第三章:傑作の一振り-20

「ありがとうございます!!」


 そう言って頭を下げるアーリシアに、私は思わず溜め息を漏らす。


「自覚無いんだろうが、相手を意味も無く煽るのは止めろ。相手が私をナメていたからどうにかなったが、あの三人を相手にするのは今の私じゃ流石に苦しい」


 あのガタイの良い男、それと細身の男ならばなんとかなるかもしれないが、リーダー格のあの男が相手だったら危なかったろう。


 まあ、欲を言えば仕方無く戦闘した末に正当防衛で奴等三人分のスキルを総取り出来ればウハウハだったのだが……。いや、油断は禁物だ。何故なら──


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 人物名:███妨害されました。

 種族:███妨害されました。

 年齢:███妨害されました。

 状態:███妨害されました。

 役職:███妨害されました。

 所持スキル

 魔法系:███妨害されました。

 技術系:███妨害されました。

 補助系:███妨害されました。


 概要:███妨害されました。

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 あのリーダー格の男はこんな風に自分の情報を入念に隠蔽している。情報が揃わない内に未知の敵と戦闘に入るのは不安がある。今は戦闘を避けて正解だっただろう……。


 にしても、こうも頻繁に《解析鑑定》が妨害されていては折角の情報収集も意味が薄い。何か他のスキルで妨害を崩せる物がないか調べないとな……。


「重ね重ねすみません……。ですがやはり異教徒にはどうしても反応してしまって……。初めて見ましたし……」


「言い訳はいい……。ノーマンさんすみません、お騒がせして……。それでさっきの「魔天の瞳」って連中はこの街によく現れたりするんですか?」


「いんや、俺も初めて見た。なぁんか面倒事起こしそうな連中だな」


 本当……本当に面倒な輩なのだ、「魔天の瞳」という連中は……。


 殆どが人族で結成された少数からなる宗教団体であり、動植物が過剰な魔力によって変異した存在である魔物を神々の化身と崇め、世界中に点在する魔物の生息地に勝手に祠や神殿なんかを建設し貢ぎ物を捧げたり、魔物討伐ギルドとなれば無差別に暴力行為に出る頭のネジが飛んでいる連中だ。


 設立の経緯やら連中の信仰心の根源は未だ判明していないが、まともでは無いのは確か。何せ奴等の掲げる矜持が──


「面倒なんてもんじゃないですよ。「この世の全ての生物を魔物に変える」。そんな狂気的な矜持掲げる連中が、面倒起こさないわけ無いんです」


 まったく、一体何がどうなったらそんな宗教団体が生まれるんだか……。それも少なくない人数在籍してるとか聞くからな……。この世界にたまに付いて行けん。


 いつか何かの機会に利用して潰してしまおうか?


「チッ、厄介だのぉ。兄貴に連絡取っとくか……」


「ええ、そうして下さい。では、私達は今度こそ帰らせて頂きますよ」


「お、おお、そうだったな。そんじゃぁまた、剣が出来たら呼び行くぜ」


「はい、待っています」


 そうして今度こそしっかりドアノブを掴み、扉を開けて外へ出る私達。


 店出て宿へ歩き出す私に、先程の一悶着で何故か気配を殺して一切何もしなかったカーラットが私の側へやって来て耳元で「先程の《寸頸》、お見事でした」と呟いた。


「ああいったゴタゴタは、普通は従者が率先して治めるもんじゃないのか?」


「これは失礼しました。ですが坊ちゃんがヤル気でいらしたので御止めするのも悪いかと……。それに特訓の成果が見られそうでしたので」


 ふぅむ……。なんか引っかかるな……。


「本当にそれだけか? 私には不自然にお前が黙っていたようにしか思えないんだが」


「ははは、御冗談を! 本当にそれだけで御座いますよ」


「……そうか」


 なんだかややこしくなる予感しかしないんだが……。これが後々何かに響いて来るとか勘弁願いたいな。


 せめてもう少し情報が手元に集まる様な手段があれば……って、さっきからあれがあればこれがあればとそればかりじゃないか。


 剣が完成する間の数日中にスクロール屋で相応のスキルが見付かればいいんだがな。まあ、何はともあれ──


「一先ずは帰ったら飯だ。この街の飯は軒並み美味いみたいだから、カーラットは店を探してくれ」


「御意のままに」


「あ、あの! 私は……」


「お前は私から離れるな。迷われでもしたら敵わん」


「は、はい……」


 顔を赤らめるアーリシアを無視しながら、私達は街灯が照らす宿への道を、ゆっくり歩いて行った。


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「よ、良かったんですか!? あの野郎放っておいて……」


 黒装束の細身の男は、ガタイの良い男を引きづる目付きの悪い男に心配と怒りの混じった視線を向ける。


 自分達の誇り高き矜持を直接的に罵倒され、心中穏やかではいられない彼等であった筈だが、目付きの悪い男は表情一つ変えずに歩き続けている。


「お前はもう少し相手の力量を推測出来る様にしておけ。あんな付け焼き刃の技でコイツを伸しちまう奴と、まともに殺り合うのは危険だ」


 そう言いながら未だ引きづる男を更に鋭くした目で睨み付け、一つ舌打ちを打つ。


「き、危険って……。リードさん、貴方ならあんなガキ一人……」


「だから推測出来る程度には鍛えろと言っている。……それにアレは……」


 目付きの悪い男……リードは思い起こす。


 あの瞬間、ガタイの良い男をクラウンが《寸頸》で外に弾き飛ばしたその瞬間、リードは飛ばされた仲間ではなく、クラウンの表情に、目が離せないでいた。


(コイツは──ゴルデフはまだ生きてはいる。だが俺がゴルデフを回収した時に《緊急処置》で応急処置をしていなければ下半身付随……最悪死んでいた。その威力は技を放った奴自身が一番理解している筈……。なのに──)


 彼の……クラウンの表情から感じる感情は……全く別の方へと向いている気がしていた。


(まるでコイツのその後に一切興味が無い……。例え死のうがどうでもいいと言いた気──いや、それ以下の無関心だった)


 これが人の生死を理解していない無邪気な子供であったりしたならば、まだ頭が追い付いたのだろう。しかし──


(ああも他者の殺傷に躊躇ちゅうちょがないのは普通じゃない……。異常だ……)


 リードは想像する。仮にあの時戦闘になっていたのなら、自分達はどんな目に遭ったのか。自分達がどんな目で見られていたのか。


(俺達は奴にとって……)


 少しだけ身震いし、歩む足を早める。


 リードも決して弱くは無い。もう一人の仲間、ヘメロと二人掛かりであれば制圧出来た可能性もある。だが、それでも──


「あ、あのリードさん!!」


「ウルサイぞ。もう奴の話はするな。あんな頭のネジが飛んでいる奴の相手は、なるべくしないに限る」


 そうして「魔天の瞳」の面々、リード、ゴルデフ、ヘメロは、パージンの闇へと消えて行った。

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