第六章:貴族潰し-17

 スーベルクが没落した場合、その息子はどうなるのか?


 その場合、これは親であるスーベルクにもよるのだが、大抵は孤児として孤児院なり教会なりに拾われるらしい。


 没落した貴族はその殆どが成金の財産持ちの娘なんかと結婚するか、軍人として功績を挙げ、植民地などで利権を得るか、または学問を修めて役人を目指したりなどが一般的らしく、それを成せなければ下手をすると餓死するのも珍しくないという。


 なんにしろ没落貴族がその後を生きるには並大抵の事では成し得ない道が待っている。そんな過酷な道を、果たして自身の子供を抱えながら歩めるだろうか?


 まあ、愛情の有無にもよるが、かなり無理があると私は思う。ましてやスーベルクが自身の息子を愛でているとは思えない。自己顕示欲の塊みたいな奴であるスーベルクは恐らく躊躇なく息子を孤児院なりに入れるだろう。


 世知辛いといえばそうだが、だからといって容赦してやる程私はお人好しではない。そこらの路地裏に放り出されるわけではないのだ、これも運命だと諦めてもらおう。


 さて、そんな話をしている間に馬車はスーベルクが張る警戒網のギリギリの所まで到着した。まだ割と距離があるが、流石にここからは《消音化サイレント》付きとはいえ馬車は厳しい。後は様々なスキルを活用出来る私と、道案内をしてくれるカーラットの二人で屋敷まで近付き、私が侵入を開始する。


「改めまして坊ちゃん。私はカーラット・ネフライト。ジェイド様の部下を務めております。本日は私が道案内を担当致しますので、どうぞよしなに」


 深々と頭を下げるカーラットのその仰々しい対応に私は少々面食らってしまう。


 いくら父上の部下とはいえ、少し私に謙り過ぎではないか?そう思い父上に目線を向けると、父上は呆れた様に軽い溜め息を吐きカーラットの肩に手を置く。


「カーラットよ、お前は少し畏まり過ぎだ。確かに私の息子だが、今は同じ作戦を遂行する同士、敬語を使うなとは言わぬからせめてもっと親し気に出来ぬか?」


「成る程、わかりました! では坊ちゃん、改めてよろしくお願いします!」


 そう言ってカーラットは私に右手を差し出してくる。一応これから犯罪紛いの作戦を実行するというのになんだその爽やかな笑顔は。


 そう思いながらも、私はそれに応えるように右手を差し出してお互いに握手を交わす。


「こちらこそ、よろしくお願いします」





 今現在、スーベルクの屋敷裏、ここまで来るのでさえ、割と苦労した。


 スーベルクの屋敷がある上街はこの時間帯になると警備以外の一切の人が居なくなる。上街には中街、下街とは違うルールが働いているらしく、この時間帯に出歩いている人間が居れば見つかり次第貴族だろうと一時的に拘束されてしまう。


 そして王城にある「警備総括本部」に直接警備許可書を提出した者の部下や警備兵のみが出歩く事を許されているのだ。


 そんな中、上街の至る所にスーベルクが手配したセラムニー家の家紋を腕章として付けた警備兵が徘徊し、その目を光らせていた。


 本来、私のスキルを駆使すればその程度の警備なら易々と潜り抜けられる。しかし今回は道案内のカーラットを伴っている為、スキルゴリ押しの強行策が取れなかった。


『申し訳ありません。私が足手まといになってしまって』


 カーラットが殊勝にも私に頭を下げて来たが、そもそも道がわからない私が文句を言える立場ではない。まあ、地図を渡してくれれば解決するのではないかとも思ったが、折角協力してくれるのだ。ここは素直に甘えよう。


 そうして無数の警備網をなんとか潜り抜け、時には警備兵の不意をついて気絶させ、時には物音を立てて気を逸らし、時には見つかり危うく報せが広まる所だったりを繰り返し、私達はなんとかこの屋敷裏にまで辿り着いた。


「さて、ここからは坊ちゃんの独壇場です! 思う存分やっちゃって下さい!」


 それだと私が暴れ回るみたいな表現に聞こえるが……まあ、いいだろう。


 さあ、ここからが本番だ。屋敷に侵入し、不正の証拠を掻っ攫う。必ず破滅させるぞ、スーベルク。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る