第二章:運命の出会い-5
「お、おま、オマエ──領主様んとこの……?」
「まあ、はい。そうなりますね」
「そうなりますねじゃ!! ……ますねじゃ、ねぇですよ……」
語尾が徐々に弱くなって行くガーレン。
そう、何を隠そう私はこの街の領主の嫡男。私のファミリーネームを聞いて反応しない街の人間はそうは居ない。
「な、なんで何も言ってくれねぇんですか!? 領主様の息子さんなら最初から言ってくれりゃぁ……」
「いやぁ、話を切り出すタイミングを逃しまして……」
嘘ではない。だがちょっとした閃きに都合が良かったからな。自分からは言わなかったというだけだ。
「ううん、まあ、最初に名前聞かなかった俺も悪いっちゃ悪いワケだしな、うん。あっ、こ、この事は領主様には……」
よし、上手いこと負い目を感じてくれている。こうなれば──
「はい。別に言ったりしませんよ」
「そ、そうですかい!! いやぁ、良かったぁ……。領主様にはこの施設を建てる時に色々と便宜を図って貰いましてねぇ……。ホラ、さっきも言ったように魔物の解体には悪臭やら騒音やらが伴うでしょう? いくら地下に作るつったって、どうしたって近所は良い顔しねぇワケでして……」
「そうでしたか」
「いやぁ、しかし、まさか領主様の息子さんとは……。色々失礼してしまって申し訳ない!」
「いえいえ、気にしないで下さい。それで明日の解体費用なんですが──」
「いや! いやいや!! 結構ですよ!! お詫びって程じゃないが、解体費用は無しで良いです!!」
よしよし。上手い事いった。
「宜しいのですか?」
「ああ!! こんくらいは平気ですよ!! 支部長にも言っときますんで!」
ドンと胸を張るガーレン。まあ、これを最初から狙っていたワケではないが、状況的になんとかなりそうだったから試してみた。結果的に良い方向に向かってくれて私としては満足である。
「それではもう時間も時間ですし、そろそろお暇させていただきます」
「はい! 張り切って仕事しやすんで任せて下さい!!」
ガーレンはそう言って勢いよくサムズアップしてその獣特有の鋭い刃を見せながら私に笑い掛ける。私はそれを頷くだけで返し、解体部屋を出た。
その後すれ違ったギルド員に会釈をしながらギルドを出、一息吐く。
「結構時間が掛かってしまいましたね」
私の肩の上で空を見上げながらそう呟くシセラ。
私も同じ様に空を見上げると、空はすっかり茜色に深い青が滲んでおり、夜に差し掛かっているのを窺わせる。
「今から帰宅したらもう夜になってしまいます。お母様方に怒られてしまうのではないですか?」
そう心配そうに私に尋ねるシセラに、私は優しく背中を撫でてやる。
「心配するな。〝近道〟を用意してある。取り敢えず一旦私の中に戻れ」
私がそう言うとシセラは肩から跳び退き、地面に着地してから黒い光へと姿を変え、私の胸中へと吸い込まれて行く。
「さて」
私は一番近い路地裏に入ると短く息を吐いてから《空間魔法》を準備する。
そして予め確認しておいた座標と、今自分が居る場所の座標を割り出し、発動。
瞬間私の視界は暗転するも、瞬く間に別の景色へと変容し、良く見慣れた屋敷が目の前に現れる。
「よし、成功だな」
私が思わず呟くと、胸中から再び黒い光が飛び出し、地面に着くとシセラが姿を現した。
「クラウン様、今のは?」
「今のは《空間魔法》〝テレポーテーション〟。今居る位置と離れた位置の空間を置換する魔法だ」
「今居る位置と離れた位置を……。かなり便利な魔法ですね」
「まあな。だがどこでも好きな場所にとはいかない。置換したい場所の座標を予め記憶しておく必要があるから、行ったことの無い場所には行けない。それに座標を記憶しておいても、その場所に何か物体が置かれていたら発動しないしな」
私は念の為異常が無いか適当に身体を動かして具合を確かめる。
今は《魔道の導き》があるからこうして自分を使って《空間魔法》を使えるが、無ければ怖くて暫くは使えなかっただろう。ちょっとでも座標を間違えて飛べば、片腕が無いみたいな状況にもなりかねん。
それに便利は便利だが、座標間の距離に比例して魔力を消費する。世界の端から端を移動する事も出来るが、消費魔力を考えるとあまり現実的ではない。
さて、そんな事より。
「取り敢えず、今日は早めに床に着こう。それで明日からは本格的に《精霊魔法》のテストだ」
「《地魔法》はよろしいのですか?」
「ああ。今日の授業で感覚は掴めたから取り敢えずは後回しだ。今は二週間後の候補者査定に向けて《精霊魔法》を理解する」
普通の魔法でも受かる自信はあるが、念には念をだ。《精霊魔法》を使える人材を放っておく程、魔法魔術学院は盲目じゃないだろう。その為にも万全を期す。
「マルガレンにも魔法を使えるようになって貰わないとな。さぁ、忙しくなるぞ」
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