第六章:貴族潰し-16
私が宿屋に帰って来れたのは、侵入作戦決行の僅か五十分前、スーベルクの住む屋敷までの距離を考えるとかなりギリギリになってしまった。
父上には少し叱られた後に休憩などしなくていいのか、と聞かれたが、相も変わらず眠気は一切無い。自分でも自分の身体がどうなってしまっているのかかなり気掛かりだ。
一度天声に自身の健康状態のアナウンスを頼んだのだが、案の定不調である上に熟練度が低いからか具体的な症状や解決法も判然としなかった。
とは言っても解決法が判明した所で完治させるような暇も時間もない。それどころか何かしらの病気などが発覚してしまっては作戦どころではなくなってしまう。それは頂けない。
幸いにも自己診断で言えば身体の調子は悪くない。多少──いやかなりの無理を強いている可能性はあるが、本格的な悪影響が出る前に動ける今動かなければ後にかなり響いてしまう。
作戦内容としては神経は使うものの、身体的な面ではハードではない。なるべく体力を温存しながら、確実に任務を遂行する。今私が自分の身体にしてやれる事はそれが限界だろう。
そうやって自己診断を下し、私と父上、それから父上の部下である「カーラット」の三人で馬車に乗り込む。
馬車を使う理由としては単純にこの宿屋からスーベルクの居る屋敷までにそこそこの距離があり、歩きよりも断然早く着くからだ。しかしスーベルクはかなり神経質な様で自身の屋敷周辺はおろか、その更に倍の広さを警戒網としているらしく、下手に近付く事が出来ない。なら激しい音を伴う馬車でどうやってスーベルクの屋敷まで行くのか?答えはその馬車本体にある。
なんとこの馬車、スキル《
それだけでも父上がいかに本気でこの作戦に挑んでいるかが伺える。
そんな《
屋敷内ではやはりというか、かなり警備を厳重にしているらしい。これはスーベルクがコチラの作戦に勘付いているわけではなく、父上の協力者がスーベルクと会談するという名目で気を引いてくれる事に起因する。
それでは本末転倒になるのでは? とも思いもしたが、そこはちゃんと別案がある。
協力者の部下に一人、かなり優秀なスパイがいるらしく、現在進行形でスーベルクの使用人として活動中らしい。そしてそのスパイは決行時間になると屋敷中の灯りを全て消し、屋敷内を暗闇にするという。
この世界には電気を使った灯りは流通していない。全てが本物の火を使った灯か魔法による灯のみでスーベルクの屋敷も例に漏れず魔法の灯を使っている。電気を用いた灯ならば主電源さえ落とせば屋敷内全ての灯りを消せるが魔法の灯りを全て消すとなるとかなり手間が掛かる。
だがその魔法の灯りもそのスパイによって工作され、合図一つで全て消えるのだそうだ。
……聞いていて思ったのだが、これ私が盗む必要あるのか? そのスパイに盗ませればいいのではないか?
そんな疑問にも父上はちゃんとした理由があると説明してくれる。
スーベルクは基本、他者を一切信用していない。それが例え直属の部下だろうが長年勤める使用人だろうが関係ないという。故に使用人としてスパイしている協力者の部下も下手に動けない。しかもスーベルクの事だから証拠が盗まれたのを知られた後に身体検査くらいならば当たり前に行うという。
だから外部から盗むしかなく、また尚且つ優秀な人材が必要なのだとか。評価されるのは嬉しいが、プレッシャーにもなるから止めて欲しい。
それと、と父上が付け加え、半笑いで口を開いた。
「スーベルクには死別した妻との間に一人息子が居てな。まあ、養子らしいのだが、一応は見つからない様に注意しなさい。まあ、この時間だ、既に床に着いているだろうが」
スーベルクに、息子?
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