第六章:貴族潰し-3

 父上を、死んだ事にする? 確かにそれならばスーベルクを油断させる事は出来るが……。実際問題可能なのか?


「そんな事可能なのですか? 奴だって貴族。それなりの情報収集手段を持っていてもおかしくありません。父上の死を偽装しても、看破されてしまうのでは?」


「そう、その点だ。確かにスーベルクの使用人の何人かは情報収集を得意とした者らしい。下手な偽装は意味をなさないだろう」


「それでは……」


「だが一つ、利用出来るモノがある。昨日、お前が丸一日起き上がれなくなっていたろう?まあ、その時私はお前が暗殺に巻き込まれたのではと少々混乱してしまった故緘口令を布いたのだが、これをスーベルクが私に対する暗殺が成功したからなのでは?と解釈させるのだよ」


 ……それはつまり偽報を使ってスーベルクを罠にハメると言う事か……。という事は……。


「ただでさえ今スーベルクは父上に弱味を握られていて居心地が悪い思いをしている……。ならば……」


「そう、スーベルクが欲しいのは私が確実に死んだという情報。ならばくれてやれ、という事だ」


「スーベルクは食い付くでしょうね。そして奴の今の心情なら、」


「居ても立っても居られず計画を推し進めるだろうな。事実確認など二の次に」


 うぅーむ、まだ多少の不安材料はある。スーベルクは確かに愚かだが、果たしてそこまで単純だろうか? 奴だって海千山千の貴族社会を渡り歩いた人物。そう簡単には……。そしてそれ以上に……、


「なんだ? 不安なのか?」


「いえ、いくらスーベルクでもそんな単純なのかと……。それに私は暗殺者であるハーボンを逃してしまいました。逃げた奴がスーベルクに暗殺失敗を報告すれば意味が無いのでは?」


 一応、私は暗殺者ハーボンを逃した事になっている。逃げた暗殺者は作戦の成功失敗を問わず報告する筈。ならば父上としてそれをなんとしてでも止めなければならないと考える筈だが……。


「そこは安心しなさい。さっきも言ったろう? スーベルクを監視している味方が居ると。後でその味方にハーボンの事は伝えておく。スーベルクにハーボンを近寄らせるな、とな。それと奴自身についても安心していい。奴は確かに貴族社会を渡り歩いて来た貴族だが、十数年間あれこれ手を尽くしてもその爵位は一度だって変わらなかった。何故だかわかるか?」


「…………いえ、わかりません」


「奴はな。目先の欲しか見えてはいないのだ。これまでの奴の行動、人間関係を調べていて判明したのだが、奴は事あるごとに己の策謀をその目前で失敗させている。それも皆奴自身の欲深さ故の視野狭窄によるものだ。そんな者が今回ばかりは慎重になるなど、考えられない」


 成る程。ならば尚更この父上の死の偽報は奴に効くのではないか?


「そうならば父上の死は、奴にかなり刺さるやもしれませんね」


「その通りだ。奴の周りは私の協力者の部下で固めているからスーベルクの奴に余計な情報はまず行かない。バレる事はないだろう」


「成る程。そして奴が騙されている間に私が証拠を盗めばいい話ですね」


「そういう事だ。まあ、仮にお前がスーベルクに見つかってしまっても、私には〝秘策〟がある。それを使えば少なくともお前は助かる故、心配するな」


「秘策、ですか」

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