第二章:運命の出会い-4

「……お前コレ」


 ガーレンはそう呟くと椅子から立ち上がり積み上げられたハウンドウルフの死体の側にしゃがみ込む。


 そして懐からモノクルを取り出し、その死体を無言でくまなくチェックし始める。


「あの……」


「…………」


 あー、駄目だ。完全に自分の世界に入っている。私も集中するとなりがちだが、こうなったら大抵の場合耳に何も入らなくなる。気付かれるまで問い掛ける手もあるが──まあ放置しておくか。


 私はガーレンの査定が終わるまで待つ事にし、近くの椅子を引き寄せて座る。


 まったく……。もうすぐ夕方だっていうのに……。


 私はそのままシセラと駄弁りながら査定が終わるまで過ごした。


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(コイツは……。スゲェ……)


 ガーレンは驚愕する。


 目の前に広がるのは山積みにされた魔物、ハウンドウルフの死体が五体分。しかもその内の一体はボスクラスである。


(ボスは後にするとして他の奴は……)


 ガーレンは使い古されたモノクル越しにハウンドウルフの死体を検分していく。一体一体を丁寧に並べ、毛皮などの状態を入念にチェックする。


(毛皮は……。うむ、多少傷は付いているが、修復出来ない程じゃない。爪や牙は……折れてないな。骨は──折れてない)


 検分した結果、ガーレンは毛皮には多少の傷があれどその他の状態は良好であると判断した。


(後はこのボスだが……)


 そうして次にボスの状態を調べる為しゃがみ込み、先程の一体一体よりも更に入念にチェックして行く。


(コイツは……さっきのより傷が少ない? だが何故……。爪は……無傷。牙は……って口の中ヒデェな……ズタズタだ。一体何したらこんな……。まあ、重要な牙は綺麗なままだが。他は──)


 そうして検分する事二時間。ガーレンは椅子に腰掛けながら検分の満足感から来る大きな溜め息を吐いて天井を見上げる。


(以前魔物を検分したのはいつだっただろうか?そんなに前じゃなかった筈なんだがなぁ……)


 そうして懐から贅沢品である煙草を取り出そう体勢を整え直そうと正面を見据えた際。


「ああ、終わりました?」


 その声にガーレンはハウンドウルフが誰に持ち込まれた物だったのかを思い出した。


 __

 ____

 ______


「あっ!! す、すまねぇ!! すっかり忘れちまってた!!」


 ガーレンは慌てて椅子から立ち上がると、シセラと戯れる私の元へ近寄って来た。


「ああ、いえ。真剣にやられていたんで私としては別に……」


 割と長時間やっていたが、素人目から見ても丁寧に調べ上げてくれていたので私としては文句は無い。丁寧な作業をする職人は、それはそれで見ていて飽きないものだ。


「そうか? そんなら有難いが……」


「まあ、それはそれとして……」


 私はシセラを再び肩に乗せてから椅子から立ち上がり、綺麗に並べられた私が持ち込んだハウンドウルフ達の前に行く。


「そんで?オマエはコイツらをどうしたいんだ?」


「あ、聞かないんですか? 私がコレをどうしたのか、とか」


「あぁ? ……まあ、興味がねぇわけじゃねぇが。基本ウチ等は客の詮索はしねぇ。犯罪じゃねぇ限りな」


 ガーレンはそう言った後に私を一瞥した後に小さく溜め息を吐く。


 一瞬私を犯罪絡みじゃないかと疑ったみたいだが、今の私は十二歳。先程から子供扱いされていた私を犯罪に絡ませるには無理があると思ったのだろう。


 まあ、実際コイツに関しては犯罪絡んで無いからな私は。


「で? どうすんだ?」


「そうですね……」


 私がこのハウンドウルフの解体を依頼した理由は主に二つ。


 一つは金。このハウンドウルフの素材を売って金に替えてしまおうと思っている。


 魔物の素材は武器や防具、薬なんかの触媒や材料に出来、尚且つ魔物の個体数が少ない事から高値で取引されている。


 今回のハウンドウルフもそれなりの値段になると踏んでいるわけだ。


 そしてもう一つは武器の材料確保の為だ。


 厳密な予定はエイス達の日程次第だが、今後の予定として鉱山都市パージンへ武器を作って貰いに行く。


 姉さんの話ではこちらである程度素材を持参すればその分の料金の融通や持ち寄った素材に応じた物を作ってくれるらしい。


 つまり私は先日試合をしたファーストワンが手にしていた「疾風鷹の剣ゲイルキャリバー」に使われていたゲイルホークの骨の様にこのハウンドウルフの素材を剣の材料にするつもりでいる。差し当たったて……。


「この中で剣の材料に一番向いている素材はなんですか?」


「剣の材料ぉ? そりゃオマエ、コイツ等なら牙だろう。爪もアリだが、牙に比べてちと脆い。骨も向いているだろうが、硬さや鋭さを考えりゃ一番はやっぱ牙だ。特に──」


 ガーレンはそう言い掛けるとボスの方まで移動し、その頭を抱えて口を無理矢理開けさせる。


「コイツの牙。コイツは上物だぞ。他の奴の牙に比べて長く鋭利で尚且つほぼ劣化していない。しかも──」


 ガーレンは懐から小さいナイフを取り出し、その刃を牙へと勢いよくぶち当てる。牙と刃は触れた瞬間小さく火花が飛び散る。


「この硬さ、かなりのモンだ。並みの金属じゃ傷一つ付かん。俺のこのナイフはちょっと変わった金属を使ってるから大丈夫だが、下手な刃なら負けるだろうよ」


 そりゃあまあ、私の振るったブロードソードを噛み砕いたんだから硬いだろう。まあ兎に角、素材は決まりだな。


「決めました。ボスの牙と爪と骨を残して下さい。後のハウンドウルフとボスの素材は売却で」


「おお、了解した。ああ後、これは多分無いとは思うんだが、〝魔石〟があった場合はどうする?」


 魔石? 確か……魔物の体内で作られるっていう魔力が結晶化した物だったよな。


「魔石は長い年月魔物として生きた個体が体内で生成するモンなんだが、検分した感じボスを含めてコイツ等は魔物化してから日が浅い。だから魔石は見込めないだろうが……。どうする?」


「あー、でしたらあれば引き取ります」


「そうか。だが期待すんじゃねぇぞ?」


「大丈夫です。わかっていますよ」


 私がワザとらしくニッコリ笑うと、ガーレンは鼻を鳴らしながら床に直置きされたハウンドウルフ達を次々運び始める。


「じゃあ解体は明日までには終わらせておく。明日また今日と同じ時間にウチに来い、話は通しておく」


「はい、わかりました」


「それと解体費用! 忘れんなよオマエ!」


「わかってますよ」


「ふんっ。……おっとイケねぇ、名前聞いてなかったな。なんてんだ?」


「はい。クラウン・チェーシャル・キャッツといいます」


「成る程、クラウン・チェーシャぁ──は? はぁっ!?」


 私は驚くガーレンにまたもワザとらしく笑って見せた。

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