第二章:運命の出会い-7
所変わって王立ローゼン魔法学校中央訓練場。
今日、魔法魔術学院の候補者査定はこの場所で行われ、ここ貿易都市カーネリア中の我こそはという若者が一斉に集う。
下は不問、上は十五歳の年齢制限の下集まった若者の総数は裕に五十を超えており、カーネリアの他の学校の中で随一の広さを誇る訓練場が狭く感じる。
私達の前には合計十人の魔法魔術学院から来た教職員、それらを護衛して来た複数の兵士。そして未だに一番大きな馬車から出て来ないでいる数人。
そんな彼等はまるで既に査定が始まっているかの様に私達をその目で睨み付けて来る。
そんな視線に若干の不快感を覚えていると、教職員の一人が用意されていた高台に登り、見た目が拡声器の様に見える何かを口に当てがい、話を始めた。
「これより!! ティリーザラ王立ピオニー魔法教育魔術学院による才覚候補者査定を開始する!!」
漸く始まった。正式名で学校名を口にしたが、大概の人は魔法魔術学院と呼ぶ。あんな長ったらしい名前、一々口にしていられないからな。
「これよりお前達には各教職員を先頭に別れてもらい、そこより個別に第一査定を受けて貰う!! 順番などは不問!! 各々が好きな教職員に付いて行きなさい!! 」
騒つく若者達。だが教職員達は各々が既に用意されている簡易的に作られた小部屋に向かって歩き出してしまっている。
好きな教職員に付いて行けか……。おかしな話だ。今日初対面の相手に好きも嫌いもあるか。だがそれでも選ばせるという事は……。
私は不自然に歩みの遅い十人の教職員達一人一人に簡単に《解析鑑定》を発動して正体を見る。すると、
やはりか。十人中半分の五人は魔法系スキルを持っていない。つまりは教職員ではない一般人だ。簡単に概要を見てみたが、その一般人も全員役者。騙す気満々だな。しかも無駄に美男美女と来てる。
個別に第一査定を受けて貰うと言っていたクセにそれ以前の選択で既に取捨選択をするか……。あまり温いモンでは無さそうだな。
私は再度本物の教職員である五人に《解析鑑定》を掛け、中でも一番優秀なスキルと書いてある概要がまともな教職員を見付ける。
私はその教職員の方へ迷わず歩みを進め、未だに誰にするか迷いに迷っている若者達を尻目に教職員の入った小部屋に入る。
「お、凄いな。こんな速さで私の所に来た奴は居ないぞ」
そうやって軽く驚く初老の男の教職員。
「随分と意地の悪い事をするんですね。確かに優秀な魔法の才能を持つ者は高確率で《魔力感知》を習得している事があるらしいとは聞きますが、この様子だとここに来た半分以上が失格になるんじゃないですか?」
私がワザといやらしい言い方をすると、初老の教職員は小さく笑い、私の肩をポンポンと二回軽く叩く。
「いやはや、そこまで分かって私の下に来たのかい? 素晴らしいじゃないか君!」
「それはどうも」
魔術士は一般人に比べ当然魔力量が多くなっている。故に優秀な魔法の才能を持つ者は《魔力感知》を使い本物の教員を探し当てられるというわけだが、そういった説明が一才無いのはどうなのだろうか?
「まあ、アレだよ。人数が人数だからね。それに最近はこうでもしないと勘違いした貴族やらスキルを持っているだけの人が受かってしまうからね。必要な処置だよ」
そう言う初老の教職員は肩から下げた鞄から一枚の羊皮紙を取り出しながら私に差し出す。見た目はスクロールに似ているが──
「コイツは〝鑑定書〟だ。エクストラスキル《解析鑑定》が封じられたスキルアイテムだよ。スクロールと似てはいるが、製法が若干違う貴重品だ」
ほう、コイツが噂に聞く鑑定書……。確かに見た目が通常のスクロールと違い、大きめの空欄が出来ている。恐らくは鑑定した者のスキル構成なんかがこの空欄に浮かび上がるのだろう。
「さて、では第一査定だ。査定内容は見て分かる通りシンプル。この鑑定書に触れて君のスキル構成を見せてくれ。そこで私が判定する」
本当、実にシンプルだ。これなら一発で才覚ある者を探し出せるし、事前に知っておけば後々に生徒になる者の能力を理解出来る。
それにしても鑑定書まで使うとは……。
「さあ、触れてくれ。そろそろ君以外の者も並び始めたみたいだ」
そう言われ《聴覚強化》で外の音を探ってみると、近くに複数人が並び始めた足音が聞き取れた。
確かにこのままグダグダしていては後が支えるな。
だがだからと言って私のスキル構成をそのままこの教職員に見せる訳にはいかない。特に《強欲》なんかは以ての外だ。
ここは《隠匿》のスキルを微調整して見せるスキル見せないスキルを適当に選ぼう。
私は《思考加速》《高速演算》の下、見せないスキルを選び、そっと鑑定書に触れる。すると鑑定書から私に魔力で軽く糸が繋がり、鑑定書の空欄に上から徐々に私のステータスが浮かび上がる。
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人物名:クラウン・チェーシャル・キャッツ
所持スキル
魔法系:《炎魔法》《空間魔法》《精霊魔法》
技術系:《剣術・初》《短剣術・初》《大剣術・初》《ナイフ術・初》《槍術・初》《手斧術・初》《爪術・初》《弓術・初》《体術・初》《投擲術・初》《窃盗術・初》《
補助系:《体力補正・I》《魔力補正・I》《筋力補正・I》《防御補正・I》《抵抗補正・I》《敏捷補正・I》《集中補正・I》《命中補正・I》《器用補正・I》《幸運補正・I》《聴覚強化》《嗅覚強化》《咬合力強化》《統率力強化》《斬撃強化》《思考加速》《高速演算》《演算処理効率化》《魔力精密操作》《超直感》《気配感知》《気配遮断》《魔力感知》《動体感知》《物体感知》《罠感知》《鍵開け》《威圧》《召喚》《魔力障壁》《疾風》《焼失》《品質鑑定》《精霊の加護》《炎魔法適性》《地魔法適性》《水魔法適性》《風魔法適性》《空間魔法適性》《精霊魔法適性》
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「……………………」
空気が固まる。
初老の教職員は私と鑑定書に浮かんだスキル構成を交互に何度も見返し、顔中から汗を噴き出させる。
取り敢えずエクストラスキルは全部隠した。通常、私の年齢では有り得ない量のスキルに加えエクストラスキル複数持ちというのは流石にどうなるか分からない。下手をすれば何か良からぬ方向に話が進んでしまいかねないしな……。
それでも私は自分のスキルをあまり隠さなかった。下手に舐められるのは避けたいのと、私の有用性、それに教職員に対する印象付けと待遇の優遇。それらを加味しての結果だ。
文字通りの〝即戦力〟。
この教職員がこれを逃すような無能ではない事を、私は先程の《解析鑑定》の結果で既に知っている。
それからたっぷり間を置いて数分。私の背後の扉から少しずつ不満の声が聞こえ始めた頃合いに、教職員はハッと我に返って唾を飲み込んだ。
「君は……一体何者なんだ?」
「ただの領主の息子ですよ。少し才能のある」
「領主の? …………そうか、君か。あの方が仰っていた子は」
あの方? もしかしなくともあのデカイ馬車に乗ったままの奴か?
流石に距離が離れていたし、姿を見せないから《解析鑑定》を使えていないが……。大物が来ているのか?
「君は当然第一査定合格だ。それと君には第二査定ではなく〝特別査定〟に向かって貰う」
「特別査定……。ですか」
なんだ。あのスキル構成を見せたら候補者査定そのものが合格になるかもと少し考えていたのだが……。まあ、《精霊魔法》の練習が無駄にならずに済んだと思おう。
「取り敢えず君は呼び出しがあるまで待機だ。そんなには待たせないから心配しなくていい」
「そうですか、わかりました。因みにその鑑定書は……?」
まさか私のスキル構成を残しておくわけじゃないよな? 残すつもりならこの場で灰にしてしまうが……。
「安心してくれ。君のスキル構成は後数秒もすれば綺麗に消える。記録も残らん」
ふむ。それもそうか。あんな貴重品が使い捨てなワケが無いよな。
「では次の者に交代を呼び掛けてくれ。後、くれぐれも訓練場からは出ないように。呼び出しに応じなければ不合格になる。…………まあ、君の場合意地でも逃さないが」
「ふふっ。わかっていますよ」
私は軽く会釈をして背後にある扉を開け、外に出る。目の前には四人の若者が並んでおり、自分の番を今か今かと待ってる。
周りを見渡せば先程の偽教職員の個室に並んでしまった若者が怒りや涙を浮かべながら訓練場から出て行く様が窺える。
割と減ったな。残り三十人居るかどうかじゃないか。
そんな感想を抱きながら、私は次に査定を受ける一人の少女に目を向ける。
髪は綺麗な長い
服装は豪華とは言えないが、それでも精一杯の晴れ着であるのを窺わせるように所々に細かな刺繍が入っている。
肌の色は陶器の様に白く、また体付きも細い。
「次、君の番だ」
「はい。わかりました」
落ち着いた可愛いらしく、けれども冷たい声を発し、私の横を通り過ぎる。
そんな彼女はすれ違い様に仄かに薬草特有の匂いを漂わせ、私の記憶の僅かな琴線に触れる。
どこかで嗅いだ事が……。だが会ったことは無いな。
会っていたら忘れる筈は無い。
あんな美しい人……。私が今の今まで会ったどんな子より可憐で、
…………君が合格したのなら、その時は……。
そう静かに思いながら、私はその場を後にした。
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