第五章:魔法の輝き-6
「おおっ!! ま、まさかたった数時間でここまで再現するとは!! その齢でこの早さ……、天才じゃったか……!!」
「凄いわぁーー! 私が言っといてなんだけど、まさかこんなに早く会得できるなんてぇー!!」
うむ、上々な評価だな。リリーにいたっては天才などと言ってくれている。大変有り難い、のだが、私としては少し大袈裟なのでは?という疑念が拭えない。
というのも……。
『………………』
天声が一切うんともすんとも言わない。つまり未だ《炎魔法》を習得出来ていないのだ。まあ、それこそ一朝一夕で身に付くもんじゃ無いのだろうが、既に五時間を経過し、もう夕方である。出来る事なら今日中に習得したかったのだが……。
「うーん、だけどまだ習得は出来てないみたいです。このままじゃ後何時間掛かるか……」
「いんや、ここまで来れば後一歩じゃ。おいメルラ、何か〝的〟に使える物はあるか?」
リリーはそう言って未だ撮影に夢中なメルラに声を掛ける。というか的?
「え、うーん、ちょーっと待っててねぇーー」
メルラはそう言って動映晶機を私が映り続ける様に上手い事設置して店の奥に向かう。
「……的、という事は……」
「おお、今度はその手の平の炎を実際に撃ち出す訓練じゃ。なぁに、撃ち出す事自体はそう難しくない」
「成る程。でも〝的に当てる〟のは大変なんでしょうねぇ」
「ま、そうじゃのぉ……。じゃがオヌシならそう時間は掛かるまい」
簡単に言ってくれる。仮に当てようとするのなら……。炎に新たに方向性を加えて、こちらで任意に操れる様にするのが一番手っ取り早いが、魔法一つ一つに一々加えているのは効率が……。
「おやおや、もう考察しとるよまったく。しっかしまあ、〝あの子〟といいオヌシといい、この世代の子等は豊作といって差し支えない程才覚にあふれとるのぉ」
何やらリリーが言っているが今は気にしないでおこう。今はこの炎魔法を完成させる。そう、なるだけ完璧な私がイメージする炎魔法に仕上げるのだ。
「おっ待たせぇーー! なんかそれっぽいの見つけたわよぉーー」
どうやらメルラが的になる物を見つけて来たらしい。またいつもの様に両手に掲げながらこちらに持って来る。というか、それはどっからどう見ても鍋のフタで決して的なんて物ではない。なんでそんなもんをなんの疑問もなく持ってくるんだこの人は。
「お前のぉ、いい歳した独身の女が鍋のフタを的呼ばわりなどと……。まあ、良いわ。では早速始めるかの。流石に屋内じゃとアレじゃから外に出るぞ」
困り顔のリリーを余所に再び動映晶機を手に持ち、外に出る二人。私もそれを追う型で外に出ると、リリーが何やら唱えている。その手には魔法陣が腕輪の様に巻かれ、淡く光を放っている。何かの魔法か?
「今彼女が唱えてるのは魔法系スキル《地魔法》の〝ランドウォール〟よーー。外ではあるけど念には念をって訓練用に箱型に作るんだってぇーー」
「成る程。ところでその、〝ランドウォール〟っていうのは……」
「うーん……。なんていうかぁー、一例?っていうのかしらねぇー」
いや、説明下手くそだなオイ。なんだ一例って……。
「さっきからウルサイのぉ……。まあ、世間一般に広まっとる魔法体系といえばええのかの。具体的なやり方が判明していて、適度の難易度で再現が出来る一種の基礎魔法じゃ。自分の魔法を作るのが魔法の真髄ではあるが、それに興味がある者達ばかりではないのが現実。そんな者達が大衆向けに開発したお手軽体系じゃ」
ほう、基礎魔法か。確かに皆が皆一からオリジナルの魔法を作りたい訳ではない。標準的な、一般的な魔法体系が存在した方が便利っちゃ便利だな。
「やはり私もその基礎魔法を会得した方がいいんでしょうか?」
「そりゃそうじゃ。大衆向けといってもその根幹はしっかりしとる。0から1より1から2、3と会得する方が効率がええし、何より理解が深まる。オリジナルの魔法だけではその内行き詰まるからのぉ」
成る程。だがなんだか体験した様な言い方だな。まあいい、つまりこれから私は一応炎の基礎魔法を会得するのが目的になるわけだ。
と、そろそろ出来るのか?
地響きと共にリリーの発動していたランドウォールの壁が私達の四方を囲う様に地面から隆起する。この目で見た初めての魔法。基礎魔法だと言っていたが、前世の記憶を持つ私からしたら、それは正に超常現象。これが人間の手で一瞬で築かれたなど目の当たりにした今でも正直現実味を感じない。
私は今から〝この道〟を征くのだ。浪漫があふれていて楽しみで仕方がない。
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