第一章:精霊の導きのままに-2
こうなるとジャックが付いて来たいと言う理由も気になる。クイネ程の情熱があるかはわからないが、一応聞いてみるか。
「所でジャックは何か理由があるのか?」
「…………へ?」
なんだその魂が抜けた様な返事は。さてはコイツ質問されると考えてなかったな。
「何か理由があるから付いて来たいんだろ? それとも単純にクイネの付き添いだったりするのか?」
「い、いえ!! ぼ、僕は……」
ジャックはそう言うと手に持っていたナイフとフォークを静かにテーブルに置き、そのまま俯いてしまう。
おいおい……。そんなに話し辛い事か? 別に興味本位で聞いただけでそこまで深い意味はないんだが……。まあ、クイネの話の後じゃハードルが高くなっている感じは否めない。
「取り敢えずなんでか聞いただけだ。深く考えるな」
「は、はい。僕、ドワーフの鍛冶を見てみたいんです」
…………まあ、概ね予想通り。私も少し期待してしまっていた。これはイカンな、うん。
「僕、仕事上剣とか防具とかをよく見る事があるんですが、たまにドワーフ製のそういった物を見る機会があるんです」
……ん?
「ドワーフ製の剣や防具は、僕達人類が作った物よりも圧倒的に質や性能が良いんです。耐久性や斬れ味は勿論、施された装飾や細工、デザインに至る全てで人類の鍛冶技術はドワーフのそれに遠く及びません」
──ジャックは現在、この街の商会に属している。この街の中では一番信頼を集めている商会であり、また貿易都市として栄えているこの街の要だ。
そんな商会で主に経理の仕事をしているジャックなのだが、どうやら金勘定より武器や防具に興味が湧いているらしい。
「僕はそんなドワーフの技術が知りたいんです。あ、別に、その……、鍛冶師になりたい訳では決してないのですが……。知識として興味がある、というか……。兎に角知りたいんです!」
「よし、わかったいいぞ」
「えっ!?」
なんだ今度は。断られるとでも考えていたのかコイツは……。
「えっ、お前……。来たいんじゃないのか?」
「あ、いえ、すみません! 行きたいです!」
「なら決定だ」
コイツには割と世話になっていたりする。商会に流れてくるスクロールや便利そうなスキルアイテムなんかを斡旋してもらったりが主だが、私にとっては充分に役に立ってくれている。
因みにマルガレンに与えたいくつかのスキルアイテムも、ジャックに頼んで探してもらった物だ。
さて、ではドワーフに会いに行くメンバーはこんなもんだろう。後は差し当たって予定を決めて、
「私も!! 私も付いて行きたいです!!」
…………なにやら不穏な声が聞こえたがきっと幻聴だろう。まったく、さっきの連戦の疲れがまだ抜け切れていないとはいえ幻聴まで聞こえて来るとは……、鍛錬不足が否めないな。
「クラウン様クラウン様!! 無視しないで下さい!! 私も連れて行って下さい!!」
…………はあぁ……。
「駄目だ」
「え、なんで!? なんで私は駄目なんですか!!」
「アーリシア。お前、自分が教皇の一人娘なの忘れているだろう」
「わ、忘れてなんか……」
「普通、教皇なんていう立ち場の人間の娘はそんなポンポン気軽に外に遊びに出掛けられない筈なんだがな? そもそもの話、この場に一人でいる事自体が割ととんでもない事だ。自覚、無いだろ」
「わ、私は、布教をしに……」
「していないよな? 何年か前には度々してたが、ここ数年──少なくとも私が知る限りじゃ布教活動していないよな?」
「え、ええと……」
「まあ、何をどう父親を言いくるめてここに来ているのかは私は知らんし、百歩譲ってそっちが問題無いと判断してるならばここに来るのは構わん」
「なら!」
「だが一緒に遠出するのは駄目だ。連れて行かん」
「だからなんでですか!?」
「お前みたいなガラス細工以上に慎重に扱わなくちゃならん奴を見知らぬ土地に連れて行けるか! 何かあったら私は責任なぞ取れん。それくらい分かれ教皇の娘!」
私がそこまでまくし立てると、アーリシアも流石に頭で理解したのかそのまま黙る。だがその表情は悔しさと無念さが入り混じった様に暗い。頭では分かっていても気持ちが付いて来ないのだろう。まったく……。
「なあアーリシア」
「はい……」
「せめて自衛出来る術を身に付けろ」
「へ?」
「そして父親に嘘偽り無くこの話を伝えて、その上で許しを貰え。最低限この二つが確認出来なければ連れては行けない」
「じゃ、じゃあその二つをクリアすれば……」
「ああ、連れて行ってやる」
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