第一章:満たされる予感-1

 

 私はふと、気が付いた。、事に気が付いた。


 一体何を言っているのかと思うかもしれないが、よく考えて欲しい。


 私は死んだのだ。疑いようもなく、寿命で、天寿を全うしたのだ。


 なのに意識がある。自我がある。そして自分が何者かの記憶がある。


 死後に一体何があるなどと知る由もない私ではあるが、天国や地獄があるなどと夢を見ていたりなどしていなかった。


 むしろ死後には何もなく、それこそ意識も自我も、ましてや記憶などなくなる。


 そんな予想をしていた。


 死ぬ間際に来世とか宣ったが、あれは意識が混濁する中の世迷言に過ぎない。心の底から信じてなどいなかったのだ。


 なのに今現在、私の意識はハッキリしている。


 これは一体どうした事だ?


 まさか本当に天国や地獄があるなどと……。


 そう思いながら周りを見回してみる。そこは真っ白な空間。何処まで行っても何もない。


 というか白過ぎて遠近感が一切掴めない。距離の概念があるのかすらわからない。そもそも今の私に視覚があるのか? この景色は本当に視覚からの情報なのか? それすら判然としない。


 なんの収穫もない不毛を悟り、次に私は自分自身に目を向ける。やはりというか、何も無い。


 両の手足も胴体も、視認できないが恐らく頭も、何も無い。


 そこで私は一つの考えに至る。私は今ただただ真っ白な空間に意識のみで漂っているのだと。


 なんだその状態は? どういう状況なんだ?


 頭が無いにも関わらず働く思考にも若干疑問を覚えるが、今はそんな事はどうでも良い。


 この状況をなんとかしなければならない。そんな思いが頭を埋め尽くす。


 何故そこまで焦るのか? 考えるまでも無いだろう。こんな何もないただ真っ白な空間に意識だけで放置など、まともな人間なら発狂必至だ。


 裏社会である程度名を馳せた私の常人よりは強靭な精神も、いつまで持つかわからない。


 まさか発狂するまでが輪廻転生の一部などという可能性はあるが、正直勘弁願いたい。ただでさえ悔いを残して死んだというのにコレ以上の仕打ちなど冗談ではない。


 だがだからと言って打開策は浮かばないし情報が乏し過ぎる。これでは行動しようにも指標がなくて動けたもんじゃない。


 このままではいけない。いつか必ず発狂する。


 私は取り敢えず余計な思考を振り払い、遠近感が掴めない真っ白な空間を、意識という漠然とした状態で出来ているのかわからないままに、前に進む事にした。


 視界……と言って良いのか分からないが、それがハッキリ何かを捉えてくれ、と願いながら……。

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