第六章:貴族潰し-24
勝てるか?
私は自身に問い掛け、簡潔な答えが本能的な部分から即座に返ってくる。
アレは無理だ。少なくとも今の私では絶対に勝てない。その証拠に、
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人物名:キグナス・クーロンバーク
種族:人間
年齢:三十五歳
状態:健康+筋力、敏捷補正・II
役職:民間警備ギルド「白鳥の守人」分隊長
所持スキル
魔法系:《地魔法》
技術系:《短剣術・初》《体術・初》《大槌術・初》《大槌術・熟》《
補助系:《筋力補正・II》《敏捷補正・II》《気配感知》《熱源感知》《暗視》《直感》《鼓舞》
概要:民間警備ギルド「白鳥の守人」の分隊長を担う男。ギルド内で一二を争う実力者。
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スキル構成を見るにパワーとスピード重視のアタッカー。長くデカイ得物の弱点である懐の隙を体術と短剣で補い、各種索敵スキルで相手を逃さず、スキル《鼓舞》で仲間が駆け付ければ更に戦力が増す。オマケに事前にバフ系スキルまで発動させている始末。
勝てるわけがない。というか逃げるのも厳しくないか? いや、厳しいどころか多分無理だ。さあ、どうする……どうする……。
私は取り敢えずナイフを構える。こんな小さなナイフで一体何が出来るんだという話だが、無抵抗に捕まるのは真っ平御免だ。
「ほぉう、ヤル気かい? 俺が言うのも何だが、さっきの一撃を見て怖じ気るのは別に恥ずかしい事じゃないぜ? 俺には強がっているようにも見えるが?」
クソ……。そもそもコイツ、この上街で何やらかしてんだ!? あんな揺れ方とこの有様は流石に誤魔化し効かないだろ……。一体何考えてんだ……。
「ふぅん……。だんまりか……。じゃあ取り敢えず!」
そう言ってキグナスは担いでいた大槌を天高く振り上げ、そのまま自身の膂力と重力を利用した勢いで大槌を地面へと強烈に叩き付ける。
激しい地響きと轟音が鳴り響き、叩き付けられた地面は巨大な亀裂を再び生み出し、私に猛烈な速さで迫って来る。
ちょっと待て馬鹿野郎!!
私は全身の筋肉をフル稼働させ、迫る亀裂から全力で飛び退く。私の元いた場所には亀裂により再び惨状と化した。
「うーん、やっぱり避けられるかぁ。さてどうしたもんかなぁ」
トボけたように首をひねるキグナス。それに対して私は既に体力面で満身創痍である。
ただでさえ三十六時間もの間一睡もしておらず、まともな休息も取らずに盗賊三人を相手にし、スーベルクの屋敷内ではすれ違った警備兵を悉く麻痺させ、何かある度に魔力を使って来た。そして何より自分でも忘れそうになるが、私は五歳児。基礎体力なんか成人男性の何分の一だ、という話である。
そんな私が今、何を感じているのかと言えば……。
…………なんだか猛烈に悔しいな。このままあの大男にふざけた態度でやられっぱなしっていうのが猛烈に悔しい。一矢、出来る事なら一矢報いたい。そしてあのトボけた顔を驚愕で塗り潰したい。
何故だか私は既に体力の限界であるはずの身体から力が湧くのを感じた。それが一体どこから来るものなのかは分からないが、湧いてくれるに越した事はない。
しかしだからと言って勝てる見込みがあるかと言われれば、それは無いだろう。だがこの場を凌げる可能性ならある。
それは父上の言っていた緊急時に使うと言っていたスキル。あの言い回しだと恐らくは父上が私を何かしらの方法で助け出すというものだろうが、いかんせん未だにそれが来ないというのが引っかかる。何か特別な条件、トリガーの様なものがあるのかも知れない。一縷の望みだが、今はそれが起こるまでなんとかしてこの場を耐え切る。それしかない。
作戦とも呼べない案を採用した私は、未だにこちらをトボけた表情で観察しているキグナスに対し思わず眉を
ああもう父上! こんな奴が居るなら教えといて下さいよ!! そうすれば事前準備くらいして来たものを……。絶対後で報いを受けて貰いますからね!!
心の中で父上に毒付き、私は再びナイフを構える。だがもう既に私の身体のあちこちが幼児の身体としては余りにも不釣り合いな程に悲鳴を上げている。
体力的に時間は掛けられない。だが父上からのスキルが発動するまで耐えなければならない。
矛盾した目標を掲げ、私は大男、キグナスを睥睨する。
「おっ、気合い入ったみたいだな? よっしゃ、じゃあいっちょお付き合いしますかね、おチビさん!!」
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