第一章:散財-20
「ご、合計金貨百七十枚になります……」
「はい。ではこれで……」
私はロリーナから受け取ったもう一つの革袋から金貨を三十枚取り出してからその革袋を女性店員に渡す。
「は、はい確かに……。今包むからちょっと待っててくれ……」
女性店員はそれを恭しく受け取ると、私が購入した武器達を一つ一つ丁寧に梱包し始める。
いやはや、大変良い買い物をした。
帝都の商業区画には複数武器防具屋が存在するが、道中に耳にした噂や聞いた話を参考にしてこの店を選んで良かった。評判通りの品揃えと高品質振りで私は満足だ。
……ただまあ、横にいるロリーナが若干不機嫌そうにしているのが気になるが……。ふむ、後でなんとかしよう。
購入した武器は細剣、大剣、手斧、大斧、槍、弓、小盾、大盾の八種類。結構買い込んだ。
中でも高額だったのは細剣と大剣と大斧と槍。それぞれが特殊な金属、鉱石を素材に使った物で、先程の細剣が十五枚、大剣が金貨三十五枚で大斧が金貨三十枚、槍が金貨四十五枚と個人的感覚で言えば安く感じる。
小盾と大盾を両方買っているが、小盾は自分用、大盾はマルガレンへのお土産だ。ハーティーのせいでマルガレンに渡したカイトシールドが使い物にならなくなったからな。遺跡の件が終わったら、ノーマンに言って二つの大盾を合わせて貰うつもりだ。
「包み終わったよ……。んでアンタ、こんな大量にどうするんだい? いっぺんに持てないだろうし……四人で手分けして持ってくのかい? なんなら後日ウチの若いのに届けさせてもいいだけど……」
「ああ、それには及びません」
私はポケットディメンションを開き、武器を一つ一つその中にしまい込んでいく。そんな私に口を開けたまま固まる女性店員。
「……アンタ、一体何モンなんだい……」
「ただの物好きですよ……。それでは時間も時間ですし、そろそろお暇させて頂きます」
そうして私達が揃って店を出た時、女性店員が私達を追い掛けるようにして店の扉を潜り、綺麗に腰を曲げて頭を下げる。
「ありがとうございましたっ!! どうかまた当店「震える真剣」を宜しくお願いしますっ!!」
「……ええ。またいずれ寄らせて頂きますよ」
私が女性店員にそう告げると、彼女はもう一度頭を下げてから店内に戻り「アンタぁーっ!! 今日は御馳走にするよぉーっ!!」という声を店外にまで響かせていた。
すると私の隣に立つロリーナが小さく溜め息を一つ吐いてから、何かを諦めた様な表情で私の顔を見上げる。
「……本当は少し、お説教しようかと思っていたんですけれど……。あれだけ喜ばれてしまうと、そういうわけにもいきませんね……」
「ふふふっ。説教と来たか……。私が言うのも何だが、よく途中で止めなかったな。結構使ったと思うんだが……」
「自覚はあるのですね……。……武器は状況や環境によって使い分ける物だとは理解していますし、安い物を買って戦闘に支障をきたしてしまっては大事ですから」
「……それはスクロールから得られるスキルも変わらないんじゃ……」
「変わりますよ。クラウンさんはスキルならもう十分所持しているではないですか。今急いで買われる必要はありません」
「う、うん? そうか……」
まあ私のスキル集めは殆ど趣味だからな。確かにそう焦って集めなくても構わないっちゃ構わないが──
「それに──」
「ん?」
「……い、いえ……なんでも……」
「そうか? ──と、それよりもう夜が更けてくるな……。さっさと宿に戻ろう」
そうして私達は漸く宿への帰路に着いた。
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「な、なあロリーナ」
「はい、なんでしょう?」
「君、クラウンに甘くないかい?」
「甘い……ですか」
「ああ……。最初金貨二、三枚って話だった事を言わねぇし、財布管理してんのに金貨百七十枚も使わせちまうし……。十枚で大金だと騒いでいたのはなんだったんだよ」
「理由は先程クラウンさんにも説明しました。武器は多少お金が掛かっても仕方が無いと、思ったまでです」
「それにしたって金貨百七十枚って……。俺の家一応貴族だけど、そんな散財した事ねぇぞ……。本当にそれだけなのか? それだけで許したのか?」
「……見てしまったので」
「え? な、何を?」
「武器を選んでいる時のクラウンさんの楽しそうな顔を……見て、しまったので……」
「……やっぱり甘いじゃないか」
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宿に戻ってからは遅めの夕食を済ませ、各々の割り振られた部屋へ自分が買った物を抱えながら入った。
夕食と言えばこの帝国での食事。個人的な総評を言えば王国の食事事情と比べるとかなりマシだと感じた。
勿論、前世で鍛えられた私の肥えた舌からすればまだまだではあるのだが、王国の一般的な食事処と違い、調理に手抜きは見当たらないし、味自体も整っていて文句は無い。
ただ問題なのは調理法と味にバリエーションが乏しい事。前世で当たり前だった調理法は今世じゃいくつか見当たらないし、恐らくこの世界じゃまだまだ香辛料や砂糖なんかの調味料の値段が高い事と普及率が低い事が原因なのだろう。
実際商業区画で色々回って見たが、どれもこれも何グラムで銀貨金貨を出すレベルだったからな……。とてもじゃないが買う気がしない。
貴族や王族が食べる様な食事ならばそれも解消されているのだろうな。まあ、これは仕方がない。
どうしてもそれらが欲しいなら……。自分で作るか? 悪くはないが……優先度は低いな。取り敢えず保留だ。
そんな考えを巡らせながら風呂などを済ませた私は、部屋のリビングにあたる場所に設置された家具等を一旦横に退かす。
それによって出来た割りかし広くなった空間に、私は買ったばかりの八種類の武器達を一つずつ床に並べ、俯瞰でじっくり眺める。
細剣に大剣、手斧に大斧、槍に弓に小盾大盾……。改めて我ながらよくもまあこれだけ買い込んだもんだ。
一つずつ見ていくと……。
まずは細剣。
パス合金の製法は以前私がノーマンに依頼した時に用意して貰ったブレン合金と同様ドワーフ特有の技法が用いられた特殊な合金。まあ、それでもブレン合金程では無いらしいが……。金額は金貨十五枚。
次に大剣。
数センチはある分厚く重厚で幅広い刀身を持つ身の丈はあろうかという大物だ。そんな物に
七防鉱は帝国の北側に
そんな物が使われたこの大剣の強度は恐らく私が持つどの武器よりも高いだろう。その代わり重量の方も一般的な大剣と比べて増し増しではあるのだが……。金額は金貨三十五枚。
そして大斧。
形状はバトルアックスの様に両刃の付いた物で、細剣や大剣と比べて細かい装飾が複数刻まれている。
こちらも七防鉱が使われており、大剣と同様その頑強さと重量を武器とした高品質の大斧である。金額は金貨三十枚。
四つ目は槍。
形状は一般的な槍に刃の根本に細かい装飾を施された物で刃自体も少し特殊な形状をしている。実用性というより見た目を重視された様な槍だが、使われているのは今までの中で一番高価で、私も良く知る素材ブレン合金。耐錆、耐食に優れたドワーフにしか作れない合金だ。
その為かコイツの値段は単価で最も高い金貨四十五枚。
以上の四つが購入した中でも突出して高品質で素材が特殊だった武器達だ。その他の物も四つの武器程で無いにしろ店の中じゃ一番高価且つ性能の良い物を選りすぐった。
これらの合計が金貨百七十枚。大金も大金である。普通の兵士や戦いを生業としている者からすれば気が触れたのでは?と疑われても仕方がないだろうな……普通個人でこの数の武器を扱うなんて出来ないのだから。私以外は。
さて、武器の簡単な検分も終わった事だし。今日はもう片付けと荷物整理を終えたら早く寝てしまおう。いくらスキルで多少眠らなくてもよくなったとはいえ休息は必要だからな。
明日はいよいよ遺跡に向けて馬車を走らせる。魔物も楽しみだし、新たな使い魔も楽しみだ。
私は武器達をポケットディメンションにしまい、退かしていた家具類を元に戻した。
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