第六章:貴族潰し-2
…………なんだって? 屋敷に侵入? 私を? いや、私としては当初からその予定ではいたのだが、まさか向こうから提案されるとは……。
だが、これは好都合。これならば私がこれ以上に不自然な行動を取らなくて済む。まずは慎重に……。
「し、侵入……ですか?」
「ああ、実の所、奴を追い詰めるに足る確かな証拠が足らないのだ。そしてどうやらその証拠は奴が直接管理しているらしい」
「何故それがわかったんですか?」
「消去法だよ。部下を使って様々な面から情報を探らせたのだが、確固たる証拠だけは探し出せなかった。最早奴が直接見張っているとしか思えん」
成る程。仮にあるとするならば……。
「それならば……スーベルクが良く使う部屋、もしくは奴が直接所持している?」
「そうだな。だが奴も貴族の端くれ。自身の不正の証拠をずっと所持しているなんて見っともない真似はしないだろう。その証拠に奴の執務室には厳重な金庫があるのが確認されている」
金庫か……。ちょっとした鍵程度ならば前世で培ったピッキングでなんとかなるが、金庫は厳しいな……。これは鍵開けのスキルを習得すべきか?
「金庫ですか。厄介ですね……」
「ああ、そこは問題ない」
そう言って父上は執務机の引き出しから何やら金属の短い棒を取り出した。簡単に言えばヘッドと棒だけの鍵に見える。
「これは……?」
「これは「万能鍵」。技術系スキル《開錠》のスキルが封じられたスキルアイテムだ」
スキル、アイテム? なんだそれは……。
「スキルアイテム……ってなんです?」
「おっとそうだな……。まあ端的に言ってしまえば羊皮紙ではなく別の物品にスキルを封じた物、と思って貰えればいい。羊皮紙に封じたのがスクロール、その他の物に封じたのがスキルアイテムだ」
ほうほう! そんな物が存在するのか! なんて魅力的で興奮する物が存在しているんだ!!
「だがスキルアイテムはスクロールに比べてかなり貴重な物だ。羊皮紙の様にスキルの封印が安定しない上にスクロールとは違って封じられたスキルを習得出来る可能性はかなり低い」
「つまりスキルアイテムはスクロールの様にスキルを習得する為ではなく、封じられたスキルを一時的に使える様にする物……という事ですか?」
「その通りだ。因みにこの万能鍵は鍵穴に差し込みさえすれば施錠された物を高確率で開錠してくれる。まあ、失敗する事もあるそうだが、一般的な金庫程度ならばそれが可能だろう」
ふむ、ならば金庫の問題は解決か……。後は侵入経路と逃走経路だが……。その前に。
「父上、話は変わるのですが、侵入というのはスーベルクが居ない時を狙うのですか? 証拠が執務室の金庫にある以上、スーベルクが屋敷を留守にするというのは考え辛いのですが……」
「それは問題ない。確かに奴は屋敷を離れないが、その代わり引き付けてくれる者がスーベルクを相手取る予定だ」
「引き付けてくれる者……。それは先程にも出て来たスーベルクを監視している者と関係が?」
「……鋭いな。関係があるというよりは同一人物だ。私の協力者……いや、私の上司の様な人だ。この国でかなりの権力を誇る方々の一人であり、国防の要の様な方だ」
そんな凄い人物が……。ならばもうその人物に丸投げしてしまえばいいのではないか?いやまあ、スーベルクを破滅させるというのは私が個人的に始めようとしていた事ではあるのだが……。
「凄い人物なのですね……。そんな人が味方ならば私が手出ししたのはやはり余計なことだったかもしれませんね」
「何を言う! 先程も言っただろう? この状況は利用できるのだ。奴の証拠を盗み出すには奴を油断させなくてはならない。今の状況はその油断を誘い出せると踏んでいる」
「油断を誘い出せる? 一体どの様にして?」
「…………私が暗殺された事にしてしまうのだ」
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