第二章:運命の出会い-6

 二週間後──。


 私はこの二週間、結局学年を飛び級し、そこで年上のクラスメイトと共に《水魔法》や《風魔法》の授業を受けながら、空いた時間を全て《精霊魔法》の練習に費やした。


 《精霊魔法》を使ってみた感想としては、

 篦棒べらぼうに扱いが難しいというモノと、使いこなせれば様々な面で活躍してくれるだろうというモノだった。


 まず《精霊魔法》の特徴として、一般的な魔法の原理である〝魔力を材料に現象を再現する〟というモノとは根本的に違うという点だ。


 《精霊魔法》の権能。それは当初シセラから聞いていた自然現象を発生させるというモノとは少し違う。


 シセラの話では──


『世界にはコロニーの精霊達とは別に〝下位精霊〟というのが存在しています。


 下位精霊というのは簡単に言えば微精霊の更に下位。自然界のあらゆる物体に含まれており、コロニーに居る精霊や主精霊に周囲の魔力量を常に知らせる役割を担っているのです。


 この下位精霊が存在するお陰で、精霊達は世界の魔力の均衡を知る事が出来るのです』


 という事らしい。


 そして《精霊魔法》は、そんな下位精霊に自身の魔力を〝餌〟として与え、自然界に含まれている下位精霊を使役する。そして使役した下位精霊を操り自然現象を操作する。それが《精霊魔法》の実態だ。


 ではこの魔法の何がそんなに難しいのか。


 例えば地面を操りたい場合。


 地面に含まれる下位精霊に魔力を与える訳なのだが、勿論一匹二匹では話にならない。


 下位精霊の大きさは私達の肉眼では到底視認出来ない程に小さく、また一匹一匹の力は然程大きくはない。


 つまり操りたい地面の範囲に比例して膨大な量の下位精霊達に魔力を与えなければならない為かなり魔力が必要になる。


 加えてそんな下位精霊達に魔力を与えられたとしても、今度はそんな下位精霊達一匹一匹に神経を注いでやらなければならないし、その分魔力操作も困難になる。


 私がシセラと魂の契約を結ぶ際、《精霊魔法》と同時に《魔道の導き》を習得したのは、そもそも《魔道の導き》無しで《精霊魔法》を扱うのが無謀だからという事なのだろう。


 はっきり言って一回一回使うのにここまで神経を使わねばならないのはかなり骨が折れる。


 だがその分利点もある。


 一つは自然界にあり、下位精霊が存在していれば何にせよ操作出来るという点。


 通常の魔法の様に属性によっての難易度に差が殆ど無く、また操作感もあくまで下位精霊を操るのが主なので違いがない。


 もう一つが自然現象を操るという点。


 地面や水、炎を扱いたいのなら、はっきり言ってしまえば通常の魔法で事足りる。なんなら自身の望む形に形成出来る通常の魔法の方が使い勝手もコスパも良い。


 だが通常の魔法はあくまでも〝魔力〟。本物の炎や水ではない。


 水を作っても飲料水には出来ないし、炎で篝火を焚いても魔力を使い切れば消えてしまう。地の盾を作ってもその魔力を維持しなければたちまち脆くなるし、風は持続力がない。


 その点自然現象を操る《精霊魔法》はその様な事を気に掛ける必要が無く、扱えれば便利この上ない。


 そして最大の利点。それは通常の魔法、基礎五属性以外の属性をも操れる点だ。


 通常基礎五属性以外の魔法は様々な条件をクリアした場合にのみ習得、行使が可能になる才能ある者にのみ許された領域。


 詳しい話は後々にするとして、《精霊魔法》はそんな五属性以外の、例えば氷や電気等を操れるというわけだ。


 将来的にはそんな上位の魔法も網羅するつもりではいるが、基礎五属性すらマスターしていない今、それらを行使出来るのはかなり利点と言える。


 ではそんな《精霊魔法》の現在の進捗はといえば──


「うぅーん……。及第点……かぁ……」


 早朝、屋敷野外訓練場にて右の焚き火から左の焚き火。左の焚き火から右の焚き火、と只管ひたすらに火を移動させる反復練習を繰り返していた。その甲斐あってか、なんとか操作出来るレベルにはなっていた。


「たった二週間、しかも合間にしか練習出来ていない状況から考えれば上出来な気もするのですが……」


 傍らで見守っていたシセラが慰めにそう言うが、私としては納得し切っていない。


「何を言う。魔法に関連するスキルを数個所持しているにも関わらず成果がこれだ。年単位での練習が基本なのかもしれないが……。私は自身の未熟さを痛感している」


 だがこれくらい出来れば魔法魔術学院の教員の目には止まるだろう。査定内容がどんなものか判明していない以上もしかしたら無駄になるかもしれないが……。


「兎に角、起床してからぶっ続けで練習されていては本番に響いてしまいます。そろそろ練習は切り上げて査定に備えて休まれてはいかがですか?」


 ふむ。確かにもうそろそろ準備しなくてはならないな。練習で張り切り過ぎて本番でやらかすなど言語道断だ。


「わかった。私は一旦部屋に戻る。シセラはマルガレンを起こして来てくれ」


「わかりました」


 さて、候補者査定……。どんなものか。

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