第五章:魔法の輝き-7

「これが……魔法……」


「おんや? 見るのは初めてかい?」


「はいっ! ……凄いな……私もいつかコレを使えるようになるんですよね?」


「うーん、それはどうかのぉ?」


 おっと、予想外の答えが返って来た。先程私に天才だなんだと評価していたのに何故そんな疑問系なのか。もしや何か他に理由が?


「どういう、意味ですか?」


「ふーむ、まあ、確かにオヌシには魔法を扱う才能がある。じゃがな〝扱える数〟はどうかのぉ?」


 扱える数? それは魔法の種類の話か? つまり私は炎魔法は扱えても地魔法は扱えない可能性があるのか?


「それは私が地魔法を使えないかもって事ですか?」


「そうじゃ。人間、いや異種族や魔物も含めてその者が身に付けられる魔法の種類というのには限界がある。例えばわたしはこの様に地魔法を会得している他、炎魔法も使える。じゃがその他の水、風、空間の三属性は扱えないのじゃ」


 なんと、少し棘のある言い方をするが、リリーはこんな形をして二属性しか扱えないらしい。だが一体どういった理由で?


「扱えない、というよりは〝扱うリスクが高過ぎる〟と、言った方が正しいのぉ。そもそもの話、会得出来る魔法適性の数には限りがあるのじゃ。つまりわたしは《地魔法適性》と《炎魔法適性》の二種類しか会得出来ていないのじゃよ」


 なんと、人によって会得する事が出来る魔法適性の数には限りがあるらしい。魔法適性がなければ魔法を扱うのに高いリスクを支払う必要が出てくる。そのリスクを承知ならばまあ、使えないわけではないが……。使う意味は薄い。


「成る程。つまり私がどんな魔法適性を会得出来るか判別がつかないから分からない、と?」


「そうじゃ。なんなら今はオヌシに火守りの首飾りを与えているが、真に《炎魔法適性》を会得出来るかは分からん。今教えている炎魔法だって無駄骨になるやも知れんのぉ……」


 そう言うリリーの表情は、その言葉とは裏腹に口元を釣り上げていてなんだか楽しそうにしている。これは私を試しているのかな?ならば、


「無駄ではないでしょう? そもそもなんの魔法が扱えるか分からないし、何も試さなければそれこそ何も分からない。まあ、つまり、やれる事を全部やる。それだけです」


「ほほぉう。なんとまぁ年齢不相応な物言いだのぉ。その意気や良しっ!! ならばいっそう厳しく行くぞっ! 覚悟は良いなっ!?」


「勿論ですっ! さあ、早速始めましょうっ!!」


 そう言って私はメルラが対面に設置した鍋のフタに向き直る。リリーは私の隣に移動し、私の腕を掴んで前に突き出すように持ってくる。


「よいか?先程オヌシが作った炎を手の平に球状にまとめてみ」


 そう言われ私はその通りに手の平に炎を作る。形、熱、大きさを整え、次にその炎を球状になる様整える。


 これは……難しい。不定形の炎を形ある球状に整えるのは中々骨が折れる。少しの風や熱量で直ぐに揺らいでしまう。だが少しずつ、少しずつ調整すれば……。


「そうじゃ。そうしたらこの火球を前方に撃ち出すわけじゃが……。まあ、取り敢えずやってみぃ」


 取り敢えず、か。ならば。


 そうして手の平に止まる火球を魔力を使って前方に勢いよく撃ち出す。火球はその勢いのまま真っ直ぐ飛び出すが、途中その火球は大きく揺らめき、そのままユラユラと軌道がズレ遂には地面に落ちてしまう。


 うーむ、やはり難しい……。


「ふむ、まあまあじゃのぉ。今オヌシ、火球にどの様な要素を加えた?」


「え? ……今の火球は前に行くように調整を加えたんですが……」


「それでは駄目じゃな。良いか? 火球を撃ち出すという事はその炎で空気を突き進ませるという事じゃ。故にただ真っ直ぐ撃ち出すだけではその空気に曝されてあらぬ方向に行ってしまう。先程の様にな?」


「なら、どうすれば?」


「それは自分で考えな。魔法は自身で錬るモノ。自身で体感せねば身に付かん」


「成る程、分かりました」


 私は新たに火球を作り出す。さて、つまりはこの火球に対する空気抵抗をなるべく抑えるのが肝要って事か。まあ、言われればその通りで、炎なんて不定形なもんを空気にぶつけるのだ。普通にやってまともな挙動を取るわけがない。ではどうするか?


 まずは火球に回転を掛けてみる。空気抵抗を受け流すイメージだったのだが、今度はそもそもの軌道が安定せずあらぬ方向に向かってしまった。


 次に火球を圧縮し撃ち出す。だが今度は的に向かう途中で圧縮されていた熱量が暴発し、ちょっとした小爆発が起きる。


「コレコレっっ!! 気を付けなっっ!! オヌシが今扱っておるのは真似事とはいえ炎じゃぞっ!? 制御出来ん量のエネルギーを使うでないっ!!」


 と、本気で怒られた。まあ、これは私が悪いな。自分が使っているのが炎というのを忘れ掛けていた。いかんなまったく、夢中になるとどうも視野が狭くなる。さあ、気を取り直して続き続きっっ!!


 そんな試行錯誤を繰り返し二時間。


 私の魔力が限界ギリギリになった頃、セットされた鍋のフタが焦げ跡を作って宙を舞った。

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