第七章:事後処理-8

 しかしアーリシアには気配だけは感じ取れた。あの胸の内をザワザワと掻き立てるような感覚が、この裏路地から感じる。彼女はそんな裏路地を目を凝らしてくまなく捜した。


 すると奥から三人の男が現れた。男達は彼女を見付けるや否や舌舐めずりをして彼女に近付いて来たのだ。


 彼女は念の為と考え彼等に男の子を見ていないか尋ねたが、問い掛けも虚しく彼等は軽く受け流し、既に彼女をどう扱うかしか考えていない様子だった。


 アーリシアはそんな彼等を早々に見限り、男の子を捜すのを一旦諦めてその場から立ち去ろうとすると男達に引き止められた。


 これにはアーリシアも流石に鬱陶しくなり、ついついそんな男達に盾突き、神の教えを説くと言って身構えてしまった。


 実の所、アーリシアには実戦経験など一つもない。それどころか敵を倒すなどの手段を一切所持していなかった。


 彼女自身何故そんな行動に出てしまったのか今でも分からなかったが、そんなピンチを先程追い掛けていた男の子に助けられる。


 有無を言わせぬ間に隙を作り、あっという間に三人の男を制圧してしまった場面に、アーリシアは息を呑んだ。


 そしてそんな彼に興味が湧いた。


 一体何処の誰なのだろうか? 聞いてみたが答えてはくれなかった。


 しかし彼は言ったのだ、もう一度会えば私達なら分かるはずだと。


 それ以来、アーリシアは布教活動をする度にその男の子が居ないかを確認するようになった。時々集中力が散漫になり、布教が上手くいかなかった時もある。


 そんな日が続き、今に至る。


「どうしたアーリシア、顔が赤いぞ? 熱でも出たんじゃないのか?」


「え!? 顔、赤いですか?」


「ああ、念の為今日はもう休みなさい。私の用事も明日には終わる。一人での布教は程々にしなさい。さっきも言ったが、王都とはいえ物騒な輩も少なくない」


「はい、分かっています、大丈夫です」


「本当か?なんでも先日なんかは裏路地で二人の男が……、おっと、お前には刺激が強いな……」


「え、お父様、今なんと?」


「いや、いい。兎に角、やるにしても気を付けるんだぞ?良いな?」


 そう言い残し、グーリフィオンはアーリシアを休ませる為寝室へと連れて行った。


 アーリシアはまだ日が沈み切らぬ窓を開け、外の景色を眺めながら先程のグーリフィオンが言った言葉を思い起こす。


(裏路地で二人……。まさか……。いえ、きっと違う。きっと……)


 彼の声を思い出す。自分と同じくらいの男の子。彼と会える可能性があるのも明日限り。アーリシアは帰らねばならない。そうなればきっと、もう会える機会もないだろう。


(明日が最後……)


 そう思い、アーリシアは夕陽に向かって手を合わせ、目を閉じて祈りを捧げる。


「我等が召します幸神よ。どうか私に幸福の一欠片をお与えください」


 それに応えるように、夕陽はいっそう赤々と輝いた。

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