第二章:運命の出会い-10
私は初老の教職員に導かれるまま何台かある中で一番大きく、そして無駄に豪華な装飾が施された馬車の前に来た。
その周りには先程他の候補者達を査定していた教職員達五人と、馬車を護衛する目的に集められた兵士達で固まっている。
マルガレンはこの場に来る直前、そんな兵士達に止められてしまった。私の側付きだと説明をしたが、通されるのを許可されたのは私だけだとの一点張りで取り付く島がなく、私がマルガレンを宥める形で待機して貰っている。
そんな物々しい警備の中、教職員や兵士の嫌な視線を感じながら馬車前で待つ事数分。馬車の扉が開け放たれ一人の老人が降りて来た。
老人といっても杖をついたような年寄りではなく、頭髪こそ白髪であれ顔にシワが比較的少ないまだ若々しさすら残した人物だ。
纏う衣服は豪奢で、深い緑色をベースに赤のラインが入った複雑に入り組んだデザインと金の細かな装飾が施されたローブを着熟している。
首からぶら下がる幾つもの宝石や貴金属であしらわれたペンダントやブレスレットもまた、その老人が漂わせる風格を後押ししているのを感じた。
この人があの王国最高位魔導師フラクタル・キャピタレウス……。雰囲気だけで判断するならその服や肩書きはお飾りでは無いのだろう。
「ようよう来てくれたクラウン・チェーシャル・キャッツ君」
キャピタレウスは馬車を降り切り、私の前まで来るや否やそう口にして右手を差し出して来る。
「光栄です。フラクタル・キャピタレウス様」
私はそれに応えるように同じく右手を差し出してそのまま握手をする。
さて、別に疑っちゃいないが念には念をだ。それに知りたいからな。どんな実力者なのか……。
そうして私は躊躇いなくキャピタレウスに《解析鑑定》を発動させる。すると、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人物名:フラクタル・キャピタレウス
種族:人間
年齢:七十七歳
状態:健康
役職:ティリーザラ王国最高位魔導師
所持スキル
魔法系:《炎魔法》《水魔法》《地魔法》《風魔法》《光魔法》《霧魔法》《雷電魔法》《嵐魔法》《回復魔法》《爆撃魔法》《幻影魔法》
技術系:《剣術・初》《杖術・初》《杖術・熟》《体術・初》《瞑想法》《速読法》
補助系:████妨害されました。
概要:元「救恤の勇者」。現在はティリーザラ王国最高位魔導師として国の軍部や魔術団の指導、王立ピオニー魔法教育魔術学院の学院長を兼任している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……成る程。見るからにスキルを改竄しているな。最高位魔導師と名高い偉人がこの程度なわけはない。
しかも大雑把に全て隠すのでなく、ギリギリ実力を見誤りそうな絶妙な塩梅のスキル構成……。実にタチが悪い。
「はっはっはっ。どうかね? ワシの実力は? オヌシのお眼鏡には叶ったかね?」
やはりか。この爺さん、私が《解析鑑定》を習得しているのを知っている。
まあ、習得したあの時は別に隠そうとはしていなかったのだが、私の事はある程度調査済みと見て良いだろう。
加えて《解析鑑定》で私がキャピタレウスを見るのを悟って自分の実力を見せ付ける目的で敢えてスキルを魔法系と技術系だけ見せている。更にスキル《隠匿》で補助系だけを隠す事で私に底の知れなさをアピールして来たか。面白いじゃないか。
「流石ですね。他者を油断させる為の改竄……実に絶妙なラインです。噂や著書等でお名前を知った時から尊敬していましたが、ますます興味が湧きました」
「ふむ。それだけか?」
どうやら私に何かを言わせたいらしい。相手が何かを望んでいると逆らいたくなるが、今は都合が悪いな。ただまあ、そうだな。少しばかり意地の悪い事を言うのであれば──
「まあ、多分私は直ぐ追い付けると思いますがね」
私がそう宣った瞬間、周りを固める教職員と兵士の鋭い視線が突き刺さるのを感じる。その視線は最早言葉すら孕み、「なんと傲慢な」と今にも聴こえて来そうだ。
しかし当のキャピタレウス本人は私の言葉を聞いて嬉しそうに笑うと肩を軽く叩いて来た。
「はっはっはっはっはっ!! 言うではないか小童が!! ワシをワシだと理解してのその言葉、期待感で胸が張り裂けそうだわい!!」
そう盛大に笑い声を上げるキャピタレウスに、周りからの視線は和らぎ、先程と同じ空気に落ち着く。
成る程。堅物な人間で無いのは分かった。これなら今後何かで顔を合わせた時には付き合い易いだろうな。まあ、まだまだ学生の身なりの私がこんな人物とまた顔を合わせる時が来るのがいつになるか分からないがな。
と、そんな事を考えていると──
『報告します。外的要因によりクラウン様に《解析鑑定》が行使されています』
そう《天声の導き》により頭の中でアナウンスが響いた。
ほう? 私に《解析鑑定》だと?
そう思いキャピタレウスの顔を見上げると、その口角が僅かばかり吊り上っているのが見て取れた。
ほう。意趣返しのつもりかは知らないが、お前がやったのならワシだってやり返すぞ、みたいな感じか。変に意地を張る。
だが私だって抜け目は無い。既に私のスキル構成は《隠匿》により先程の鑑定書に写っていたスキル構成と同じにしてある。
だが鑑定書と違って《解析鑑定》だと隠したスキルは露骨に〝妨害〟と表示されるからそこから何かを察せはする。爺さんだって先の私の鑑定書内容を何らかの方法で確認しているだろう。それを踏まえて私に《解析鑑定》を発動したのなら……。この爺さん、私にまだ何かあると悟ったな?抜け目のない……。
「成る程のぉ。凄まじい才能じゃの。これならば先程の傲慢も頷ける。ならば──」
そう言うとキャピタレウスは私に付いて来るように手招きするとそのまま教職員の間を通って歩いて行ってしまう。
私はそれに応じキャピタレウスの後を追うと、そこには不自然な土の壁で囲まれた広めの空間があり、そこには一つの的が用意されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます