第三章:草むしり・前編-2

 

「…………」


 ムスカと名付けた蝿の使い魔ファミリア


 体長は約四、五十センチ。蝿と呼ぶには余りにもデカく、その大きさ故に本来なら図鑑や資料などでしか分からないような蝿特有のディティールがハッキリ解り、更には私が望んだ結果なのか、所々が禍々しく変形していた。


『ほう。これはまた力強い姿をした存在に変異したのだな』


 ん? 知っている風な口振りだな。


「なんだ。驚かないんだな? 直属の部下が異形に変異したというのに」


『見るのは初めてだが、我々精霊が〝魂の契約〟をした場合、往々にしてそうなる場合があるのは知っている。まあそれも、別のコロニーからの連絡からだがな』


 成る程。確かに精霊が〝魂の契約〟をしたという話は少ないがいくつか本に纏められていた。多少の脚色はあるだろうが、主精霊の言うそれが、本の内容の一部となっているのだろうな。


 と、それよりだ。


「改めてムスカ」


「……」


「……返事をしろ」


 ムスカは私の声にハッとなった後に辺りを慣れないような挙動でキョロキョロと見回してから私の方を向き直る。


「あ……あ、ああっ。も、申し訳ありません……」


「構わん。それでムスカ。調子はどうだ?」


 そう言われるとムスカは自身の身体を動かしながら具合を確かめつつ、どう変化しているのかをつぶさに確認した。


「はい。問題ありません」


「感想は?」


「そうですね……。この姿は、ハエ、ですか?」


「そうだな。森で見掛けた唯一の生命と同じ姿になったとは、少し皮肉が利いている」


「皮肉? いえいえ、そんなとんでもない。この姿は元「暴食の魔王」に脅かされたこの森の中で強かに生きていた生命です。これ以上相応しい姿も、そうそうないでしょう」


 ムスカはそこまで言うとその場で飛び回ってみせる。


 その瞬間私達の周りに強めの突風が吹き荒れた。


 それはムスカの背にて高速で羽ばたかれる翅が巻き起こした突風であり、そんな翅によってもたらされるムスカの飛行速度は最早測り知れない。


 なんせ《動体視力強化》や《反射神経強化》などで強化された私の視力でさえ殆ど追うことが出来ず、その姿を残像程度にしか追う事が出来ない。


「……凄まじいな」


 私がそう小さく呟くと、そのタイミングでムスカは私の前で急停止し、前肢と中肢を使って身体を掃除するような動作をする。


「この身体は素晴らしいです」


「ふふっ、そうだな。では確認としてお前の能力を見させてもらおうか」


 そう一応の確認を取った後、ムスカに対して《解析鑑定》を発動させた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 個体名:ムスカ

 種族:魔蟲

 状態:健康

 所持スキル

 魔法系:《地魔法》《風魔法》《空間魔法》《幻影魔法》

 技術系:《短剣術・初》《短剣術・熟》《大槌術・初》《大槌術・熟》《大鎌術・初》《大鎌術・熟》《爪術・初》《爪術・熟》《弓術・初》《弓術・熟》《杖術・初》《杖術・熟》《投擲術・初》《窃盗術・初》《窃盗術・熟》《暗殺術・初》《暗殺術・熟》《隠密術・初》《隠密術・熟》《細工術・初》《変装術・初》《変装術・熟》《ニ連撃ダブルスラッシュ》《瞬斬撃ソニックブラスト》《双瞬連斬ソニックツインブラスト》《飛墜閃ダイビングスラッシュ》《背旋斬バックスラッシュ》《背影斬シャドウスラッシュ》《麻痺刺突パラライトラスト》《麻痺斬撃パラライスラッシュ》《弱点刺突ウィークトラスト》《影討ち》《爆砕撃フルクラッシュ》《地砕衝ランドクラッシュ》《地烈衝ランドバニッシュ》《地隆壁ランドウォール》《地縛撃シェイクバインド》《堕落裂きフォールンサイス》《刈薙オーバーアウト》《鎌鼬》《六爪撃ヘキサクロー》《毒爪撃ポイズンクロー》《回転爪サークルクロー》《連回爪撃スパイラルクラッシュ》《地烈爪ランドクロー》《闇夜討ち》《意識逸らし》《弱体偽装》《存在隠し》《無動の静粛》《強力化パワー》《剛力化ストレングス》《防壁化ガード》《鉄壁化ディフェンス》《高速化ハイスピード》《器用化デクステリー》《集中化コンセントレーション》《無心化イノセント》《消音化サイレント》《影纏シャドウスキン》《見切り》《緊急回避》《速読法》《暗視》


 補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《魔力補正・I》《魔力補正・II》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《防御補正・I》《防御補正・II》《抵抗補正・I》《抵抗補正・II》《敏捷補正・I》《敏捷補正・II》《集中補正・I》《集中補正・II》《集中補正・III》《命中補正・I》《命中補正・II》《器用補正・I》《器用補正・II》《幸運補正・I》《幸運補正・II》《斬撃強化》《打撃強化》《衝撃強化》《破壊強化》《射撃強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《遠近感強化》《環境順応力強化》《免疫力強化》《咬合力強化》《視覚強化》《聴覚強化》《嗅覚強化》《味覚強化》《味覚超強化》《触覚強化》《反射神経強化》《動体視力強化》《免疫力強化》《消化力強化》《吸収力強化》《自然回復力強化》《再生力強化》《新陳代謝強化》《外骨格強化》《牙強化》《爪強化》《暗殺強化》《統率力強化》《飛行速度強化》《静粛性強化》《視野角拡大》《可視領域拡大》《胃腸拡大》《隠匿》《隠蔽》《極秘》《目星》《思考加速》《高速演算》《予測演算》《並列演算》《演算処理効率化》《魔力精密操作》《気配感知》《気配遮断》《魔力感知》《魔力遮断》《動体感知》《動体遮断》《空間感知》《空間遮断》《精神感知》《精神遮断》《罠感知》《罠遮断》《熱源感知》《熱源遮断》《危機感知》《生命感知》《遠視》《遠隔視界》《千里眼》《遠聴》《遮音》《直感》《鼓舞》《威圧》《覇気》《減重》《迷彩》《変色》《変声》《寄生》《召喚》《送還》《半透明化》《透明化》《分身化》《眷族召喚》《弱点看破》《戦力看破》《隠匿看破》《低温化》《硬牙》《鋭牙》《堅殻》《空気抵抗軽減》《重力軽減》《鍵開け》《致命の一撃》《粉骨》《疾風》《嶄巌》《激震》《炎熱耐性・小》《猛毒耐性・小》《猛毒耐性・中》《麻痺耐性・小》《薬物耐性・小》《腐食耐性・小》《腐食耐性・中》《痛覚耐性・小》《痛覚耐性・中》《疲労耐性・小》《疲労耐性・中》《睡眠耐性・小》《睡眠耐性・中》《気絶耐性・小》《気絶耐性・中》《混乱耐性・小》《恐慌耐性・小》《斬撃耐性・小》《斬撃耐性・中》《刺突耐性・小》《刺突耐性・中》《貫通耐性・小》《貫通耐性・中》《破壊耐性・小》《品質鑑定》《物品鑑定》《虚偽の舌鋒》《明哲の遠耳》《罠師の直感》《飽食》《悪食》《月》《地魔法適性》《風魔法適性》《空間魔法適性》《幻影魔法適性》


 概要:「強欲の魔王」、「暴食の魔王」であるクラウン・チェーシャル・キャッツの新たな使い魔ファミリアとなった大精霊の新たな姿。


 巨大な蝿の姿をしており、その背に生えた二対四枚の翅により高速飛行が可能。また《暴食》の特性を色濃く受け継いでおり、その力の一部を行使可能。


 この蝿の姿はこの色濃く受け継いだ《暴食》と大精霊だった頃の生命に対する印象、そしてクラウンに望まれた力を獲得する為に最適化された物である。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ふふふ」


「──? どうされましたか?」


「ふふふ……ふふふふふふ……、ふはははははははッッ!!」


「ご、ご主人様っ!?」


「ふふふはは……。そうか、ご主人様か……。そうかそうか……」


 想像以上だ。想像以上過ぎて、それが堪らなく嬉しくて楽しくて……。


 ああ……。素晴らしいな、本当に。


「大丈夫ですか? クラウンさん」


 ……ロリーナ? ……ああ、そうだな。少し落ち着こう。


「ああ。すまないな。……もう大丈夫だ」


 軽く深呼吸をし、内から湧いてくる感情をなんとか抑え込む。


「わたくしの能力、どうでしたか?」


「ん? ああそうだな。……結論から言ってしまえば、今まで見た中じゃ最強だろう。この森で戦った五体の魔物より遥かに強い」


「はあっ!? ま、マジで?」


 背後でムスカの姿に呆然としていたティールが突如としてオーバーなリアクションを伴いながらそんな事を叫ぶ。


「そうだな。だがそれは能力だけ見ればの話だ。その場の環境や状況。経験値なんかを加味すれば分からなくなる」


「な、なるほど……」


「まあ、それを差し引いてもムスカの能力は凄まじい。特に隠密や潜入に特化したスキル群は目を見張る。まさに私が望んだ存在だ」


 そう。この能力があれば今王国に潜入しているであろう何十人といるエルフ共を探し出し、更にはそいつらから情報を引き出す事だって出来る。


 寧ろムスカの能力でエルフの国からすら情報を盗み出せる……。ふふふ、これは帰国してからが楽しみだ。


 と、そんな可能性を考えていると……。


『確認しました。個体名「ムスカ」との〝魂の契約〟が完了しました。これにより個体名「ムスカ」が使い魔ファミリアとなりました』


『確認しました。補助系スキル《大精霊の加護》を獲得しました』


『確認しました。補助系スキル《魔使いの機敏》を獲得しました』


『確認しました。補助系スキル《司令塔》を獲得しました』


 そんなアナウンスが頭に響き、思わず口元が緩む。


 追加でスキルが三つ、期せずして手に入ったのだ。そりゃ、嬉しくもなる。


 一つ目は大精霊を使い魔ファミリアとした影響だろう。二つ目、三つ目は使い魔ファミリアを手に入れた事による結果……。ふむ。使い魔ファミリアを二体以上使役するメリットも無くはなかったというわけか。悪くない。


「どうしたクラウン?」


 そんなティールの言葉に少しハッとする。《思考加速》で思考時間が短くなっているとはいえ止まっているわけではないからな。急に黙り出したらそりゃ気にされるか。


「ちょっとした考え事だ、気にするな。……所でムスカ──」


 私には一つ、気になっている事がある。


 まあそれが問題になっても最早どうしようも無いが、私達の間に深い溝となってしまっては後々足を引っ張りかねない。故に確認する。


「お前は私の魂に触れ、私の〝素性〟を全て知った筈だな?」


「はい」


 私の素性──即ち私が「強欲の魔王」であり、そして新たな「暴食の魔王」でもあるという紛れもない事実だ。


「強欲の魔王」である事はこの際置いておいて、ムスカは大精霊時代にかつての「暴食の魔王」グレーテルに恨みを抱いている。


 今はグレーテルは私が滅ぼしこの世から居ないが、今はそんな「暴食の魔王」は私だ。大精霊の恨みが私に向いていても不思議ではない。


 私はグレーテルから《暴食》を受け取る際、奴の〝罪〟も貰ってやると宣言した。


 奴が犯した罪は私に受け継がれている。ならばムスカが抱く恨みは、私が買うべきだろう。


 それが私がグレーテルと交わした「継承」だ。


「私が憎くはないか? お前が望むのであれば、相応の償いをしよう」


「──? 仰っている意味が……」


「私は奴から〝罪〟を受け継いだ。ならばお前が奴に抱く恨みもまた──」


「ああ、なるほど。……恨みが消えているわけではありませんが、それを貴方様に向けるつもりは微塵もありません」


「……」


「恨むどころか、わたくしは貴方様に感謝しているのですよ? 恩返しこそすれ、恨むなど……」


「本当にいいんだな?」


「構いません。例え貴方様が何者であろうと、わたくしは貴方様の忠実なる使い魔ファミリア。この新たな命の一片まで、貴方様の為に使います」


「そうか。お前の決意、しかと受け取ろう」


 私は改めてムスカに向き直り、ムスカの肩──と言っても肩と呼べる部位はムスカには無いが──に手を置き、その巨大な複眼を見据える。


「お前の詳しい能力確認は帰ってからじっくり行おう。取り敢えず今は私の中に居るシセラに挨拶して待機だ」


「はい。了解しました、ご主人様」


 ムスカはそう返事するとその体が暗黄色に輝く光球に姿を変え、シセラが私の中に戻る時同様、私の胸中に吸い込まれていった。


「よし。これでこの森ですべき事は全て片付いた」


 私は振り返り、ロリーナ、ティール、ユウナを見遣る。


「三人共、ひとまずお疲れ様だ」


「はいお疲れ様です」


「やっっっっっと終わったぁぁぁぁぁぁぁ……」


「解放ですっ!! この地獄からっ!! ようやくっ!!」


 ロリーナは優しく微笑んで私に返し、ティールはその場に座り込みながら盛大に溜め息を吐き、ユウナは頬を紅潮させながらその場で嬉しそうに何度も飛び跳ねる。


「後は野営地を片付けて馬車で帝都帰るだけだ。と言っても、帝都までの道のりも油断して良いものではないがな」


「えっ、お前のテレポーテーションで帰るんじゃないの?」


「勿論そうするが、それは帝都に着いて出国手続きをした後だ。これをやらないと違法出国で後々面倒になる」


「な、なら帝都前に転移すりゃ……」


「馬車ごとの転移は然しもの私も大量に魔力を消費する。それに連戦続きな上一週間以上寝ていない今の私では万が一に失敗しかねない」


「マジかよ……」


「ああマジだ。だから数時間程、馬車の中で仮眠させてくれ。その間に多少馬車で移動してくれれば転移距離も節約出来るしな」


「おう、なるほど。分かった」


 珍しくティールが変にゴネたりしない事に少し驚く。


 するとそんな私に気が付いたのか、ティールは目を潜めて軽く溜め息を漏らす。


「お前なあ。いくら俺でも一番疲れてる奴を寝かせもせず働かせねぇよ……」


「いや、私はスキルで基本的には疲労感や眠気はある程度なら──」


「違う違う、そうじゃねぇっ! こっちが見ててたまれなくなんのっ!! さっきお前も言ってたけど、連戦だった上一睡もしてないんだぞ!? そんなのこっちが気に病むっつの」


「……成る程」


 私のテレポーテーションに頼りっきりなのにか?という野暮な皮肉が浮かんだが、そっと飲み込む。


「そうっ! だからまあ、数時間寝る事くらいに文句なんて言わねえよ」


「わ、私も同じです! 少しくらい寝て下さい!」


「勿論私も異論はありません。寧ろ数時間と言わず、一日寝ていても大丈夫ですよ?」


 三人が三人共私を労わろうとしている。


 胸の内から妙に暖かな気持ちが湧くのと同時に、私が元老人だからなのか「労られるほど老いてない」なんて無粋な考えが一瞬だけ浮上する。


 まったく。折角の若い肉体なのだから、そんなジジ臭い考え、せんでも良いものを……。


 まあ、兎に角。


「流石に一日は遠慮する……。じゃあ、帰るか」


『待て』


 野営地まで転移しようとしたその時、背後にいた主精霊が私を呼び止め、何の用かと振り返る。


「どうした?」


『いやなに。改めて礼を言おうとな。……此度は本当に助かった。感謝する』


「構わん。ただの利害の一致だ」


『ふん。貴殿も素直ではないな。……どれ、一つ土産話をしよう』


「土産話?」


 なんだ? 今更これ以上何か厄介事があると明かされても対応し切れないぞ。


『まあそう構えるな。……此処こことは別のコロニーで一つ、少し異常が起きている場所がある』


「異常だと?」


『詳しくは我にも窺い知れぬが、何やら閉じ込められているらしい』


 閉じ込める? その言い方だと人為的な手段によるもののようにも聞こえるが……。


『魔力の制御自体は問題無いらしいが、力の一部を利用されている、と向こうの主精霊は嘆いていたな』


「場所は分からないのか?」


『人族達の地理には明るくない。だが、そのコロニーは我々精霊にとっての最重要地点──その片割れだ』


「片割れ? それに最重要地点とは……」


『コロニーは一種族が治める地に二つずつ存在している。貴殿なら、分かるのではないか?』


「ふむ。まだ情報は少ないが、余裕が出たら気にしてみよう」


『それで構わん。先程言ったように、閉じ込められているといっても魔力制御自体に悪影響は出ていない。火急の用ではないから急がんでも良い』


「だがいずれ行かなければならないからな。シセラの為にも」


 このコロニーに寄ったのは勿論使い魔ファミリアや魔物狩りも目的だったが、第一目的はそもそも私の中に居る微精霊に各所にあるコロニーで霊力を注ぐ事、だったからな。


 他のコロニーにもいずれ立ち寄る事になるだろう。コロニーの情報はあるだけ欲しい。


『引き止めて悪かった。さあ、もう帰りなさい』


 主精霊はそう言うと、眩い光の中に消えて行った。


「……終わったか?」


「ああ。気を取り直して帰るぞ」


 私は全員に私の手に触れられるよう前に出した。


 ______

 ____

 __


 クラウンの中。《蒐集家の万物博物館ワールドミュージアム》内、シセラ自室。


「お久しぶりですね。シセラ」


 ムスカはシセラの前まで来ると、器用に頭を下げて挨拶する。


「この度ご主人様の新たな使い魔ファミリアとなりましたムスカと申します。何かとご不便をお掛けするかと思いますが、よろしくお願いいたします」


「改めまして、シセラよ。そんなに畏まらなくて良いんですよ。私達はクラウン様に忠誠を誓う者同士。互いに協力しあって、クラウン様のお役に立ちましょう」


「はい。ありがとうございます」


 赤黒い毛並みの猫に、暗黄色に照る外骨格を持つ巨大な蝿が互いに挨拶し合うという奇妙な風景ではあるが、この二匹共に元は同じ精霊。不思議と何か通じ合うものを、互いに感じていた。


「……それが、くだんの微精霊ですね」


 ムスカが視線を向けた先に居たのは、淡い光を放つ小さな光球。


 その輝きは以前より増してはいるものの、まだまだ弱々しく、優しく接さなければたちまち消えてしまうのではないかという程に儚い。


「まだまだ未熟です。ですがいつか必ず、この子を立派な主精霊にしてみせます」


 シセラはそう言うと微精霊に優しく寄り添い、愛おしそうに眺める。


「……わたくしが触れてしまっては、傷付けてしまうかもしれませんね」


 ムスカはそう言うと自身の前肢を眺める。


 彼の手脚は鋭利な外骨格と鉤爪によって形成されている。下手に弱々しい微精霊に触れれば、容易に傷ついてしまうだろう。


「……触れてあげて下さい」


「え。よろしいのですか?」


 驚くムスカに、シセラは首を振る。


「貴方にも触れて、この子を感じて欲しい。それにそうやって遠巻きにされていたら、この子も貴方も可哀想ですもの」


「……なら」


 ムスカはゆっくり微精霊に近付くと、その前肢に極力力を入れないよう慎重に微精霊に近付け、ソッと触れる。


「……暖かい」


「ふふ。でしょう? この暖かさを、私は守っていきたい。協力してくれますか?」


「はい、勿論です。わたくしの全力を持って、守ってみせましょう。この儚い、命を……」


 ムスカの中に、小さいながらも新たな光が宿った。


 __

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