔石を忍ばせる事に成功した。

 ニヤリと笑ってしまいそうなのを悲しそうな顔をキープしたままでいると、ホセは気まずそうに視線を逸らして頭を掻いた。



「わかったよ、出来るだけ早く戻る様にしてみる」



「約束だからね!」



 迎えが来た時に貴族と食事だからとエリアスだけは愛槍あいそうを置いて一応短剣だけ装備して行った。

 馬車の迎えがあるとはいえ、もしかしたら途中で帰る事になった時の為に護身用の武器は必要だ。



「それにしても伯爵ったらビビアナの事孫娘同然だとか言っておきながらビビアナも除け者にするなんておかしくない!?」



 男性陣が出て行った部屋で私はネックレスを外してストレージに放り込むと、お酒と軽食、そしておツマミをテーブルに並べた。



「そうねぇ…、案外王妃様の父親の罠だったりして。でも屋敷に裏切り者は居ないって自信満々だったものね、まぁいいわ、あたし達だけで楽しみましょう?」



「賛成!」



 そして私とビビアナは2人だけで女子会を始めた。





[夜のお店 side]


「伯爵は少々遅れるとの事ですので先に始めておくようにとの事です」



「はぁ…、ですが…」



 個室に案内してくれた黒いスーツ姿の店員の言葉に、肌色多めな薄布のドレスの女性達に挟まれながら戸惑うリカルド、貴族が来るのに酔っていてはかなり失礼になる、そんなリカルドの心情を無視して女性達は腕にしなだれかかる。



「大丈夫よ~、伯爵は大らかな方だから! ほら乾杯」



 エールの入ったグラスを差し出されてリカルドが反射的に受け取ると、ホセの隣に座っていた狼獣人の女性が音頭をとる。



「かんぱ~い! 先に始めてて良いって言ってるんだから楽しまなきゃ!」



「あぁん良い飲みっぷり~、惚れちゃいそ~! おかわり~!」



 両隣の狼獣人女性に持てはやされてご機嫌なホセは一気にエールを煽った。

 結局4人共勧められるままに何杯か酒を飲んでいると、知らないの壮年の男が入って来た。



「おまえ達は今日チャルトリス伯爵家にいた者だな、護衛を依頼されたときいたがどこへ向かうのだ?」



「どなたですか? 冒険者は依頼された詳しい内容を漏らしてはならない義務がある…の…」



 貴族らしい獅子獣人に話している最中にいきなり意識を失ったリカルド。



「リカルド!? どうし…ぁ…?」



 立ち上がろうとしたエリアスもクタリと隣の女性にもたれ掛かる様にして意識を失った。



「ククク、後で拷問でもしてゆっくり聞かせて貰おうか。屋敷の使用人には気を配っていても出入りの業者の動向まではあの伯爵も把握しきれて無かった様だな」



「どういう事だ!?」



「何ッ!? 貴様なぜ動ける!?」



 獅子獣人は驚愕してホセを見た、しかしホセは何の事を言っているのかわからず首を傾げる。



「何の事だ? それよりお前リカルドとエリアスに何をした?」



「バカな…、朝まで起きない睡眠薬を飲んだはず…」



「なるほどね、睡眠薬か…起きて~! リカルドもエリアスも起きて~! …『解毒デトックス』(ポソ)」



 パンパンと手を叩きながら2人に声を掛け、手の音に紛れて呪文を唱えるエンリケ。

 アルコールと寝起きで少しぼんやりしているものの、リカルドとエリアスは目を覚ました。



「そ、そんな…!」



「何なんだ?」



「ふふっ、俺はともかくホセはアイルの悪戯いたずらのせいだと思うよ、全然酔っても無いでしょ? アイルのネックレスと同じだよ、もうホセも解毒出来てるから取り出しても大丈夫だからね」



 そう言ってエンリケはホセのポケットをチョイチョイと指差した。

 ホセはされたポケットに手を突っ込むと、中から小さな魔石が出てきた。



「あいつ~…、飲んでも全然酔わねぇと思ったら…。今回は助かったみたいだけどよ」



「く…っ、面倒な賢者と引き離したというのに…!」



 獅子獣人はそう言うときびすを返して部屋から出て行った。



「あっ、待て!」



 ホセは咄嗟とっさに追いかけようとしたが、左右から手を掴まれた。



「逃げた人なんて放っておいて飲みましょう?」



 ホセの手を掴んだ手はじっとりと手汗で濡れて微かに震えていた。



「ハァ…、お前ら脅されてんのか? 薬仕込む様な店で飲める訳ねぇだろ! どうせアイツの正体の見当はついてんだ、無理に今追いかける必要ねぇよ。この席用意したのもアイツだろ? リカルド、とりあえずもう帰ろうぜ」



 ホセは女性手を振り払うと、4人は30分かけて歩いて宿屋へと戻った。

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