第三章:傑作の一振り-3
旅を始めて一週間。早速トラブルに巻き込まれた。丁度見晴らしの良い草原地帯にて、盗賊に襲われたのだ。
時間帯も夕方に差し掛かったタイミングだった為、恐らく少し前から私達に目を付け、機を見計らって襲いに来たのだろう。
まあ、護衛を付けていない大きな馬車など盗賊共からしたら格好の獲物。見逃しはしないだろう。
そんな盗賊共は全部で五人。全員が馬に乗り、私達が乗る馬車を取り囲んで進行を妨害した。
この事態にカーラットは臆する事なく対処し、馬車を止められるや否や盗賊からの要求も聞かず速攻。あっという間に前方を固めていた三人を体術により制圧してのけた。
後方を固めていた二人はその様子に仰天するも、こういった事態を想定していたのか私達が乗る馬車の扉を強引に開け、私達に手を伸ばす。
恐らく私達の誰かを人質に取り優位性を確保しようとしたのだろうが、それをみすみす許す私では無い。
私は扉が開かれた瞬間、ポケットディメンションに仕舞い込んでいたブロードソードを取り出し、伸ばされた盗賊の腕を切り落とす。
切り落とされた腕の切り口を抑えながらその痛みに絶叫を上げるのを無視し、そのままそいつの心臓を一突き、これで一人は終了。
そしてそのまま馬車を降り、一部始終を見ていた事態を上手く把握し切れていない残りの盗賊に一気に距離を詰め、再びポケットディメンションを開いて今度はナイフを取り出し、首筋に刃を滑らせる。
一拍置いて首から鮮血を噴き出しながらその場に倒れる盗賊を横目で見やり、念の為伏兵がいないかを感知系スキルと天声の警戒網を駆使して確認する。
……よし。居ないみたいだな。
一息つきブロードソードとナイフをポケットディメンションに仕舞い、馬車内から様子を窺う四人に大丈夫だ、とサインを送るとその場で項垂れる様に安堵した。
「お見事です!! 坊ちゃん!!」
そう拍手しながらこちらに来るのは満面の笑みのカーラット。
「状況が良かっただけだ。カーラットが三人相手に瞬殺してくれなければ危なかったかもしれん」
「そんな御謙遜を……。額に汗一つかいていないでは無いですか」
「買い被り過ぎだ。さて、コイツ等はどうするか……」
出来上がったのは五人の盗賊の死体と五匹の馬。対処こそ穏便に済んだものの、後始末は面倒極まり無い。
「そうですね……。本来であれば盗賊の死体を街まで運んで衛兵に渡し、手配されていれば報酬が出たりするのですが……」
カーラットはそう言いながら馬車の方を見る。そう、この馬車はあくまで長旅様の馬車であり荷馬車ではない。こんな盗賊の死体を乗っけておく場所など何処にも無いのだ。
「だからと言って放置も出来んだろ。血の匂いを嗅ぎ付けた獣や、下手をすれば魔物を誘き寄せかねない。近くの小さな村なんかは一たまりもないだろう。それに……」
このまま死体を放置すると、コイツ等の保有魔力量次第では魔物の一種である〝アンデッド〟になりかねない。
人の死体や魂が、生前に保有していた残留魔力により魔物化して生まれるアンデッド。あまり事例は無いが全く無いとは言い切れない。それに仮にアンデッドが誕生してしまったら普通の魔物より〝ある意味〟で厄介だ。
……まあ、本音を言えば滅多にないアンデッドを狩れるチャンスでもあるのだが、この場では実行しようがない。旅の途中だしな。
ならどうするか──それは。
「燃やすしかないか」
「燃やすしかないでしょうね」
二人の意見は一致した。燃やしてしまえば先程の問題は解決する。これしかないのだ。後は実行するのみ。すると、
「あの……。つ、土に埋めるんじゃ、駄目なのですか?」
漸く気持ちが落ち着いたのか、おずおずと馬車から出て来て質問をしてくるアーリシア。
ふむ。土に埋める、ねぇ……。
「お前、もう神官見習いじゃないだろ?なら土葬する際の危険性を知らないわけじゃないよな?」
「え、ええ……。土葬ですと、結局アンデッドが生まれる危険性があるのは変わらない……。寧ろ密閉された空間に魔力が逃げ場を失い、ただ野晒しにするよりもアンデッド化の危険性が高まる……」
なんだ、分かっているじゃないか。
「そうだ。それこそ山賊や盗賊が仲間の遺体をぞんざいに扱ってアンデッド化したなんて話もある。だから燃やして……火葬してそれを防ぐんだ」
珍しいケースとして後世に語り継がれる様な偉業を成した偉人が特殊な加工をされた後に土葬されたりするらしいが、費用対効果を考えると割りに合わないとも聞く。難儀な話だ。
「ですが、それでは祈りを捧げられません。火葬するだけでは──死した者達が報われません」
そう口にして寂しそうに俯くアーリシア。
なんかコイツのこういう神官らしい所久々に見たな……。修行に長い事打ち込んで信仰心を取り戻したか? ……まあいい。
「安心しろ。火葬した灰は埋めても問題無いから燃やしたら埋める。後はそこに墓を建てるなり祈るなり好きにするといい」
「え!? 手伝って下さらないのですか!?」
「埋めるまでは私がやってやるが墓はお前がやれ。自分のやりたい事は自分で始めるんだ。手伝って貰う前提で話を進めるな」
そう私が言うと、アーリシアは項垂れた後に直ぐに気を取り直したのか、気合いを入れる様に「よしっ!」と呟くと辺りを見回し、木の生えている方へ歩いて行く。
「……何をしに行かれたのでしょうか?」
「大方丁度いい枝でも見繕って墓にするんだろう」
「成る程……。それにしても随分厳しい言い方をなさるんですね。もっと優しく言ってあげても宜しいのではないですか?」
優しくねぇ……。
「駄目だな。アイツはどう見ても甘やかされて育ってる。教皇の娘だからチヤホヤされているんだろうが、それじゃあアイツは成長しないし考えない。他人に依存してしか行動出来なくなる」
私はこれでもアーリシアを才能を評価はしているんだ。将来の目標は壮大だし、私の課題を真っ直ぐにクリアしてのけた。基本的にはめげないし、割と欲望に正直だ。故にアーリシアには腐って貰っては困るんだ。私の為にも。
「そんな事より火葬だ。死体を一箇所に集める。マルガレンを呼んできてくれ」
「承知しました」
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