第六章:貴族潰し-15

 天族。背中に翼を生やし、ここティリーザラ王国から遥か西の浮遊大陸を国とする種族であり、この国で過ごしている人間にとっては余り馴染みのない種族である。


 そんな天族の少女が、盗賊のアジトらしき場所で檻に入れられた状態で鎖に繋がれている。


 これは……。一体……。


 意識が朦朧とする中、そんな記憶達は次第になりを潜め始め、とうとう呼び起せなくなってしまう。


 それと同時に感じていた激しい頭痛や寒気も収まり、意識もはっきりしてくる。


 危なかった……。あのまま気を失っていたら流石にマズ過ぎる。取り敢えず見えた記憶は置いておいて、一先ずは獲得したスキルの確認を…………ん? 天声、スキルは獲得出来ているのか? アナウンスが無いようだが……。


『ただいまクラウン様が獲得された魂をスキルに変換中です。人間の魂を生贄にした事により処理に時間が掛かっています』


 何? 人間の魂をスキルに変換するのにはそんなに時間が掛かるのか?


『はい。人間、延いては知能が発達した種族で尚且つある程度の生命活動時間が長い個体の魂のスキル変換にはそれに応じた処理時間が掛かります』


 成る程。因みにどれくらい掛かるんだ?


『時間にして約七十二時間を要します。スキル《演算処理効率化》を使用すれば時間の短縮が可能です。使用しますか?』


 ふむ、七十二時間、三日か……。少し焦れったいな。よし、《演算処理効率化》を使う。


『確認しました。スキル《演算処理効率化》を発動。魂のスキル変換に掛かる時間が七十二時間から二十四時間に短縮されました』


 二十四時間。まあ、良いだろう。これは一仕事終えた後のお楽しみという事でって…………。


 私はある事を思い出し、空を見上げる。月の位置は先程より傾き、短剣の男をスキルに変えてから既に三十分近くが経過している。


 やってしまった!! 不測の事態に気を取られて時間を忘れてしまった!! マズイ!! 急いで宿に帰らなければ!!


 私は慌てて宿屋に走り出す直前、振り返って状況に不備がないか確認する。ザッと見て違和感が無いのを確認し改めて全力で走り出す。ここから宿屋まで約三十分……間に合うか?


 疑問を抱えながらも走るのを止めるわけには行かない。今夜、私はスーベルクの屋敷に侵入し、不正の証拠を盗み出す。三人の盗賊を相手にした今、簡単な任務に見えて仕方ないが、だからといって手を抜いていいわけではない。やるからには全力。スーベルクには破滅してもらおう。




 同日同時刻──王都セルブ内宿屋。


「遅い…………もう決行まで一時間半しかないのだぞ?クラウンは一体どこで何をしているのだ?」


 クラウンの父、ジェイドは宿屋の一室にて息子の帰りを待っていた。この街に潜伏し、スーベルクの監視や協力者との連絡役との密談を終え、宿屋に戻った時には既にクラウンは居なかった。


 机の金の入った皮袋が無くなっていた事からクラウンが外に買い物に行ったのだと思い、一人部屋で待機していたのだが、そのクラウンが一向に帰って来ない。


「まさか……クラウンは買い物ではなく攫われたのか? いや、しかし部屋は荒らされていない……。クラウンの事だ、何者かの襲撃を受けて一切抵抗しないというのは……」


 ジェイドはクラウンを評価している。それもとびきりの評価だ。習い事を苦も無くこなし、礼節を重んじ、剣術の天才である姉ガーベラとの訓練にもついて来れるポテンシャルを発揮し、更には魔法まで習得し得たと聞く。習得高難易度のスキル《解析鑑定》をも手中に収め、更には暗殺者として送り込まれて来たハーボンを撃退してのけた。


 たった齢五つの子供が既にここまでの偉業とも取れる数々の事柄を成し遂げている。父親のジェイドからすればこんなに誇らしい事はない。故に今回のスーベルクを追いやる為の証拠入手作戦の根幹を任せたのだ。クラウンの類稀なる才能を信じ、そしてこれからの長い人生の糧になるならと。


「ふふ、何故だろうな。普通こういう時、父親であるならば血相を変えて息子を探し回るものなのだろうが、アイツなら大丈夫だろうと不思議と思えてしまう」


 アイツなら、クラウンなら例え誘拐犯が現れても返り討ちにするだろう。そんな光景が頭に容易く想像出来る。そしてそれはどこか確信を得て言える。ジェイドはそんな自分に少しだけ笑った。

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