第一章:精霊の導きのままに-20
マルガレンや既に元の猫の姿に戻っているシセラは私の発言に訝しんだ表情を浮かべる。
まあ、それも当然と言えば当然。相手は魔物化しているとはいえ狼、ハウンドウルフだ。そんな相手に対し問いを投げるなど側から見れば意味が分からないだろう。
だが私としてはこのボスの妙に頭が切れる事に若干期待しているのだ。
コイツが私の言葉を理解出来るのであればそれに越した事はない。効率を考えればスキル《継承》で全てのスキルを獲得する方が良いに決まっているのだ。
残りの狼達も《魂魄昇華》や、なんなら実験的に《魂魄進化》を試してみるのも良い。
そんな考えで私はこのボスにわざわざそんな事を聞いているのだが──
「ぐるるるるるぅぅ……」
「ふむ、当てが外れたな。ならば仕方がない」
私はその場でボスに対し《結晶習得》を発動しようと構えようとし、
……待てよ。
ふとある事を思い付き、ナイフでボスに念の
辺りには未だ麻痺で動けず横たわる七匹の狼達。
……勿体無いな。
《結晶習得》はその肉体と魂を媒体にスキルを結晶化して習得するスキル。このスキルを使えばその肉体は跡形も残らず、残るのは僅かな痕跡のみだ。
その点から人間……犯罪者を始末する際に重宝しているスキルなのだが今回の相手は魔物、そんな気を使う必要は無い。
魔物の素材はその魔力により変質した各部位が武器や防具に加工するのに打ってつけらしく、単純な強力な武器防具が出来るだけでなく、昨日私と試合をしたファーストワンの持っていた「
更に聞く所によれば魔物の素材自体が希少性が高い事から使わない素材は割と高値で取り引きされるらしい。
そんな使える所満載の魔物の身体をスキルの媒体にしてしまうのは、少し惜しい。だがだからと言ってスキルをみすみす逃す選択肢も私には有り得ない。ならばどうするか?
簡単だ、両方手に入れれば良い。
幸いここにはボスを含めた八匹の魔物化狼が居る。肉体が残る状態でスキルを獲得するのには打ってつけのスキルを使えばその問題も解決だ。
今まで《継承》や《結晶習得》の恩恵の陰になっていてその存在を忘れ掛けて居たが、魔物相手ならばそのスキルも日の目を浴びる事だろう。
スキル《強奪》。対象を屈服もしくは気絶状態にした際にスキルを一つだけ奪う事が出来るスキル。
奪えるスキルが一つだけというのが少し不満だが、コイツを使えば肉体を消さず、また相手からの同意も必要としない。その点に於いて、この《強奪》は魔物に有用と言えよう。
私はボスから一旦離れ他の狼へと歩み寄り、しゃがんでその顔を覗き込む。この狼が居る位置、それは私がボスとの戦闘中、ボスに背後から襲われた原因になったボスが出て来た茂みの反対に横たわっていた位置だ。その位置に居た狼の目は未だ反抗的な意思を感じるが、私がボスを倒した事により少しだけ弱々しくも見える。
「まったく。お前が音を立てたせいで腕をやられた。本当はここまでやらせるつもりは無かったんだがな」
「ぐうううぅぅぅ……」
「まあ、いい。最初の犠牲は……お前だ」
そう言い私はナイフの柄頭で狼の首元を強めに打ち付ける。
「きゃううぅ……っ!!」
甲高い鳴き声を漏らした狼はそのままぐったりと力なく意識を失い、気絶する。
「さて……」
私はそんな気絶した狼の頭に手を置き、スクロールでスキルを習得するのと同じ要領で魔力を狼へと繋げる。
「《強奪》」
そう静かに唱えると狼から魔力を通じ、一つの力が流れ込んで来るのが伝わる。そしてそれは私の中へ収まり、定着した。
『確認しました。補助系スキル《嗅覚強化》を獲得しました』
よし。滞りなく済んだな。では、
私は立ち上がるとナイフをそのまま狼の喉元へ当てがい、一気に引く。
当然喉元は引き裂かれ、そこから大量の鮮血が噴き出し、地面や草木を赤く染め上げる。
「おっと、しまったな。血も一応回収した方が良いか。まあ、需要があるか分からないし、血抜きをしないと駄目になるかも知れんから丁度良いか……」
少し反省しつつ、スキル《魂魄昇華》によって狼の魂を回収。スキルに変換する糧とする。すると、
『種族名「ハウンドウルフ」の魂を回収しました』
『報告。スキル変換に必要なコストが不足しています。スキル変換を実行する場合、同質の魂が残り三つ必要です』
不足? 魔物の魂一つじゃスキル変換には足らないか……。質の問題か? ……まあいい、これだけ居るんだ、後三つ程度なんとかなる。
『スキル《魂魄進化》を使用し回収した魂を他スキルへの経験値とする事も可能です。実行しますか?』
いや、魔物の魂じゃ大した経験値にはならないだろう。ここは複数集めて一つのスキルにまとめたほうが良い。
『了解しました』
さて、では次だ。
私は振り返り他の狼達へ視線を移す。狼達は先程の私の狼への仕打ちを目の当たりにし、避けようの無い死が待っていると悟ったのか先程の狼の様な反抗的な意思はその目から感じられなかった。
「ふむ、屈服したか。手間が省けた」
そう呟き、私は同じ様に狼達からスキルを強奪して行く。
当初の予定通り一家族のスキルを強奪し、エクストラスキル《
……そういえば重複したスキルを獲得した場合どうなるんだ? 欲しいスキルより狼の数の方が多いからどうしたって被るな……。
『重複したスキルを獲得した場合、同名スキルの熟練度に加算されます』
ほう、熟練度に? なら無駄にはならないな。
残りのボスを除いた狼三匹は最初の狼同様スキルを強奪した後喉元を切り裂き、全て処理し終える。
そして──
『確認しました。技術系スキル《爪術・初》を獲得しました』
『確認しました。技術系スキル《
『確認しました。補助系スキル《聴覚強化》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《咬合力強化》を獲得しました』
『重複した《聴覚強化》を熟練度として加算しました』
『重複した《嗅覚強化》を熟練度として加算しました』
『魂が一定水準に達しました。スキルへの変換を開始します』
よし。さて、それじゃあ。
私は改めてボスに振り返る。
「何か良い遺言は思い付いたか?」
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