第三章:傑作の一振り-4
私達はまず、盗賊達の死体から色々物を漁った。本来であれば死体漁りなど冒涜的ではあるが、だからといってそのまま燃やしてしまうのは勿体ない。
それにこの盗賊達には他に仲間が居る可能性がある。そしてそいつ等が組織だった集団であったならばそれこそ指名手配などされているかもしれない。
何かそれを証明出来るものがあれば、街に行った際報酬が支払われる可能性もある。
だがまあ、現実はそこまで甘くはない。
どうやら今回私達を襲った盗賊は下っ端も下っ端だったらしく、それらしい痕跡は見当たらなかった。
他に目ぼしい物と言えば、コイツ等の持っていた武器類だけでまともな金も持っていなかった。
……まあ、金が無いから私達を襲ったのだとすれば合点が行く。取り敢えずはコイツ等の武器は適当にポケットディメンションにぶち込んでおいて、後ほど街で売っ払うつもりだ。
さて、それでは後は燃やすのだが、その前に──
「カーラット、ここまで手伝って貰って悪いが、後は私とマルガレンでやる」
「え、ですが、お二人では大変では……」
「大丈夫だ。それに燃やすのも埋めるのも私の魔法でやるつもりだしな。サポートはマルガレン一人で十分だ」
「左様で御座いますか……」
「その代わりと言っちゃ何だが、アーリシアの墓作りを手伝ってやれ。あの調子じゃいつ作り終えるか分かったもんじゃ無い」
「承知しました」
そう言って笑顔で頭を下げてから、枝とそれを結ぶ為の紐に弄ばれているアーリシアの元へ向かうカーラット。
よし。これでこの場は私とマルガレンのみ。これで落ち着いて実行出来るというもの。
「さて、じゃあ取り敢えず私が殺した奴から《魂魄昇華》でスキルを作るとしようか」
「他の盗賊はどうします?」
「ヤったのはカーラットだからな。《魂魄昇華》も《魂魄進化》も私が殺傷せねば発動しない。
問題が二つ。一つは成功率。魂の無いただの死体を《結晶習得》で結晶化する場合、その成功率は著しく下がる。まあ、《強欲》の権能で魔力を代償に成功率を上げられるが、どれだけ魔力を持って行かれるか分からない。
二つ目は死体の有無。単純に考えて今から墓を作るだの言っているのに肝心の灰になった死体が無いのはマズイ。一人二人なら誤魔化せるが、それ以上だと人数に対して灰の量が目に見えて違ってくるだろう。
それらを踏まえて結論を出すならば……。
「私の殺した奴には《魂魄昇華》を、カーラットが殺した奴は実験として一体だけ《結晶習得》を使ってみよう」
「……死体にも容赦無いですね」
「モノ言わなくなった奴に気を遣ってやる程私は優しく無い。始めるぞ」
そうして私は私が殺した盗賊から魂を抽出し、スキルへと還元させる。すると魂を取り込んだ瞬間、以前にも経験した魂から来る記憶のフラッシュバックが私の脳内を一瞬駆け巡る。
頭痛を伴いながらの記憶の流入はとてもじゃないが気分の良いものではない。
加えてこれが善良な人間の記憶ならマシだろうが相手は盗賊。その記憶自体が不快なものでもあったりする。
クソ……下っ端の下っ端とはいえヤる事はヤっていやがる……。少し胸糞悪いな……。
それは小さな農村が襲われる風景。年寄りや大人は問答無用で殺され、女子供が襲われ、犯され、売られ行く。そんな景色。
それがいつ行われたのかは分からない。もしかしたらもう既に解決しているかもしれない。記憶の一部しか覗けない身としては判断のしようもない。
故に私の中には、やり場の無い胸糞悪さだけが渦巻いている。
……《魂魄昇華》の欠点だな。まったく……。魔物相手で起こらなかったから油断していた。
『《魂魄昇華》により魂をスキルへ還元開始します。所要時間は二時間です』
まあ、それはそれとして……。スキル還元も大分早くなったな。前は数日も掛かっていたしな、進歩があったのは有り難い……。
「どうなさったんです坊ちゃん?顔色があまり宜しく無いようですが……」
心配そうに私の顔を覗き込むマルガレン。本当、私はマルガレンに心配されてばかりだな。
「大丈夫だ、問題無い。それより次は実験だ」
そう言って私は五体の死体の内、カーラットが相手をした一番ガタイの良い盗賊を選ぶ。どうせやるなら一番結果が良さそうなものにしよう、という考えの元の選択だ。
と、そう言えばこの盗賊の所持スキルを確認していなかったな……。だがスキルは基本的には魂に結び付くモノ。私が殺傷していない死体には魂は残留しない為、もうこの死体を調べてもスキルは確認出来ない。
故に私の予想ではこの盗賊のスキルでは無くあくまで〝盗賊の死体〟としてのスキルになると思う。百聞は一見に如かず……取り敢えずはそのままやってみるか。
私はその死体に《結晶習得》を発動。魔法陣と四つの結晶が顕現し、死体を一つのスキルに変換していく。しかし──
ピキッ──。
結晶が死体を包み、一つの結晶となった途端、その表面にヒビが生じ始め、徐々に輝きも鈍くなって行く。
成る程。このまま結晶が砕ければ敢え無く失敗というわけか。なら予定通りに行ってみよう。スキルになるまでにどれだけ魔力を持って行かれるか……。
私は《強欲》の権能により、追加で魔力を注ぎ込む事で結晶化を無理矢理進めて行く。
しかし魔力をこれでもかと言うほど注いでいるにも関わらず、結晶化のスピードはかなり遅い。
チッ……。嘘だろ、魔力だけがどんどん持って行かれて全然進まない……。このままじゃ持たないかもな……仕方がない。
私は集中力を割きながらポケットディメンションをなんとか開き、そこから小瓶を三つほど取り出して栓を開けると一気に中身を
念の為に用意しておいた魔力回復ポーション……。まさかこんな時に使う羽目になるとはな。それにしても──
結晶に目をやると、魔力回復ポーションのお陰か、漸く完成手前までこぎつける事が出来ている。
なんとか完成させる事が出来そうだが、効率も燃費も最悪だ。まさか今の私の魔力量でも足りないとは……。今後死体なんかのスキル化は打開策がない限りは止めておくとしよう。
そうして魔力を注ぐ事数分。やっとの思いで完成された結晶は、まるで瑪瑙の様な茶色と紫の縞模様の入ったものが二種類あり、今までと若干趣が違っていた。
これは……。
結晶はそのまま浮遊しながら私の胸中に吸い込まれ、頭の中にアナウンスが鳴り響く。
『確認しました。補助系スキル《猛毒耐性・小》を獲得しました』
『確認しました。補助系スキル《腐食耐性・小》を獲得しました』
……ほう。
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