第五章:正義の味方と四天王-6
新たな私の愛剣「
差し当たり暫くはこの
「よぉしっ。今日はこんなもんか」
そう言って身体を伸ばして肩を回すノーマン。
確かに〝私の〟依頼は今回の所終わりだ。しかし、今日はまだ彼等に用事がある。
「あ、すみません後一つお願いが」
「あぁ? まさかまた武器追加で作ってくれってんじゃねぇだろうなぁ? これ以上は流石の俺も──」
「いえいえ違いますよっ。この店って武器の貸し出しなんかしていたりしますか?」
私のその言葉に一種キョトンと目を丸くするノーマンだったが、取り敢えずは聞くだけ聞こうという脳内の声が聞こえて来るような分かり易い表情を見せてから口を開いた。
「いや、やっちゃいねぇな。やってる所もあるが、大抵は鍛治だけじゃ生計が立たねぇって店だ。その点、ウチは主にオメェさんからそれなりに稼がせて貰ってるからな。やる必要がねぇ」
ふむ。成る程……。
「で? 急になんでぃ?」
「ああ、いえ。実はここに居るロリーナに何種類か武器を試しに使わせてあげたくてですね」
そんな私の発言に、まさか自分の話だとは思っていなかったロリーナが「どういう事ですか?」と言わんばかりの視線を私に向けて来る。
「やはり直剣は君には合っていないと私は感じた。だから色々試す為にも何種類か武器を借りるつもりでいた」
「ですがそれでは時間が……」
「何を急いでいるかは分からんが、このまま合わない武器を使い続けて将来手詰まり、結局また別の武器に替えるなんて事態になる方が無駄な時間を過ごす羽目になるぞ? それに稽古をやり直すといっても基礎は大方同じだ。そこまで時間は食わない」
「し、しかし……」
「私を信じなさい。私が必ず、君を君自身が納得いくような強さに辿り着かせてみせる」
「そう、ですか……」
まだ若干納得いっていない様子だが、本当に自分に合った武器が見付かればその意識も変わるだろう。でなければ困ってしまう。
「……はぁ。しゃあねぇなぁったくよぉ」
「はい?」
突然何か言い出したノーマンに思わず素で聞き返してしまう。
するとノーマンはそのまま厨房の奥に消えて行き、何やらガシャガシャと軽く金属がぶつかるような音がこちらまで響き、次に彼が姿を見せた時は両手にしこたま武器を抱えて戻って来た。
ノーマンはそれを「よっこいせぇ、と」とジジ臭く呟きながらゆっくり床に下ろしてから壁に立て掛け、私達に見える様に並べる。
「取り敢えずウチにあるのはこんなんだ。直剣以外だとナイフ、短剣、細剣、大剣、大斧、手斧、槍、棍、大槌、槌矛、弓。ここいらがポピュラーだな」
「あの……これらは一体? 売り物にしてはどれも質が良くないようですし、そもそも刀身がどれも潰れていますし……。第一かなり埃を被ってますよね」
「ああ、コイツらは〝制作見本〟ってやつだ。鍛治初心者が真似て作る用に簡単にパーツをバラバラに出来るようになっててな。形や重さ、材質なんかが平均化されてる代物だ」
「成る程。という事はモーガンも?」
「……いや、コイツはこんなもん見なくても最初から作れちまったよ。ったく、コイツの為を思って全部手ずから作ってやったのに、その工程見ただけでコイツらより上出来な処女作作りやがって。お陰で倉庫の肥やしだよ」
呆れながらそう言って溜め息を吐くノーマン。一方、そんな話題の中心人物であるモーガンは横で照れ臭そうに俯いて何か言い訳のようにぶつくさ呟いている。
というかこうやってわざわざ見せてくれるという事は……。
「これはつまり、貸して頂ける……という解釈で良いんですか?」
「ああそうだよっ。つうかオメェさんにやる。ウチにあってもしゃあねぇからな」
「それは、そうですね。なら有り難く頂きます」
「さっきも言ったが普段はこんな事してねぇからな? オメェさんはウチ一番のお得意さんだから特別に、だっ!」
それはまた、役得だな。一つの店や人を贔屓にしているとこういう事がたまにあるから好きなんだ。
それでは少し、我が儘を言ってみようか。
「それで、制作見本というのはこれだけですか?」
「いや、あるっちゃあるが……。変わり種だぜ?」
「一応、見せて頂けますか?」
「まあ、いいけどよ」
そう言ってまた奥に消えると、同じように抱えられるだけの武器を持ち、今度は作業台に乗せてから並べる。
「大鎌、鎖鎌、手甲、鉤爪、投刃、鞭……辺りだな。まあ、コイツらを選ぶのは好き好んで使いたがる奴か伝来の使い手くらいのモンだ。オメェさんならまだしも、そこの嬢ちゃんみてぇな初心者にゃオススメせん」
確かに、中々お目に掛かれない武器ばかりだな。あるのはラービッツが使っていた鉤爪くらいか……。
「俺個人の主観を挟ませてくれんなら、やっぱ女は軽い武器が良いと思うぜ? 勿論、そこいらの男より鍛えてる奴も居るから一概にゃ言えねぇが、嬢ちゃんみたいに特別筋肉質じゃねぇ身体付きだったら尚更だ」
ふむ。やはりそうなるか。
ロリーナのこれまでの稽古の動きから鑑みても、やはりそうなるだろうな。
直剣を振れていないわけでは無かったが、どことなくアンバランスで若干振り回されていたようにも感じた。
となると軽い部類で言えばナイフや短剣、細剣に棍や弓。変わった所だと鎖鎌や手甲、鉤爪に鞭辺りが妥当か?
ならばそれらを一つ一つ試して……。
……それはそうと──
「……ノーマンさん。余り女性の身体に言及した言葉は使わない方が良いですよ。セクハラになりますから」
「う、うぉ……、分かった……。分かったからそんな怖い顔すんなって」
まったく……。
まあ、それはそうと。
「取り敢えずご紹介頂いた制作見本全部、お借り出来ますか?」
「全部ってオメェさん……。嬢ちゃんが使う分だけじゃなくか?」
「ええ。短剣以外の武器を預けていくわけですならね。私も細々とではありますが身体が鈍らないよう武器を振るって稽古したいんですよ」
「ふーむ、成る程な。構わねぇよ。どうせここにあっても倉庫で錆びてくだけだしな」
「ありがとうございます。では料金を──」
「はあ? いらねぇよっ! いらねぇって!! 商売じゃねぇっつったろっ!!」
「そうですか? ありがとうございます」
「ったくよぉ……」
呆れながら頭を掻くノーマンと笑う私の横で、ロリーナとアーリシア、モーガンがクスリと笑った。
鍛治関係の用事が終わり、「竜剣の眠る
「で? どこ向かってるんでしたっけ?」
「「震える魂の糸車」だ。そこはノーマンさんの奥さんであるメリーさんの店でな。以前に私の専用防具を作って貰った」
「へぇー……。でぇ、何をしに?」
「ああ、ちょっとな」
「……?」
疑問符を頭に浮かべるアーリシアを他所に、道すがらチーズなんかの特産品を気の済むまで買い込みながら通りを歩いて行き、その最後ノーマンの店とは対極にある「震える魂の糸車」に到着した。
店の前に立つと、アーリシアとロリーナはその店構えを
「ふぁー……。なんだか高そうなお店ですねぇーっ!!」
「きっと貴族夫人や資産家の人向けのお店なのでしょう。並んでいる服もまた相応に……」
やはり女性というのはこういった服飾屋が好きなのか、今まで寄った店の中で一番活き活きしている気がする。
まあ、今回は服を買いに来たわけではないんだがな。
「入るぞ」
私がそう声を掛け、漸く店構えから目を離した二人は私の後ろを付いて来る。
そうして扉を開くと、そこでは何名かの女性店員に混じり、店長であるメリーが衣服を畳んでいる姿が目に留まった。
「いらっしゃいませ」とどの店とも違う上品で
「なんだい、アンタかいっ! 改めていらっしゃいなっ!」
「ご無沙汰しています」
「ご無沙汰って、そんな経っちゃないだろうに。というか、今回はウチの馬鹿亭主は一緒じゃないんだね?」
「まあ前回は案内してもらっただけですから。それに連れて来たら貴女また怒るでしょう?」
「はっはっはっ!! 違いないっ!!」
ノーマンに似て豪快に笑うメリーは、そこでふと私の後ろに少し隠れるように立っていたロリーナとアーリシアに気が付き、その口元を吊り上げる。
「なんだいなんだい隅に置けないねぇ……。女の子二人も侍らせてまったく」
「流石夫婦。ノーマンさんにも似たような事言われましたよ」
「いや、今のやっぱ無し。……所で、今日二人を連れて来たのは……」
「はい。二人にこの店で何かプレゼントしようかと」
私のその言葉に目を丸くしたのは他でもないロリーナとアーリシアの当人達。
二人は私の目の前にまで移動すると、ジッと私の顔を覗き込む。
「い、今の言葉っ!」
「本当ですか?」
「ああ。ロリーナにはアンデットの呪いから救ってくれた件や私の無茶に色々付き合ってくれた礼。アーリシアには今までの分の礼のつもりだ。好きな物を選びなさい」
「ですが、私は以前好きな物を買えと帝都で……」
「アレは森の件での褒美だよ。今回のは、単純に私からの感謝の印だ。受け取ってくれ」
特にアーリシアには色々やらせていたにも関わらずまともに褒美なんかすら買ってやったりした事が無かったからな。
ここら辺で個人的な溜飲を下げたい。
「で、ですが……このお店、結構高い……」
「金を払えないような店にわざわざ連れて来んよ。さあ、遠慮せず」
そこまで言うと二人は互いの顔を見合わせてから頷き、揃って店の端っこに小走りで向かっていく。どうやらアイコンタクトで「取り敢えず全部見て回ろう」と決まったらしい。中々どうして仲良くなったじゃないか。
「これはアレかい? 前来た時のタダにするって依頼使うのかい?」
「はい、お願いします」
「そうかいそうかい。で? アンタは買わないのかい?」
メリーはそう言うと手で男性服売り場を指し示し、「制服もいいけど、私服も買って損はないよ」と言って促してくる。
「勿論買わせて頂きます。ですがそれより一つ、頼み事が」
「なんだいなんだい。また何か作ってくれってかい?」
「察しが良くて助かります」
「ふぅーん。アンタの?」
「いえ。今日は来ていないんですが、あの二人同様に礼をしたい奴等が居ましてね。ちょっとそれをオーダーメイドして欲しいな、と」
「それは構わないが、店のを買うんじゃ駄目なのかい?」
「駄目ではないんですが、私が持っている素材を使いたいんですよ。なんせ協力して倒した獲物の素材ですから」
あの二人。ロリーナやアーリシアのように服飾にはあまり興味は無さそうだったからな。
折角だから記念品の様な物を作って私から贈ってやろうと考えた。店売りの服飾だと好みが出てしまうから選べないが、記念品という名目があれば気に入ってくれるに違いない。
折角渡すなら喜んで貰わなくてはな。
「そいつは中々に粋だねぇ。了解。そいつもタダ依頼にしてやるよ。そんならまた奥に来てくんな。お二人さんが服選んでる間にチャチャっと決めちまおう」
「はい」
「震える魂の糸車」での買い物や依頼を終えた私達は、そのまま学院への帰路に着いた。
見上げれば既に空は夕暮れの濃い橙色に染まり、地平線に沈もうとする太陽に雲が掛かり、なんとも言えない寂寞が漂っている。
「このまま帰って自室でゆっくりしたい所ですねぇ……」
そんな空を見てノスタルジーに浸るアーリシアだが、彼女の仕事は今から始まると言っても過言ではない。
「何を言っているんだまったく……。まだまだ手伝って貰うぞ? 自分から言い出したんだから気合いを見せなさい」
「は、はいっ!」
燈狼の穢れを祓ってはくれたのはありがたいが、それはあくまでも土壇場で起きたトラブルに対処して貰ったに過ぎない。
買った服の分もきっちりと〝教えて〟貰わねばな。アーリシアが本当の意味で役立ってくれるのはこの後だ。
その後私達は動き易い服に着替え、朝にも来ていた稽古場を再び訪れると同じように貸し切り、そこで本日の予定の締め括りである魔術の稽古に取り掛かった。
「取り敢えずは夕食まではやろう。夕食後にまだ物足りなければ続行するつもりだが、まあそれはその時になってから決める」
「それはいいんですが、一体何をするんですか?」
そう疑問を投げ掛けるロリーナに対し、私は視線でもって答えを表す。即ちアーリシアの方を見て。
「これから彼女に《神聖魔法》を習いたいと思っている」
「…………はい?」
そんな素っ頓狂な声を上げたのは、紛れもないアーリシア自身だった。
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