第二章:運命の出会い-3
私はギルドの扉を開ける。
建物自体がそこまで大きな物では無いせいか中も比例して広くはない。内装は前世で言う所の地方の小さな診療所の様になっており、受付の前に木製ベンチが数列並んでいる。
そんな内装に目を奪われて見回していると、中に居た数人が私に視線を向け少し驚いている。
特に受付に居る女性は驚きを通り越して私と肩に乗るシセラを交互に見て戸惑いオロオロとして忙しない。
なんとも頼りない受付嬢だが、そんな彼女に私はどうしてもして貰わねばならない事がある。遠慮などせん。
「すみません。宜しいですか?」
「え!? え!? あ、は、はい!!」
そう声を掛け構わずに受付に歩き出すが、尚も慌てる受付嬢。これで仕事になってるのかこの人……。
すると木製ベンチに座っていたガタイの良い男が若干呆れ気味に溜め息を吐いて立ち上がり、私が受付に辿り着く頃合いに受付に手を掛けて私に振り向く。
「おっと、すまねぇな坊主。ここにお前みたいなお子様が欲しがるもんは無ぇぞ。看板見たか? ここは魔物対策ギルド、わかるか?」
男は渋々といった具合に私にそう言い、受付嬢はそんな男の登場にホッとしたのか、安心した様に胸を撫で下ろしている。
この男、私がここに迷い込んだとでも思っているらしい。そんなに私は子供に見えるか?
「はい、分かっていますよ。分かった上で寄ったんです」
私がそう言うと男は訝しんだ様に眉をひそめる。そして頭を無造作に掻きながら受付嬢を一瞥し、困り果てた表情を確認すると、改めて私に向き直る。
「あ〜、なんだぁ坊主。取り敢えず用件を言ってみろ。話はそれからだ」
ふむ。口振りからするにこの男、一応このギルドの関係者なのだろうか?何にせよこれでは受付嬢の意味がまるで無いな。この男が本当にギルド関係者なのかも判然としない以上話をするのは憚られる。素直に聞いてみるか。
「それは構いませんが……。貴方は、関係者ですか? このギルドの」
「ん? 俺か? 俺ぁ別にこのギルドの人間じゃねぇよ、別のギルドだ。仕事で定期的にここに顔出してるな」
別のギルド……。ここまでしておいて部外者かコイツ。
「いやあの、出来ればこのギルドの方……。そちらの受付嬢さんとかに用件を言いたいのですが……」
「あー、まあ、でしゃばったマネなのは百も承知だ。ただよぉこの子、本当つい昨日受付嬢として働き始めたばかりで何もかも不慣れなんだ。今日だって馴染みの人間しか接客はしてねぇ。だから初見の人間相手だと……。わかるだろ?」
男はそう言って再び受付嬢を一瞥する。受付嬢はそれを受けて申し訳なさそうに頭を何度も下げ、必死に謝っている。
まあ、不慣れで馴染みの客しか相手が出来なくて、見ていられなかった顔見知りの男が出て来たのは百歩譲って良いとして。だからといって私の用件を部外者に話すなんて道理は無い。
「事情は分かりました。ですけど貴方に話してなんとかなる用件では無いので、誰か別の人呼んで頂けませんか?」
「別の奴……。なあ嬢ちゃん、確か今ガーレンが居たよな? 呼んで来てくれるか?」
そう言われた受付嬢は何度か頭を下げた後そそくさとそのガーレンとか言う奴を呼びに受付の奥へ引っ込んでしまった。
「今から来るガーレンってのは獣人の男だ。魔物の目利きと解体を主に仕事にしてるちょっと変わった奴でな。最近じゃ魔物が扱えなくて愚痴こぼすばっかりでよぉ……。魔物対策ギルドとしちゃ、魔物が少ないってのは喜ぶべきなのによぉ」
そんな事を口にする男。まあ、確かに魔物が蔓延る世界ではあるが、個体数が少ないというのはある意味で救いなのかも知れないな。スキルの関係上私にとっては不都合だが。
それにしても魔物の目利きと解体が仕事か……。コイツは都合が良い。
と、そんな事を考えていると。
「なんだなんだ頼りない新人だなまったく。俺の仕事は魔物の解体と査定であって接客じゃないんだぞ……。それとも何か? このギルドで一番仕事が無い俺が暇そうに見えたか?実際暇で悪かったなコンチクショウ!!」
そんな事をまくし立てながら奥からやって来たのは一人の獣人。二足歩行で身長が人間並みな所を除けば見た目には殆ど獣である獣人は普通の人間よか迫力がある。言葉の内容からして彼が件のガーレンなのだろが──あれは何の獣人だ? イヌ科なのは間違いないが……まあいい。
「で? どいつなんだ客ってのは」
どいつと来たか……。接客する態度じゃないな……。
「私です。今日はここ魔物対策ギルドに用事があって来ました」
「あぁ? んだガキじゃねぇか。ガキがこんな所になんの用だ? お使いかなんかか?」
「いえ、今日私がここに来たのは貴方にやって貰いたい事があるからです」
「はあ? 俺にだぁ? 馬鹿言っちゃいけねぇなぁオイ。お前みたいなガキが俺に用事なんて有るわけねぇだろうが! 俺ぁ魔物解体人だぞ? ガキのお前が持って来れる案件な訳ねぇだろうが!!」
おいおいマジかコイツ。私は元老人だからこの程度なんとも思わないが、見た目通りの年齢の子供だったら号泣してるぞこの物言い……。子供相手に大人気ない……。
「お、おいガーレン!! 子供相手にそんな言い方……」
慌てて止めに入った男だったが、私を一瞥して顔色一つ変わって居ないのを見ると少しだけ驚いた様な顔をする。
「へっ、ガキの癖に無駄に根性あんじゃねぇか」
「いえいえ……。それで、一応弁解しておきますが、私の話は冗談でも子供のお使いでもありません。れっきとした貴方への仕事の依頼です」
「ほぉ……。改めて言うが俺の仕事は魔物の査定と解体だ。それを踏まえた上で俺に頼むって事は、つまりはそういう仕事って事だ。間違いねぇな?」
「はい。間違いありません」
ギルド内が静かに
そりゃ私みたいな子供が暗に魔物を持って来たなんて話を聞けば、一体どういう事なのかと首を傾げたくもなる。だがまあ、そんなその他数人に構ってる程暇ではない。あまり遅くなっては母上辺りに怒られかねない。
「フン。取り敢えずモノを見せてみろ」
ここ受付だぞ? こんな場所で見せろってか?
「あ、結構量あるんでここでは……」
「何? ……ったく。じゃあ解体場だな。こっちだ付いて来い」
そう言ってガーレンは再び店の奥へと歩き出す。私もその後に付いて行くよう歩き出し、店の奥へと入って行く。
少し廊下を歩くと突き当たりに一つの鉄製扉が見え、ガーレンはそこの扉の鍵を開ける。扉の先は地下へと続く階段となっており、ガーレンはそれを降りていく。
私はそれに続いて階段を降りる。すると再び同じ様な鉄製扉があり、ガーレンはその扉も鍵を開け扉を開く。
扉の先には大きな空間が広がっており、大小様々な解体用と思われる台や解体を行う為の道具がびっしりと置かれた棚。更には天井から吊るされた鎖と滑車などいかにも解体専門の部屋といった様相の部屋だった。
「魔物の解体ってのは悪臭と騒音を伴う場合が殆どだ。だから街中にこういった施設を建てるにはこうして地下に作る決まりになってるんだ」
ガーレンはそう説明するなり近場にあった椅子を自身に引き寄せそのまま思い切り腰掛ける。
「さて! じゃあお前の持って来たブツを見せてもらおうか?」
未だに訝しんだ目を向けながらそう告げるガーレン。
ふむ、じゃあ少し腰抜かして貰おうか。
私はそのまま何も言わずに《空間魔法》のポケットディメンションを発動。暗闇に塗り潰された空間から五匹のハウンドウルフの死体をガーレンの目の前に山積みに吐き出す。
さて、どう反応する?
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