第三章:傑作の一振り-5
ふむ。《猛毒耐性・小》に《腐食耐性・小》か……。かなり有用なスキルである事は理解出来る。喜びたい気持ちで一杯だ。
だがそんな喜びの感情が溢れるよりも先に、それを蓋する様にして湧いた疑問がある。
それはこの二つのスキル……コイツが持っていたスキルなのか? という疑問だ。
私の経験上、《結晶習得》で対象をスキルに還元した場合、その対象が所持していたスキルを手に入れる事が出来る。そう認識していた。
魂が失われた盗賊からスキル構成を調べる手段がなかった故事前に調べるなんて事が出来なかったから確証は無いが、結晶化した盗賊は、そんなスキルを本当に持っていたのか?
確かにガタイが良い盗賊だった。あの中じゃ一番実力がありそうな様相はしていた。だがそれでも下っ端も下っ端……あの中で一番でも、街を守る衛兵なんかと比べれば実力は下の下だ。そんな奴が《猛毒耐性・小》に《腐食耐性・小》? なんかチグハグに感じる。
ふむ、改めて《結晶習得》のスキル内容を確認してみるか……どれどれ。
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スキル名:《結晶習得》
種別:スキル
概要:対象を強制的に結晶化させ、スキルに還元するスキル。発動条件として魂の無い無機物、有機物であれば無し。しかしスキル習得率は限りなく低い。魂が宿っている場合、その対象を魂ごと一定時間〝結晶化方陣〟に留まらせなくてはならない。魂が宿っている対象を結晶化に成功した場合、ランダムで一つから三つまでスキルを習得する事が出来る。
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む? 魂の無い有機物……死体を結晶化させた際の記述がない……。確率が低い旨は書いてあるが、それを結晶化するとどうなるのかが分からない……。これは私の《解析鑑定》の熟練度が不足しているからか?ならばどうするか……。
『クラウン様』
頭を悩ませていた私の脳に直接語り掛けて来たのは私の中に居るシセラであった。私はそんなシセラに返事をすべく同じ様に語り掛ける。
『どうした?』
『今悩まれている事を解決……までは行かなくとも、進展が見込める方法があります』
『ほう。進展が見込める……。それは?』
『はい。現在クラウン様の中には以前に倒したハウンドウルフの魂が二つ分ほど余剰として確保されています』
ハウンドウルフの魂? ……ああ、確かに。八匹分の魂を回収し、その内六つは《魂魄昇華》で二つスキルへと作り変えたが、残り二つは放置していて忘れていたな。
『方法というのはその余剰魂二つを《魂魄進化》を用いて《解析鑑定》の経験値……熟練度に加えてみてはいかがでしょうか?進化はしないと思いますが、熟練度が上がれば見れる内容も増えるかと……』
成る程……。確かに有効かも知れん。余らせておくのも気持ちが悪いし、やらないよりは良いだろう。
『よし。やってみよう』
私はすかさず《魂魄進化》を発動。余っていたハウンドウルフの魂を二つ、《解析鑑定》の熟練度に突っ込む。すると、頭の中で天声の声が響いた。
『ハウンドウルフの魂二つを《解析鑑定》の経験値に加算しました。《解析鑑定》の熟練度が上がりました』
……変化は感じないな。まあいい、取り敢えず試してみるか。私は改めて《結晶習得》を調べてみる。すると──
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スキル名:《結晶習得》
種別:スキル
概要:対象を強制的に結晶化させ、スキルに還元するスキル。発動条件として魂の無い無機物、有機物であれば無し。しかしスキル習得率は限りなく低い。魂が宿っている場合、その対象を魂ごと一定時間〝結晶化方陣〟に留まらせなくてはならない。魂が宿っている対象を結晶化に成功した場合、ランダムで一つから三つまでスキルを習得する事が出来る。
追記:魂の無い無機物、有機物の結晶化に成功した場合、その対象に由来するスキルが結晶化する。
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……成る程、由来するか。
今回私が結晶化したのは死体……。死体に由来する、毒性と腐食がスキル化したわけだ。……理解は出来るが、これだけの事を知るためにエライ回り道をした気がするな……。まあいい、これで疑問は晴れた。
だがそれを踏まえると、魂の無いモノを結晶化するというのは悪くない気もする。何せ由来するスキルに変換だ、何か思い掛けないスキルを習得出来るかもしれん。
問題なのは低い成功率とそれを補う為に必要な馬鹿高い魔力量だが……。これが解決すれば私のスキルコレクションも捗るというもの、真剣に検討しなくては。
「あのぉ、坊ちゃん? 大丈夫ですか?」
そんなマルガレンの一言に私はハッと我に帰る。
いかんいかん、つい考え事に耽ってしまった。《思考加速》で頭の処理が早くなるのは便利だが、それでも時間は進んでいる。油断は禁物だ。
「悪い、少し考え事をな」
「ああ、はい。なら良かったです。アーリシアもそろそろ墓を作り終える頃合いです。早く処理しないと変に思われてしまいますよ」
「そうだな。シセラ、出て来い」
私はシセラを私の中から呼び出し、私の胸中から黒い光を伴ったシセラが飛び出す。
「話は聞いていたな? まずはこの死体を燃やして灰にしてくれ。私は延焼防止の壁と埋める為の穴を掘る」
「畏まりました」
「マルガレンはシセラに魔力回復ポーションで魔力を補給させてやれ。あの死体の量だ、燃やし続けるのも一苦労だろう」
「わかりました」
「よし、それじゃあ始めるぞ」
そうやって私はまず積み上がった四体の死体の周りを、この旅のあの合間に練習し、習得しておいた《地魔法》を使い片面だけ空いている正方形の囲いを作る。
そこに肉食獣モードに変化したシセラが《炎魔法》で炎を作り、火炎放射器の様に死体の山に浴びせ掛ける。
マルガレンは私から受け取った魔力回復ポーションをシセラが飲みやすい様平皿に移し、シセラの側に運ぶ。
私はそれらを確認した後に墓を建てるのに最適な木陰に移動して《精霊魔法》を使い地面を掘り下げて四体分の灰が埋まる穴を作った。
暫くしてシセラが魔力不足に陥った頃合いになり漸く死体は灰となり、そのままシセラは回復の為に私の中へ戻った。
完成した灰は《地魔法》で作った土のカプセルで包み込み、作っておいた穴の中へ置き、その上から《精霊魔法》で土を被せ、押し固める。
こういう使い分けが出来るから《精霊魔法》は便利なのだ。最近じゃ夜に野営する際の焚き火は火打ち石と打ち金で出した火花を使い一瞬で火が付けられるし、水の確保はジャックで実験して効果が発揮された川の水の濾過で賄っている。この魔法があれば最悪生きていけるんじゃ無いか?
そんな事を考えていると、土を固め終えたタイミングでアーリシアが手に手作りの墓を持って走ってこちらにやって来た。
その後ろでカーラットが「走ると危ないですよぉ!!」と声を掛けて追い掛けている。マルガレンやクイネは余り気にしていないのだが、カーラットとジャックは私同様にアーリシアに何かあれば一大事だと常に気に掛けている。
アーリシア自身は服が汚れようが多少の怪我をしようが気にしないのだろうが、私達の心労もちょっとは考えて欲しい。
と、そんな事を思っていると、案の定私に辿り着く手前で足元にあった小石に躓き、頭から地面に倒れそうになる。
このまま普通に踏ん張ってくれれば放って置くのだが、彼女は無意識からか、倒れそうになっているにも関わらず手に持っている作ったばかりの墓を庇うように前傾姿勢のままだ。
チッ、仕方ないな。
私は半ば呆れながら倒れそうになっているアーリシアに駆け寄り、すんでのところで彼女を抱えて抱き起す。
「おい、大丈夫か?」
「へ……は、はいぃぃっ……」
「まったく……。いい加減足元の見え辛い神官服で走るのは止めろ。いいな?」
「はい……」
本当に分かっているんだろうなコイツ。俯きやがって……。まあいい。
「ほら、そこに埋めておいた。早く墓を建てろ。そろそろ腹も減って来た」
「あ、ならこれが終わったら昼食ですね。私クラウン様のお料理楽しみです!」
「いやお前。移動するに決まってるだろ。死体を埋めたとは言えこんな血生臭い場所で食欲が沸くか」
「そ、それも……そうですね」
「いいから早く墓を建てて祈りを済ませろ。待っててやるから……」
「は、はい!!」
そうやってアーリシアは私が死体を埋めた場所まで移動し、土の上に木で出来た墓を建てて膝を着き、祈りを始める。
あー、なんか今日は妙に長い一日だな……。昼食は……、肉はいいや、ミルクシチューにでもしよう。
私は適当に献立を考えながら、アーリシアの祈る姿を後ろで見守った。
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