第二章:運命の出会い-2
ニーナの話によれば、約二週間後、この学校の訓練場内にて魔法魔術学院の候補生査定が執り行われるらしい。
これは先程言った成績による編入試験とは違い、魔法魔術学院の教師数人による、主に〝飛び抜けた才能発掘〟に重点を置かれた特別採用枠のようなものらしい。
採用されれば適齢期になり次第即時入学出来、潜在能力や才能が教師陣に認められれば、最悪基礎魔法が一つしか使えずとも採用される可能性すらあるという。ただ──
「ここ最近──と言っても十数年間だけど。採用された子が殆ど居ないらしいのよねぇ……。才能が無いわけじゃ無いのでしょうけど、向こうに行った友達の話じゃ内々で査定がどんどん厳しくなって来ているらしくてねぇ。それこそ何年に一人! とかのレベルじゃなければ難しいわねぇ」
そう言って溜め息を吐くニーナ。
それについては私も小耳に挟んだ事がある。父上と父上に挨拶をしに来た豪商の頭取がしていた会話を興味本位で立ち聞きした時に耳にしたのだが、そもそも例年の様な才覚溢れる者自体が少ないらしい。
しかし当の魔法魔術学院側は採用基準を下げる事はせず、量より質としているのか寧ろそれを年々上げて来ている。
ウチを訪れた豪商も、毎年ある筈の魔法学院の制服や杖等の発注が減っていると愚痴をこぼしていた。
そんな魔法魔術学院の候補生査定に私が受かるとニーナは踏んでいるようだが……。うーむ。
魔法魔術学院か……。一応私はいつかはその学院に入学するつもりではいた。
予定では《空間魔法》の習得完了後、簡単な《地魔法》から基礎魔法を習得しながら出席日数を増やしていき、試験を受けられる様になってから直ぐにそれらをクリアして入学。と、していたわけだが。向こうからわざわざ来てくれるとはな。運が良い。なんとしてでも受からなければ。
「それで、どうする? 今からクラス変わったって、仮に採用されれば新しいクラスに居るの二週間だけになっちゃうし。いっそ今から休学届けだして、査定に備えても良いと私は思うけど」
査定に備えるか……。確かに必要だな。だがそれならば。
「なら二週間だけでも学校の授業受けますよ。一応真面目に授業を受けると決意はしたので」
「うーん、それはまあ、良い事なんだけど……。正直な話、君の今の学年じゃちょっと持て余すんだよね、あの魔法は」
持て余すと来たか。まあ、普通はあり得ないだろうな、私の様なイレギュラーは。基礎魔法こそ今は《炎魔法》と《空間魔法》だけだが、適性だけなら五大基礎魔法揃ってしまっている。私の齢じゃ考えられない。
「ん〜、どうしてもって言うなら飛び級って形で上の学年にしてあげられ無くもないけど」
「あ、ならそれで」
「でもなぁ、二週間だしなぁ」
さっきからこの先生、私が採用される前提でもの喋ってるな。査定内容がわからないからはっきり言って採用されるかわからないというのに……。
「随分評価して下さっているんですね。最近まで授業をサボっていた私を」
「ん〜、伊達に魔法学校教師生活長くないからねぇ。才能ある君にとって授業は退屈な時間だっていうのは分かってたし……。まあ、それをなんとかしてやれなかった私はまだまだ未熟って話なんだけど……。それならせめて、ヤル気なった君を精一杯応援してやるのが、担任の勤めでしょ」
そう言ってイタズラ気味に笑って見せるニーナ。
本当、子供扱いというか何というか……。まあ、その心遣いは嬉しく思わなくもない。私を応援してくれるというのであれば、私はそれに甘んじよう。
「ありがとうございます。ニーナ先生」
『お疲れ様です。クラウン様』
ニーナからの説教を終え、帰路に着こうとした学校の校門、そこで頭に声が響き、私の胸から黒い発光体が飛び出て来る。
発光体は地面に着地すると、その光は搔き消え中から一匹の赤黒い毛並みをした猫、シセラが現れる。
「ああ」
私は返事をしてからそのまま歩き出す。
私の屋敷までは歩いてはそこまで掛からない。だが今日は少し寄り道をしてからの帰路を予定している。
ニーナ先生からの説教が少し想定外だった故、後日に持ち越してもと考えたのだが、やりたい事が気になって気になって仕方がない。帰宅は遅くなってしまうが、まあ、問題ないだろう。
その道中、少し気になった事があった為、雑談がてらシセラに話を振ってみる。
「……気になっていたんだが、シセラは私の中の何処に居たんだ? 私は漠然とお前を感じれるが……」
「それは……。クラウン様の《
《
「あの場所とても素晴らしいですね! 貴方様が手に入れたスキルが美しい結晶として展示されていて、見ているだけでえも言われぬ感情が湧いて来る様でした」
「そうか? 私も夜寝る前に何度か見て癒されているのだが、あの剥製の出来には格別感動を覚えた」
初めて《
昨夜も寝る前にあの狼の魔物、ハウンドウルフの剥製を見に《
あの時は戦闘中だった事もありまじまじと見る事が出来なかったハウンドウルフだったが、博物館内にて剥製にされたハウンドウルフ達はその迫力ある姿とは裏腹に両親と子供、三匹が仲睦まじい様子をジオラマの中に再現していた。
ただ飾るだけではなく、格納した魔物、生物にはその生物が一番印象に残っている光景をジオラマ化して展示するらしく、あの親子はきっと、そんな家族で過ごす時間が何よりも大切だったのだろう。
「あの狼の親子……。とても仲が良さそうでした」
シセラはそう言って若干俯く。その声音にはどことなく悲壮が混じり、あの親子を哀れんでいる様子だった。
「……あの親子を剥製にしたのは私だ。シセラ、私のやる事に、疑問を感じるか?」
元々あのハウンドウルフの親子は私に殺されなければ暖かい家庭を築いていたかもしれない。あの時は一匹だった子供にも兄弟が出来たり、ツガイを見付けて新たな家庭を築いたかもしれない。考え出したらキリの無い話だ。
「……いいえ。あの狼は魔物化していました。生物は魔物化してしまったら、もう殆ど理性は無かった筈なのです。仮にあったとしてもそれは時間の問題でしょう。それにあのままでは遅かれ早かれこの街に降りて来る可能性だってありました」
「私のやり方は間違っていないと? 魔物とはいえ私欲で生物を剥製にする私がか?」
「正しい正しくないの問題では無いのです。何をどうしたいか……。生殺与奪の権利は、勝者にしか無いのです」
そう言いながらシセラは全身のバネを利用し、ひとっ飛びで私の肩に飛び乗り、その頭を私の頭に擦り付けて来る。
「貴方様が実現したい事が私のしたい事。私は貴方様に、出来る限りの生殺与奪の権利をお与えしたい。それが私の望みです」
「……そうか。そうだな」
私はそんなシセラの頭を撫でてやる。前世でも飼っていた猫の様に耳の付け根を少しだけ強めに揉んでやると、更に気持ち良さそうに頭を動かす。元が精霊だったと信じられない猫っぷりだ。
「さて、そろそろ着くぞ。看板が見えて来た」
私は店の前まで辿り着き、店の横に張り出した鉄製の文字看板に視線を移す。
〝魔物討伐ギルド支部・翠緑の草狐〟
「さて、ハウンドウルフはいくらになるのかな……」
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