第一章:精霊の導きのままに-21

『確認しました。補助系スキル《統率力強化》を獲得しました』


 私は最後の一匹、ボス狼の喉元を切り裂き《魂魄昇華》によって魂を回収する。


『魂が一定水準に達しました。スキルへの変換を開始します』


 二つ目のスキル変換のアナウンスを聞き、改めて周りを見渡す。


 《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》に回収した三匹の狼以外、ボスを含めた五匹の魔物化狼が、無残な姿で横たわっている。


「よし。これで漸く、本当に終わりだ」


「お疲れ様です。坊ちゃん」


「お疲れ様でございます。クラウン様」


 マルガレンとシセラは私のそばまで近寄り、頭を下げる。


「ああ、お疲れ」


「坊ちゃん、取り敢えず腕を出して下さい。簡単にですが治療します」


 治療? ……ああ、そうだ。腕を噛ませたんだったな。忘れていた。


 私はボス狼に噛ませた腕をマルガレンへ差し出す。よくよく見ると割と傷が大きかった様で未だに流血している。


「改めて見たせいか、途端痛くなってきたな……」


「普通こんだけの怪我をしたらもっと痛がりますよ。……簡単な応急処置は出来ますが、早くちゃんと神官に見せないと化膿してしまいますね」


 そう言いながらウエストポーチから一通りの道具を取り出し、私の傷へ慣れた手つきで応急処置を施して行くマルガレン。本当、まだ十歳なのかコイツ?


「相変わらず手際が良いな」


「そりゃあ、坊ちゃんしょっちゅう怪我しますからね。これぐらい出来なければ側付き失格です。……はい、出来ました。戻るまで余り動かさないで下さいね」


「ああ、ありがとう」


 さてと、じゃあ後は──


 眼前に広がる死屍累々の光景。だが私にとってはお宝の山。それも大量だ。


「よし、コイツら回収して帰るぞ」


「はい?」


 思わずマルガレンが素っ頓狂な声を上げる。顔を見れば何を言っているのか理解しかねている感じだ。


 そういえば、思い付きはしたがマルガレン達に話してはいなかったな。まあいい。


「聞く所によれば魔物の素材は武器防具になる他、然るべき場所に持っていけば高値で買い取ってくれるらしいからな。捨てるなんてとんでもない」


「え、あー、はい……。ですがこれだけの量、どうやって運ぶんですか? 坊ちゃんは腕を怪我なさってるし、ミルお嬢様に運んで頂くわけにもいかないですし……。やれるとしたら僕かシセラですが、到底無理ですよ」


 目の前には五匹の狼。それも皆体格的にもう成体であるのには間違いない。体長約百五十センチの狼五匹など、マルガレンとシセラだけでは到底屋敷まで運べない。だがしかし、私にとって最早それはなんら問題にはならない。


「分かっている。お前達に運ばせようなどと考えてはいない」


「で、ではどうやって……」


「なあマルガレン。話は変わるが、どうして私が効率を度外視して二つ目の魔法に《空間魔法》を選んだんだと思う?」


「え? ……空間移動をする為……。ではないのですか?」


「それもあるが……まあ、実際にやって見せた方が早いな」


 私はそのまま何もない空間へ意識を向ける。前に本で調べた方法を思い出しながら脳内でひたすら演算処理を行っていく。


 今、私がやろうとしている術式はかつての賢者達が開発し、世に広めたモノの一つ。皆が皆喉から手が出るほど欲しがる利便性を備えたその術式は、しかしその難易度の高さから修得するのを諦め、いつしか幾つかの文献にチラホラ散見するのみに留まってしまった。


 今でも何人かの優秀な魔術師は行使出来るとされているが、相も変わらず普及はしていない。


 私がそれを始めて見つけた時、何を推してでも優先して《空間魔法》を習得すると決めた決定打。それを今、この場で発動させる。


 昨日の今日で習得したばかりの《空間魔法》でそんな難易度の術式を使えるのかだが……。


 そうして演算を行い暫く、何も無い空間に突如として切り込みが入り、それが広がると真っ暗な穴が空く。それはどこまで続いているのかわからない程に闇が広がり、一切の光が無い。


 ……あっさり上手くいったな。まあ取り敢えず。


「ふむ、成功したな」


「な、なんですかこれ!?」


「空間魔法〝ポケットディメンション〟。まあ要するにどこでも使え、なんでも入る便利空間だ」


「え、いや、え?」


「文献を読んだのだが、この世界には無数の〝次元の狭間〟が点在していて、この魔法はその狭間と空間を強引に繋げる魔法だそうだ」


「……またとんでもない魔法を……」


「まあ難易度が高いのが難点だが、使えるならこれ程便利な物はない。なんせ容量は計り知れない程だし、一度私が繋いだ狭間には私以外はアクセス出来ない。そして好きなだけ物を入れれて好きな場所、タイミングで取り出せる。夢みたいな術だ」


 そう、私はこの術を使いたいが為に七年間他の魔法そっちのけで練習したのだ。しかし、私としてはもっと苦戦すると思っていた。


 それこそ昨日今日習得した魔法で難易度の高い術式を使うのだ。何度かは失敗すると踏んでいたのだが……。ん? そういえば──


 そう思い私は自身の取得したスキルの中にある一つのスキルについて思い出し、それを《解析鑑定》してみる。すると、


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 スキル名:《魔道の導き》

 系統:補助系

 種別:エクストラスキル

 概要:魔法を使い熟せるスキル。自身の使用する魔法の必要魔力量、操作難度、演算等の魔力を用いたコストを一定数軽減させ、ある程度使い熟せるようになる。

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 やはりコイツの恩恵か。


 シセラと魂の契約を結んだ際に手に入れたエクストラスキルだが、色々あったせいで見落としていた。まあコイツのお陰でポケットディメンションが難なく使えるのだから有難い事この上ない。


 オマケに権能を見る限り今後魔法系スキルを習得するのにかなり役に立ってくれそうだ。今後が楽しみだな。


 さて──


「まあ取り敢えず狼共をコイツにぶち込むぞ。マルガレン、シセラ、手伝え」


 そうして私達一同は狼五匹をポケットディメンションに次々ぶち込んで行く。狼一匹一匹が割と重かったせいで時間が掛かったが、これで漸く帰路に付ける。


 紆余曲折あったが、一応様々な収穫があり私としては大変満足。一件落着である。


 ふとシセラの方を見れば、残される精霊達と別れの会話でもしているのかシセラの周りを忙しなく精霊達が飛び回り、それに対しシセラは心配そうに猫らしく鳴く。


 そういえば──


「シセラ、話している所悪いがこの主精霊の涙はどうする?置いていった方が良いか?」


「お気遣いありがとうございます。ですが、私達──いえ、彼等精霊には葬送の概念はありません。それにその主精霊の涙は精霊が持っていても意味を成さないのです。ですからどうかミルのお守りとしてそのまま持っていて下さい。きっと、息子がミルを見守ってくれる事でしょう」


 シセラはそう言って眠るミルトニアに近付き、その腕に頬擦りをする。


 後は……そうだな……。


「そういえば、この世界にコロニーは後幾つあるんだ?簡単にだが把握しておきたい」


「はい。ここを含めて全部で十四箇所。にもう一つと、各国に二箇所づつ点在しています」


「成る程、十四か──ん? ちょっと待て」


「はい、なんでしょう?」


「今、ここがエルフ領、とか言わなかったか?」


「はい? ええ、言いましたが……」


「なんでここがエルフ領になるんだ?」


「え、だってこの森。エルフの森……ですよね?」


 ……は?

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