第四章:容赦無き鉄槌-6
ふむ……スキル二つか。まあ、上々だろう。贅沢を言えば《見切り》が欲しかった所だが、こればかりは仕方ない。
さあて、じゃあ。
…………あ゛ぁぁぁ……疲れたぁぁ……。
私はおもむろにベッドへダイブし、その上でゴロゴロと転がる。嗚呼、癒される。
実の所、天声にアラームで起こされてからずっと緊張しっぱなしだった。色々と準備やらシュミレーションやらをして来てはいたのだが、まさかこんなに疲れるとは想定外だった。
そもそも来るのが早過ぎる。たった三日って……どんだけ父上に仕返ししたかったんだあのバカ貴族。
……だが、妙だ。いくら仕返しをしたいからといってプロを雇わずにワザワザ従者のハーボンをあんな中途半端な暗殺者にして暗殺を企てる意味がわからない。
何より父上の目の前で姿を一度見せている従者を使った。仮に暗殺に失敗し、その場で父上に顔を見られていれば首謀者がスーベルクだと言っているようなもの。そんな馬鹿な事を何故……。
うーむ、これは考えていても仕方がないか?解決すべき事案ではあるが、今持っている情報だけでは判然としない。ここはやはり
奴だって貴族。どういう訳でハーボンを暗殺者として送り込んで来たのかは兎も角、次に何をして来るかわかったもんじゃない。それこそ今度こそプロの暗殺者を送り込んでくる可能性もある。
なんならもっと厄介な……例えば適当な不正の証拠をでっち上げられて領主を追われる事だって無くはない。
そんな取り返しの付かない状況になる前に、早期にこの面倒ないざこざを解決しなければならない。その為には奴の不正の決定的な証拠を見付けて手に入れる。そしてそれを父上に活用してもらわねばならない。
ではどうするか? まあ、直接乗り込むしかないだろうな。奴の不正の証拠が眠る〝根城〟に……。
そして奴を、ドン底に叩き落とす。容赦なく、徹底的に……。
と、流石に眠くなってきた。《結晶習得》で魔力をかなり使ったせいで余計に疲れたのもあるが、やはり大人相手に立ち回るのはかなりキツい。
寝る前にさっき獲得したスキルの詳細を確認しておかないとな。さて《解析鑑定》発動。
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スキル名:《
系統:技術系
種別:スキル
概要:練り上げた魔力を肉体へと還元し、一時的に静粛性を高める技術。発動終了後に倦怠感を伴い、再使用までに五分を要する。
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スキル名:《
系統:技術系
種別:スキル
概要:暗がりに身を潜ませ視認を妨害する技術スキル。影が発生している箇所に身を潜ませる事によって他者からの視認を妨害する事が可能。影の濃さによってその視認率は変動する初歩的な隠密系スキル。
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ほうほう。これはなかなか便利なスキルが二つ。暗殺者向けというよりは潜入に役立ちそうだな。これは丁度良い、さながらスーベルクからのプレゼントだな。敵に塩を送っているなんて知る由も無いんだろうが……。
さあて、確認も済んだし。寝るとしますか。今日は熟睡出来そうだ……。
そしてその翌日。私の身体は動かなかった。
…………ん? もしかして、予想以上に身体を酷使し過ぎたのか?
身体は痛くない。ただなんというか、まるで関節が錆びて動かなくなった様な、そういう感覚。これは一体……。
そうやって私が混乱していると、私の自室に少しずつ近付いてくる足音が聞こえる。この足音……物凄く聞き覚えがある。赤ん坊の頃から、この少し忙しない足音は変わらない。
そうある種の安心感を感じていると、足音はドアの前で止まり、そのまま勢いよくドアが開け放たれる。そこに立っているのは朝日に爛々と輝く深紅の髪をたなびかせる美少女、我が自慢の姉ガーベラだ。
「どーしたクラウン!? 朝の修行に顔を出さないと思ったら寝坊か!? お前にしては珍しいな!!」
姉さんはどこかニヤニヤと口角を上げながらそう私に問い掛ける。普段品行方正でいる私が寝坊しているのを見て何やら得意気である様だが、私は別に寝坊している訳ではない。
「おはよう姉さん。実は、何故か身体の動きが鈍いというか、動かないんですよ」
「何!?身体が動かないだと!? び、病気、か?」
おっと、ちょっとこれはややこしくなりそうな気配がする。ここは早々に弁解を──
「ま、待っていろクラウン!! 今父上と母上、それに神官と神父を呼んでくる!! 大丈夫だ!! 私が付いているからな!!」
そうまくし立てた姉さんはまるで嵐の様にその場から颯爽と去っていく。その動きはとても今の私の目では追えず、改めて姉さんが尋常ならざる身体能力を秘めているのを思い知らされたのだが、今はそれより……。
「ちょ、ちょっと待って姉さん!? そんな、そんな大袈裟な事じゃないから!! 姉さん?姉さん!?」
……マズイな。これは父上と母上になんて言えば誤解が解けるのだろうか? 特に父上は暗殺者を警戒していた可能性がある。そんな父上がこんな状態の私を見たらなんて誤解をするか……。
ああ、気が重い……。
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