第六章:貴族潰し-4

 秘策……ねぇ、それが父上が息子である私を危険な場所にやっても大丈夫だと断定する根拠なのだろうか?


「その秘策とやらは私に教えて下さらないのですか?」


「ん? ああ、これを今教えてはお前は遠慮してしまうかもしれんからな。まあ、大雑把に言うならば我が家に伝わる特殊なスキル、とだけ覚えておけばよい。いずれお前に継承してやるつもりだしな」


 特殊なスキル? なんだその胸が高鳴りそうな響きは。エクストラ? はたまたユニークなのか? 気になる……。だが今はそれどころではない。頭を切り替えなければ。


「取り敢えずこの話は後にしよう。それでは話を整理するぞ? まず奴に私の死の偽報を流す。奴はこれに十中八九食い付くだろう。更に私の協力者が奴の気を引き付ける事でスーベルクの視野は更に狭まる」


「そんな視野狭窄に陥ったスーベルクを横目に私が屋敷に侵入、万能鍵を使って不正の証拠を見付け出し、それを持ち帰る。大雑把にはこんな具合で大丈夫ですか?」


「ああ、後は細かな情報と照らし合わせて綿密な侵入経路及び脱出経路、予備に逃走経路の確認を行うだけだが……」


 そこで父上の話が途切れてしまう。父上は私の顔を見るなり困惑した表情を見せると再び口を開いた。


「所で、なのだがクラウンよ。奴の屋敷に侵入するに際し、何よりも必要なモノがあるのではないか?」


 必要なモノ? 道具かはたまた闇に紛れるローブか……。いや、現実逃避は止めよう、わかっている。私も当初から悩んでいたし、唯一閃いている解決策はあまり乗り気がしない。何せ……。


「…………はい、メルラの所に向かおうと思います」


「そう、か。わかっているか……。私が金を用意してやれれば良いのだが……」


「いえ、わかっています。父上が何枚分もスクロールが買えるようなお金を私に渡し、メルラの店でスクロールを買えばメルラが勘繰るでしょうね」


「ああ、義姉さんはああ見えて中々の慧眼の持ち主だ。お前が下手に大金を出せば私がお前を何かに使うのではと思い至るやもしれん。そうなれば義姉さんは私を止めるだろう、何だかんだと甥っ子であるお前を好いている様だしな」


 父上は困り眉を寄せるものの、その表情にはそこはかとない嬉しさが滲み出ている様に見えた。


「なので私はなんとか無茶を言ってメルラからスクロールを何枚か融通してもらうつもりです。多分無理難題を押し付けられると思いますが……なんとかします」


「そうか、わかった。お前を信じよう。良いか? お前がスクロール屋から戻ったら直ぐにでも各種経路を打ち合わせ、その足で奴の屋敷がある王都まで向かう。そしてその翌日に必要な物や情報を集め更に計画を煮詰め、夜にはお前に屋敷に侵入してもらう。かなり無茶なスケジュールだが、やれるか?」


「今更です父上。私はとうに覚悟は出来ています。やりますよ私は」


 そう言って凄む私に、一瞬父上が驚愕したように表情を曇らせる。別に五歳児としての演技などしているわけではないし、父上や母上も最早私のこの子供らしからぬ発言や行動、姿勢に慣れてはいたらしいのだが、やはり違和感は完全には抜けないようだ。


「…………相変わらずお前はその歳のわりに異様なまでにしっかりしているな。時々五歳児と話しているというのを忘れそうになる。一体誰に似たのか……」


 まあ、前世からの記憶と自我がある私は両親の誰に似たのかなど無いようなものだが、強いて言うならば……。


「…………両方、ではないですかね?」


「はっはっはっ。一応、褒め言葉と受け取っておくかな」


「ええ。……父上、一つよろしいですか?」


「む?なんだ?」


「……どうして私をスーベルクの屋敷へ? 了承した私が言うのも何ですが、普通は息子を危険な場へなど……」


「……そうだな」


父上は椅子から立ち上がると窓辺へと歩いて行き、こちらを見ないまま続きを溢す。


「……私とて、本来ならお前を行かせたくなどない。最悪の場合もあり得るからな」


「……」


「だが許しなさい。それが我が家の……。忌まわしきしきたりなのだ。……本当に、忌々しい」


「父上……」


「今は詳しくは言えん。しかし私は寧ろ良かったと感じてもいるのだ。少なくとも私の目の届く範囲なのだからな。私の時に比べれば、マシだ」


「……」


「さあ。準備をしなさい。万全に、な……」






 その後私は予定通りメルラの店に行き、スクロールを貰いに行った。予定外だったのはその場で魔法を習得するハメになったのと、それに伴い帰りが遅くなってしまった。また魔法の訓練の代償として魔力を持っていかれたせいでその日の内にスキルを習得出来なかった事。


 …………まあ、往々にして予定外なんてのは頻発するものだ。この程度で動揺してはいけない。


 ただ一つ、メタくそに揺れまくる馬車の中でひたすらにスクロールからスキルを習得しようと睨めっこしたのは失敗だった。お陰で久々に酔いまくりである。後、腰と尻が痛い。


 だが時間を有効活用する為と必死こいて翌日の昼頃、王都セルブに到着と同時に五枚のスクロールからスキルを習得したのだった。


『確認しました。補助系スキル《隠匿》を習得しました』


『確認しました。技術系スキル《見切り》を習得しました』


『確認しました。補助系スキル《敏捷補正・I》を習得しました』


『確認しました。補助系スキル《思考加速》を習得しました』


『確認しました。補助系スキル《演算処理効率化》を習得しました』

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