第一章:精霊の導きのままに-19

 睨み合う私とボス狼。


 私はそのまま密かにスキル《強力化パワー》と《防壁化ガード》を発動し基礎能力を上げる。更に《消音化サイレント》で私からの音を消す。


 先程シセラが幾度か傷を付けてはいたが、よくよくその身体を見てみると、やはりというかこのボスには余りダメージが入っていない様子だ。


 恐らくこのボスだけ、シセラからの攻撃を最低限に避け、少し弱ったフリをしていたのだろう。それ故シセラは油断をしてしまい、手痛いカウンターを食らったわけだ。


 やはり賢い。スキルなどでは計れないような経験やセンスがそれに拍車を掛けている。


 これは私も油断しない方が良い。


 だがこういう奴の場合──


 私はボスに向かってブロードソードを振り被りながらボスに駆ける。


 距離は然程無いためあっという間に攻撃圏内に入り私はボスにそのままブロードソードを振り下ろす。


 そんな剣にボスは一切避けるなどせず正面から私が振り下ろす剣にタイミングを合わせ刀身に齧り付く。


 ボスはそのまま私ごと剣を引っ張り私のバランスを崩しに掛かり、その咬合力に任せて齧り付いた刀身を噛み砕いてしまう。


 そしてそのままバランスを崩した私に改めて噛み付こうとするが、私はこれを待っていた。


 奴の口の中には、噛み砕いた刀身のカケラが未だに残留している。


 そこを私は崩したバランスを利用して思い切り剣の柄頭をボスの下顎目掛け打ち付ける。


 私に噛み付こうとし開かれた口を下からの突然の一撃に勢いよく閉じられ、口の中に残留していた刀身のカケラが口内を切り裂いてボスの口から血が溢れる。


 私は崩れた体勢を整える為そのまま前転して受け身を取りボスへ向き直る。


 ボスは口を開きそこから血をダラダラと流しらながら首を振って口内を切り裂いた刀身のカケラを振るい落としていく。


 奴は頭が良いが、どうにも牙を使った戦闘が好きらしい。魔物化した特有の金属を物ともしない牙に、それをサポートする様に身に付いているスキル《咬合力強化》。それが奴自身自慢だった様だ。


 現にシセラにやられた他の狼達はシセラが攻撃するタイミングに合わせて牙と爪を併用し、どちらかと言えば爪での攻撃を主としていた様だった。まあ、シセラには当たらなかった様だが──


 だがこのボス狼だけ、爪での攻撃ではなくその牙を使った戦闘しか仕掛けていない。


 私が正面から駆け寄った際も爪で応戦するわけでなく、わざわざ私の剣が振り下ろされるのを迎え撃った形だ。


 あの時点で爪を使われたら《炎魔法》を食らわすつもりだったのだが、結果上手くいってくれた。


 牙こそ折れていないが、これで奴は牙での攻撃を極力しないようになるだろう。何せ口の中がズタズタなのだ、何もしなくとも激痛が襲っている筈。それでも使って来るならば──


 私は腰のホルダーからナイフを取り出し、改めてボスに構える。


 するとボスは何を思ったのか先程のシセラ同様に周りの茂みに潜り込み、私の周りを忙しなく移動し始める。


 最初は逃げたのかとも考えたが、私の周りを物凄い速さで回る様から何かを狙っているのだと察する。


 ふむ、シセラの真似か。小狡い事を……。


 するといつでもボスからの攻撃が来て良い様に身構えて暫くすると、目端の方で茂みが揺れたのが見えた。


 私はそちらに視線を動かし、構える。すると、


「があ゛あ゛ぁぁっ!!」


 そんな咆哮が私の背後から聞こえ咄嗟に振り返る。


 そこには私に向かって大口を開けて眼前にまで飛び掛かってくるボスの姿があり、私は頭を庇う様に顔の前で腕で防御する。


 ボスは先程の口内の傷など御構い無しとばかりに私の腕へ噛み付き、そのまま体重を乗せ私を地面へ押し倒す。


 しかし本来ならばその咬合力により私の腕など食い千切られる所を、やはり激痛に耐えかねているのか傷は付くもののそこまで力は強くない。


 チッ、覚悟はしていたがやはり痛いな。


 ボスは噛み付いた私の腕をやはり千切るつもりなのか噛み付いたまま頭を左右へ振り回し、私の傷口を広げて行く。


 クソ、調子にのりやがって……。だが、


 私は覆い被さっているボスの丁度上、何も無い空間に視線を移す、そしてそのまま《空間魔法》を発動、私の位置とボス上空の位置を置換させる。


 突然消えた私に戸惑い、その動きを硬直させているボスに対し、私は上空からボスの背中へ全体重を掛けて落下、ボスを下敷きにする。


 ボスが苦しそうに呻き声を上げると、足をバタつかせながらその場から逃れるようにもがく。


 そんなボスに私は容赦無く足の腱をナイフで切り付け、動きを強引に止め身動きを完全に封じ、戦闘終了。


「ふう、なんとかなったか」


「坊ちゃん!!」


 戦闘が終わったのを見計らい、マルガレンとシセラが私に駆け寄って来る。


「よくぞご無事で……」


「ああ、だが、まだ終わりじゃないぞ」


 私はそう言い、まだ意識があるボスの視線にナイフを突き付ける。


「さて、コイツがどこまで頭が良いか知らないが、一応聞いておくとしよう」


 低く唸るボスに対し、私は構う事なくナイフをボスの眼前の地面に突き刺し、その目を覗き込む。


「私にスキルを全て寄越せ。そうすれば命は取らない。わかるか?」

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