第一章:精霊の導きのままに-3

 他人が聞けば甘やかしている様に聞こえるだろう。周りから見れば私が優しく映るかもしれない。


 だが、決して私は甘やかしだとか優しさだとかでアーリシアの同行を限定的に許可した訳ではない。


 第一に、私はアーリシアの父親である教皇が単純に許可しないと考えている。


 直接会ったりした事がない以上、前にアーリシアから聞いた私の中の教皇像は甘やかしだが線引きはキッチリしている印象だ。


 今回遠出する目的地をまだ姉さんから聞いてはいないが、ドワーフが鍛冶をやっている店を私は近くでは聞かないし、王都にもない筈。もしあったのだとすれば私が見逃がす筈がないからだ。


 となると馬車の旅で三週間〜一月程度と見積もって考えた場合、甘やかしの教皇も流石にそんな日数大事な大事な娘を見知らぬ男に預けようとは考えないだろう。


 故に私は教皇が許可をしないと予想している。


 そして第二に、自衛する術を身に付けられる時間が単純にないという話。


 今から大まかな予定を決め、そこからスケジュールを煮詰める訳だが、大雑把に長くても一週間〜二週間以内には出発出来るだろう。そんな日数で私が納得する様な自衛手段を身に付けるのは至難。


 普通の人間ならばそんな短い日数で自衛出来る程の術は身に付かない。


 まあ、不安があるとすれば「救恤の勇者」であるアーリシアが思わぬ力を発揮し、解決してしまう事態だが、そんな都合良く新たな力に目覚めるなんて下手な展開はまず無いだろう。フラグっぽくなってはいるが現実として可能性は低い。


 もし、そんな二つの要素をこれから決める期限までにこなせるのであれば、私も腹を括ろう。努力を買って連れて行く。


 それに今は大雑把にだけ決めている今後のプランに於いてもこの条件は有益に働く。主に自衛手段にだが。


 ふと考え事を切り上げアーリシアの方に改めて視線を動かすと、その顔はまるで一筋の光明が差したとばかりに明るくなり、こちらに笑顔を向けて来る。


「ありがとうございますクラウン様!! 私、頑張りますね!!」


「……ほどほどにな」


「はい!!」


 コイツは本当、もう少し物事を色々考えてくれれば、好かれる事だってやぶさかじゃないんだ。色々な意味で欲望に正直なのは良いんだがなあ……。私の好みとは違う。


 私の好みは姉さんの様な人か、もしくはもっと理知的で静かでお淑やかな──


「話はまとまったか?」


 おっと、そんな姉さんからお声が掛かった。


「はい、大体は」


「そうか、なら詳細な情報を教える。分からない部分は分かる範囲で答えるから安心しろ」


 姉さんがそう言うとクイネ、ジャック、アーリシアは聞き逃さないよう耳をそばだてる。


「場所は王都から更に南西に行った場所にある「鉱山都市パージン」。この街は様々な鉱物の産出地であり、数多くの武器、防具鍛冶がいる事で有名だ。南にあるドワーフの国との国境沿いにあり、彼等と私達人族の橋渡し的な場所でもある」


 ふむ、本で読んだ事があるな。確か、パージンとドワーフの国を横断する形で鉱山が出来ていて、そこを両国で均等に使い分ける。そんな感じの条約を結んでいた筈だ。


「私が紹介するつもりの弟子は恐らくパージンにある工房をそのまま受け継いでいる筈。今回お前達にはそこに行ってもらうわけだが……」


 ここカーネリアからパージンまでの距離は割とある。それなりの旅支度をせねばならないが……。


「ここからまずは王都へ向かう。王都で必要な物を買い、そこからパージンへと向かってもらう。日数にして約三週間。なかなかの長旅になるぞ」


 三週間か……。まあ、私は学校を休学するとして、クイネ、ジャック、アーリシアは少し厳しいの日数ではあるな……。


「さ、三週間! 長旅!」


 そんな心配をよそに、アーリシアの目は爛々と輝き、まるで旅行間近の子供の様。最早既に条件をクリアしているかの様な反応だが、本当にこなせるつもりなのだろうか?


 私はそんなアーリシアに小さく短い溜め息を吐き、ふと、壁際にある柱時計へと視線を移す。


「お、そろそろ時間か」


「ん? 時間? …………おお! そうだなもうじきだな!」


 私と姉さんは二人にしか通じないやり取りをする。するとその他の皆が何事かと不思議そうにこちらを伺う。


「なんです時間って? 何か予定でもあるんですか?」


「予定……ではないが、大事な用事だ」


 そう、これから私と姉さんは大事な大事な用事がある。まあ、用事と言ってもちょっとしたイベントみたいなもの。皆が注視する程ではない。


「用事……ですか。差し支えなければ、何が起こるのか、教えてくれませんか?」


 何、本当に大した事じゃない。ただ──


「天使がやってくる。それだけだよ」

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