第一章:精霊の導きのままに-17

 私はふと、とある事が気になった。


 こうやって今、猫の姿で私の前に顕現したが、結局の所コイツ──シセラは一体何になったんだ?


 精霊……では無いなどう見ても。ならば普通の猫なのかと言われればそれも決して違うだろう。明らかに普通ではないコイツは、私の影響を受け何になったのか。それを確認する必要がある。


「なあシセラ。結局今のお前は一体何なんだ? 精霊では無いのは分かるが……」


「申し訳ありません。実の所、私自身一体なんなのか分からないのです。《解析鑑定》で調べて頂けないでしょうか?」


「ふむ、それもそうだな」


 言われるがまま私はシセラに対して《解析鑑定》を発動させる。すると──


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 個体名:シセラ

 種族:魔獣

 状態:健康

 役職:使い魔ファミリア

 所持スキル

 魔法系:《炎魔法》

 技術系:《爪術・初》《消音化サイレント》《影纏シャドウスキン》《緊急回避》

 補助系:《体力補正・I》《魔力補正・I》《敏捷補正・I》《聴覚強化》《嗅覚強化》《魔力感知》《精神感知》《威圧》《魔力精密操作》《思考加速》《焼失》《強奪》《魔性》《魔炎》《炎熱耐性》《炎魔法適性》


 概要:クラウン・チェーシャル・キャッツと〝魂の契約〟を交わし、精霊から魔獣へと進化を遂げた。現在の姿はクラウンの魂から影響を受けたもの。

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 ほう、魔獣? 聞いた事がないな……。魔物と字面が似ているが恐らく何か違いがあるのだろう。後で調べなければ。


 それと気になるのがスキルの数がやたら多い事。まあ、とはいうもののその大半は私から影響を受けた結果身に付いたものだとは思うのだが、いくつかは魔獣ならではのモノがあるな。


 《爪術・初》《聴覚強化》に《嗅覚強化》、《精神感知》《魔性》《魔炎》《炎熱耐性》の七つだが、中でも気になるのは《魔性》と《魔炎》の二つ。ではでは、どんなスキルなのか──


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 スキル名:《魔性》

 種別:スキル

 概要:闇属性を付与するスキル。自身の身体や武器に闇属性を付与する事が出来、光属性の攻撃を軽減する。一部の技術系スキルを習得するのに必要。

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 スキル名:《魔炎》

 系統:補助系

 種別:スキル

 概要:炎を用いた攻撃に闇属性を付与するスキル。自身が使用可能な炎を用いた攻撃に追加で魔力を消費する事で一時的に闇属性を付与する事が出来る。

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 ……ひょっとして私は、割ととんでもない味方を得たのではないか?


 これなら下手な奴は相手にならないだろう。そこに居る八匹の狼の魔物が見劣りするレベルだ。


 まあ、私としてはこれらのスキルが直接欲しい所ではあるが──


 改めてシセラに目をやる。シセラは不思議そう頭を傾げ私の目を真っ直ぐに見つめ、私の意図を伺い知ろうとする。


 ……ふむ、コイツは取り敢えず例外だ。そもそも〝魂の契約〟を結んだ時点で私とシセラは一心同体にも等しい。シセラが死ねば私にも相応の見返りが来るのが分かっているのに手を付ける理由は無い。


「ええと……クラウン様?」


「ん? ああ、悪い。……お前は種族的には魔獣というらしい」


「魔獣……ですか。聞いた事がないですね」


「私もだ。魔獣については後で調べるとしよう。さて……、」


 取り敢えずはこれでここでの用事は完了だ。


 色々想定外が重なったが……まあ、結果オーライと言って差し支えないだろう。寧ろまたとない力を手に入れる事が出来た。マイナスどころかプラスと言っていい。


 後は……アレか……。


 私はその場から立ち上がり、背後に振り返る。そこには何がそうさせるのか分からないぐらいに諦めの悪い八匹の狼の魔物とそれを見張るマルガレンが睨み合っている。


 狼達は私が急に振り向いたのを警戒し、少しだけ弛緩していた神経を改めて尖らせ私に対して全力で構える。


「マルガレン、もういいぞ」


「はい……。しかし坊ちゃん。あんな数の魔物、一体どうするんですか?」


「どうって……そんなの決まっているだろう」


「……え、いやいや坊ちゃん! 確かに坊ちゃんは人並みより強いかもしれませんが魔物が八匹相手は流石に無理ですよ!」


「そう思うか?」


「当然です! 例えシセラと協力したとしても勝算なんて……」


 ふむ。まあ、概ねマルガレンの言葉は正しい。群れを成した狼の一番怖い所は群れの統率力と連携だろう。ましてや魔物化しているとなれば更に厄介。普通は逃げ一択だろう。だが私の本心はといえば──


「だがなぁ……。折角の狼の魔物八匹……。逃げるの勿体無くないか?」


「……坊ちゃん……」


 おっと、流石のマルガレンも呆れ顔だな。「こんな状況でもスキルですか?」と顔に書いてあるようだ。だが、それでも私は譲らない。


「そうだな……。あの小さいのが子供だとして……。それを庇うようにしているのが両親か? それであの一番大きく傷が目立つのがボス……。うむ、決まりだ」


「え、何がですか?」


「あの一家族は私の《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》に飾る。そしてあのボスっぽいのだが──」


 そこで私は狼達に対し《解析鑑定》を発動させ、その所持スキルを調べていく。すると──


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 種族:ハウンドウルフ

 状態:空腹

 所持スキル

 魔法系:無し

 技術系:《爪術・初》《強力化パワー》《高速化ハイスピード

 補助系:《敏捷補正・I》《聴覚強化》《嗅覚強化》《威圧》《咬合力強化》《統率強化》


 概要:野生の狼が多量の魔力を浴び続けた結果進化した魔物のボス。

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 ふむ、全匹見たが、やはりボスが一番多くスキルを持っているな。他の奴はボスのスキルと全部被っている。ならば、


「ボスからスキルを可能な限り奪う。特にボス固有のスキルをなるべく狙う。ボスで獲得出来なかったスキルは他の奴で補おう。それで余った奴は《魂魄昇華》なりでスキル作って、死骸は使えるのだけバラして回収だな」


「え、え?」


「取り敢えずスキル回収は後にしてまずは連携を断ち切ろう。統率者であるボスを優先して始末する。そうすれば多少は混乱する筈だ。聴覚と嗅覚が厄介だが、そこはシセラがなんとかしろ。私は片っ端から麻痺と毒で動きを止める」


「はいクラウン様、御心のままに」


「いい返事だ」


 私はそれを聞き、手の平を前方へかざし、念じる。


 するとその手の平から金属の棒が出現し、空いているもう片方の手でそれを引っ張る。現れたのは私が森に潜入する前に屋敷から持ち出していたブロードソード。私はそれを軽く素振りをし、調子を確かめる。


「ふむ、悪くないな」


「え、あの坊ちゃん? 今、どこから剣を……」


「《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》だよ。展示品として格納していた。まあ、あんまり収集物以外は飾りたくはないんだがな。こういう時の為にとな」


 そうして私は狼達を睨み付ける。狼達もまたその挑発に乗るかの様に各々が低い唸り声を上げ、体を震わせる。


「さてそれじゃあ、楽しい楽しいスキル集めの時間だ」

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