第七章:事後処理-7

 同日同時刻──。


「ただ今戻りましたお父様!!」


「おおアーリシア! 戻ったか!」


 それは王都セルブで一番の高級宿「光陽の宿木」の中でも更に値が張る一部屋。そんな部屋に一人の少女、アーリシア・サンクチュアリスが素晴らしい笑顔で帰ってくる。


 この部屋は彼女、そしてその父親であり、幸神教教皇「グーリフィオン・サンクチュアリス」が泊まる部屋であり、彼等の仮拠点でもあった。


 各地を転々とし、布教を欠かさない世界最大の宗教団体である「幸神教」はその特性上、あらゆる地域に仮拠点を築き、布教活動を行なっている。


 そして教皇自らが各地を訪れる際はこの様な高級宿を利用するのも珍しくない。


「すまないなアーリシア。私の用事に付き合わせてしまって」


「そんな! 付いて行きたいと言ったのは私です! お父様が謝られる事ではありません! それに今日も王都の皆様に我等が幸神様の素晴らしさを説く事が出来ました。私はそれだけで満足なのです!!」


 アーリシアはグーリフィオンが王都での用事をこなしていた数日間、その全てを幸神教布教の為に費やしていた。


 彼女にとって幸神、延いては幸神教は既に生きる主軸となっていた。洗脳や教育の類ではなくただ純粋に、それこそ家族というような類にさえなりえる程に彼女にとっては常識になっている。


 そんな幸神教の布教は彼女にとっては寧ろ娯楽に分類される。人々に自分が感じている幸せ、幸福感を伝えたい。それが彼女の楽しみなのだ。


「そうかそうか。お前は神官の鑑だな。だが余り遅くなってはいけないよ? 王都とはいえ治安が完璧ではないからな」


「……はい、心得ています」


 その言葉にアーリシアはある出来事を思い出す。


 それは数日前、王都の中街にある商店街の中心にある噴水広場にて今日と同じ様に住民に幸神教の布教活動をしていた時の事、彼女は一人の男の子を見付けた。


 その男の子と目が合った瞬間、彼女の中に得体の知れない悪寒が走った。そして彼女のまだ幼い本能が、彼を敵だと警笛を鳴らして止まなかった。


 それを感じ何事かと頭が混乱する中、恐らくは同じ感覚に苛まれたであろうその男の子は一目散にその場から離れようとしたのが見えた。すると彼女は何故だか無性に彼を追わなければという激しい使命感に襲われ、思わず彼を追い掛けてしまった。


 中々に早足だった彼を見失わない為にわざわざ一日に一度しか使えないスキル《脱兎の俊足》を使って追い掛けた。


 そして追い詰めたと思い路地裏を覗き込んだ時、彼女は彼を見失った。

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