第五章:魔法の輝き-8

「や、やった……て、おっと!?」


 宙を舞う鍋のフタを見て思わずガッツポーズを取ろうとした瞬間、身体から力が一気に抜けてしまったのか足元が絡れ、そのまま尻餅をついてしまう。


「ほっほっほ、見事見事! いやぁ、たった一日でここまでやりおおせるとは!!」


 リリーはそんな私を見ながら私に拍手を送ってくれる。それを聞いて私はそのまま地面に仰向けになる。


 ああー、星空が綺麗だ。しかも満点の星空。


 前世じゃこんなもんそこそこの大金を払って空気の澄んだ場所に行かない限りそうそう見れない。それがここじゃ眺め放題だ。嗚呼、なんだか凄く気分が良い。


 私はおもむろに片手をそんな星空に伸ばす。そして手の平を広げ、散々練習した火球を再び作り出す。


 成功した理由はなんて事はない。空気抵抗を受けないように私の魔力を火球に纏わせた、それだけで解決したのだ。問題だったのは纏わせる魔力の調整と、そもそもその解決策に気付くまでに時間が掛かってしまった事だ。最初に気付いて実践した時段違いに手応えが良くて逆に呆れてしまった。だが成功したのだ、私は魔法を、使えるんだ!!


 そして私はその火球を手の平で回転させ、そのまま星空へと放つ。火球は夜空に吸い込まれ、そして弾ける。それがまるで花火の様に輝いてとても懐かしく、綺麗に見えた。


『確認しました。魔法系スキル《炎魔法》を習得しました』


『条件を達成しました。補助系スキル《炎魔法適性》を習得しました』


 おおっ!? このタイミングで……しかもこいつは運が良い。《炎魔法適性》まで習得出来てしまった。それにしても条件か……、一体何を達成したのやら。


「ホントーに良かったわぁー! 私も安心しちゃったぁー、さあ、もう帰らないと遅くなるわっ! ジェイドも心配するわよぉー?」


 それもそうだ。気付けば私はこの店で七時間近くも訓練している。今からでも帰らねばただでさえ魔力不足で一日身体が動かずに心配させたのに更に心配を重ねてしまう。今日は魔法を習得出来たし上出来だろう。さあ、早く帰らねば…………ん? ちょっと待て。


「あのメルラさん。何有耶無耶にしようとしてるんですか?約束……忘れたなんて言わせませんよ?」


「え……、あ、あぁー、そうね、うん、私覚えてるわよ?有耶無耶になんて、そんな、ねぇー?」


「まったく……。私が魔法習得する様子を散々撮影しといて……。約束守って下さいね?」


「そうじゃぞメルラ。五歳児がこんなに努力してたった一日で魔法を習得するという偉業を成した場面に立ち会えただけで何か褒美を与えても良いものじゃぞ?それをお前は大人気ない……」


 リリーが私の援護射撃をしてくれる。ふっふっふ、これでメルラは逃げられまい。その証拠にメルラは悔しそうにこちらを睨んでくる。止めてくれよまったく。そもそも「私の前で魔法を習得しろ」なんて無謀な提案をして来たのはメルラだ。どうせ成し遂げられまいと高を括ったのを後悔すればいい。


「もぉーーっ!! わかったわよぉーーっ!! 好きなの持って来なさいよぉーーーっ!! ただぁーしっ!! エクストラスキルは駄目!! スキルのみ!! それをぉー…………、五枚!! 持ってけ泥棒ぉーーーっ!!」


 おお! 割と大盤振る舞い。五枚あれば中々有用なスキルを得られるだろう。さぁて、では遠慮なく。


「ありがとうございます! じゃあ、早速選んで来ますね。あ、リリーさん、火守りの首飾りお返ししますね。じゃあ行ってきます」


 そう言って私はスクロール屋の店内に未だに重い身体を無理矢理起こしてスキル探しを決行する。さあ、探すぞ。


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「まったく、本当に大した奴じゃわい」


「本当よぉー……、かなり無理難題言ったのにクリアしちゃうんだもん……。はあ、今月は確実に赤字だわぁー……」


「ふん、自業自得じゃわい。……まあだが、最初お前から話を寄越された時は何を世迷言をと呆れたもんじゃが、まさか本当に達成するとはのぉ……」


「…………実際の所、あの歳で魔法を訓練したらどれくらいで習得出来るの?」


「うーむ、まあ、半年で早い方かの?」


「は、はぁ!? い、意味がわかんないじゃないそんなの!?早すぎるってレベルじゃないわよ!?」


「そうじゃぞ? だからわたしは訓練中散々驚いとったんじゃ。まったく異常なレベルじゃよあの子は。しかも……」


「しかも?」


「見てみぃこの火守りの首飾り、中に封じられとったスキル《炎魔法適性》が消えとる。恐らくあやつ、《炎魔法適性》も習得してのけたぞ」


「ま、まさかぁ……」


「ほっほっほ、油断したのぉ。これは一応〝あの子〟の為に手に入れたんじゃがのぉ」


「ああー、あの子のぉ……。それにしても、リリーも丸くなったわねぇ、まさか貴女がその歳で〝子育て〟なんてぇー」


「五月蝿いわいっ!! 行き掛かり上じゃ行き掛かり上っ!! 拾っちまったもんは責任を取るのがいい大人としての筋じゃろうが!!」


「わかったわかったわよぉーー!! それでぇ? 今いくつになったんだっけぇ?」


「…………アヤツと同じ五歳じゃよ。アヤツ程でないにしろ、眼を見張る魔法の才覚がある」


「あらぁ? 早速親バカぁ? やぁねぇ、ジェイドもリリーも子供を持つと甘くっていけないわぁー」


「ええ加減にせいっ!! ……まったく……、アヤツは将来、とんでもない存在になるやもしれんのぉ……。それを見届けたいが、この歳ではのぉ……」


「なぁにぃー? 縁起でもない……。大丈夫よ、なんだかんだ貴女は死んだりしないわ、私が保証してあげる」


「なんとも頼りない保証だのぉ、まあ、今はそれを信じてみるかのぉ……」

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